恋人の利点

第7話

「ねぇ、付き合うって本気なの?」


 居酒屋『紋』を出た私たち(つぐみと楢崎)は、“彼女をちゃんと送り届けろ”という原と瞳の命令のようなものを受け、楢崎は大通りでタクシーを拾おうとしている。


「本気っていうか、善処したつもりだけど」

「……善処、ね」


 そうだ。

 楢崎はこういう男だった。


 瞳が仕事や彼氏の愚痴を零しても、いつも顔色一つ変えずに事務的に的確なアドバイスをするだけ。

 感情のまま口にする原とは正反対で、私たち同期四人は絶妙なバランスとも言える。


 目の前にタクシーが停車し、後部座席のドアが開いた。


「乗って、送ってく」

「あ、いいよ、自分で捕まえるから」

「いいから、乗れ。こういう時は素直に甘えとけばいいんだよ」

「え……」

「こんな時間にタクシーに一人乗せるとかできねぇから。分かったら、早く乗れ」

「……あ、うん、ごめん」


 有無を言わさぬ口調に流されるまま、タクシーに乗り込んだ。


「すみません、西日暮里駅まで」


 同期会の後、何度か送って貰ったことがあり、自宅の場所も知っている彼は、当然のように最寄り駅を口にした。

 居酒屋でもそうだけど、こういうさりげなさはさすがというか。

 だから、女性にモテるのだろうなとしみじみ思う。


「ってかさ、俺らがどうこうじゃなくて、あいつらの方がよっぽどもお似合いじゃね?」

「え?」

「食の好みも合ってるしさ、会話も尽きないし。何より、愚痴が零し合えるってことは、それだけお互いに気を許してる証拠だろ」

「……言われてみれば。でも、瞳は結婚願望強めなのに対して、原はまだ遊びたい派でしょ」

「結婚したくないっていうより、そう思える相手に出会えてないだけだと思うけど」

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