第3話 天敵・脳筋現る

「ずいぶんと細い身体だな!鍛えていないから、追放なんかされるんじゃないか?」


彼らの息子と紹介された男は、明るく元気にこう言った。

確かに彼は筋骨たくましく、背も高く立派な身体をしている。

黒髪は短く刈られ、黒い瞳もくりくりとしていて、接遇ポイントも高い。


しかし、私の頭の中で、強烈なアラートが鳴った。


「物事の解決には、まず筋肉!」

「これ、ビアトリス様が困っているでしょう。

──紹介致しますね。私たちの息子の、アラン・ルーカスです。

この地域の祭りでは、重い石を投げる距離を競う風習があります。

去年、アランはそこで優勝したのですよ」

「筋肉!」


そうか、そういうことか。

違和感の正体とは──

私は息を呑んだ。


いにしえの時代から、我らガリ勉の天敵は脳筋だった。

人類の歴史は、脳筋との戦いの歴史といっても過言ではない。

なにせ物理で殴り合ったら、必ず負けるのである。

人類は、脳筋に勝つために農耕を始め、文明を築いたと言われている。

とにかく、ハブといったらマングース、ヤン坊といったらマー坊天気予報のように、私にとって脳筋とは避けたい存在だった。


「アラン様、どうぞよろしくお願いいたしますわ」


とりあえず挨拶は人間関係の基本なので、頭は下げておく。


しかし、ここで医者としての堅実なアイデンティティを取り戻し、平穏な日々を送るためにも──この男をなるべく避けなければいけない。

小学生の時に運動ができる男子にいじめられていた前世の記憶が、そう告げるのである。


そうして、私のルーカス辺境伯の屋敷での生活が始まった。

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