第38話

「ごめんね、寝ているところを起こして。うどんを作ったの。これ食べて、薬飲んでからまた休んで? ……起きれる?」


 彼の視界に入るように顔を近づけ、ゆっくりと話す。

 小さく頷いた彼は、怠い体をゆっくりと起こした。


「……旨そ」

「熱いかもしれないから、ゆっくり食べて」


 枕元に置かれていた体温計。

 それを手にして、彼の耳にそっと当てる。


 ピピッ、ピピッ。

 三十八度六分。

 丸二日寝て、この体温。

 これは辛いに決まってる。


「食べたら着替える? 濡れタオル持って来るね」


 勝手に家の中を漁り、浴室に干されていた部屋着一式を取り込み、洗面室からタオルを拝借した。

 キッチンでタオルを濡らし、それをレンチンする。


 寝室に戻ると、ほぼ食べ終えていた。

 まぁ、量的にもだいぶ少なくしてあるからだけど……。


「自分で体拭ける?」

「……ん」


 食べ終わった食器を下げ、ペットボトルの蓋を開けていると。

 Tシャツを脱ぎ、上半身裸になった彼が、しんどそうに腕を拭き始めた。


「貸して、……拭いてあげるよ」

「……いいよ」

「もたもたしてると余計熱が上がるよ?」


 辛そうな彼が見ていられなかっただけ。

 体裁のいい理由をこじつけ、彼からタオルを取り上げた。


 手早く体を清拭し、Tシャツを頭に被せた。

 普段は弱みなど一切見せない彼が、意外にも子供みたいに可愛く従順だ。


 ペットボトルの水と薬を手渡し、飲み込むのを見届ける。

 よし、ちゃんと飲んだね。


「キッチンで片付けしてるから、用があったらスマホ鳴らして?」

「……ん」

「他の着替え、ここに置いておくから、着替えれそうなら着替えて」

「……ん」


 長い睫毛がゆっくりと下がり、再び横になった彼。

 消え入るような声で『ありがと』と口にした。

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