第3話
「……だるい」
真っ黒な瞳がわたしを睨むから、わたしまで黒くなってしまいそうだった。一気に力の抜けた腕を簡単に振り払って、何事もなかったように歩いていく彼の姿をぼーっと眺めていくしかできなくて。
俯いて映るのは、制服同様ぴかぴかな茶色のローファー。悲しみや涙も、なーんにも浮かんでこなかった。人生マックスのきらめきは、一瞬でクライマックスを迎えた、はずなのだけど。
何の変哲もない今日この日、平々凡々なわたしにとって、人生最強の厄日、もしくは吉日だったのかもしれない。
呆然と立ち尽くして、周りの音も遠くに聞こえて、さっきまで感じていた視線を肌で感じることすらできなくなっていたその瞬間に、もう一度、“人生最大”が訪れた。
「──君、勇気あるね。名前なんていうの?」
いまのわたしの世界に、突如として入り込んできたのは、知らない声。今まで聞いたことも話したこともない声。ただ、その声色は、さっき聞いたものとは違って、低いのに心地良くて、温かみにあふれていた。安心感のある声だった。
「……
「違う、下の名前」
「
「そう、じゃあ駿花」
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