第8話「初のBOSS戦」(前編)

 次の日のログイン時の事。


「これでどうだ!」


 新戦力の、銀髪に眼鏡のインテリな「ソルジャー」クレイドが、首都セルフィの南にある陽光の差す平原で、ショートスピアを構えて、突進スキル「エイムチャージ」を川べりのリザードマンに、仕掛ける。


 この「エイムチャージ」はゼクロスの持つ「パワーチャージ」より威力は劣るが、命中に強引なまでに強力な補正が付き、突進時に多少逸れても、補正で曲がるように命中する。そして、威力も普通のスキルより、それなりに高い。


 ザシュッ!


 この特攻をまともに受けたリザードマンは、胴を貫かれて、HPが0になり、黒くなってかき消えた。


「LVUP!!」


 この戦果で、LVも上がり、クレイドのソルジャーのLVが7になる。


 PT外から見守っていた、メイスに黒いローブというダークプリースト姿のローザが、感心したようにパチパチと拍手する。


「クレイド君も大分戦闘がサマになって来たわね。そろそろ最初のストーリーモードのBOSS戦、行く?」


 ローザが口元に、笑みを浮かべて提案する。


「西にある、墓場のネクロマンサーか。まだ少し、早くないか?」


 ズレた眼鏡を手で整えて、既に入念に情報サイトで下調べをしていたクレイドが懸念を示す。しかし、ローザは、


「何言ってるの。あのBOSSの適正LVは5~10っていうじゃない。しっかり装備を整えていけば、大丈夫よ」


 と言い、そして余裕の表情で続けて曰く、


「ゼクロスが実質パラディンLV15で、私がダークプリーストLV10。エリシャもレンジャーLV12で「ダブルエイムショット」を覚えているから火力もあがってるし、あなたが戦力に入った今、全然楽勝よ」


 同じくPT外から脇で見ていたエリシャも、これに同調した。彼女もメインストーリーを進めたがっているのだ。


「アンデッドは少し気持ち悪いけど、ゾンビ相手なら、私も充分戦えるし、いけるいける。いざとなったら、ゼクロスがなんとかしてくれるわ」


 クレイドが、リザードマンに苦戦するようならと、助けるつもりで彼とPTを組んでいたゼクロスは、エリシャのこの発言に、クセのある金髪を軽くかいて、苦笑した。


「おいおい、俺は確かにヘルプ系プレイは結構するけど、あまり過度に期待はしないでくれよな。プレイヤースキルはともかく、このキャラは、LV的にはまだまだで、出来る事はまだそんなに多くはないんだ」


 と、言いつつも、ゼクロスも最近の狩りに物足りなさを感じていたので「PTのみんながいいなら」と前置いて、


「最初のBOSSに挑むのも悪くないかもな。ストーリーが進めば、他のサブシナリオも出来るようになるし、BOSS戦をして、PTの連携の、いい経験になるかも知れない」とBOSS戦に意欲を示した。


 そこに水を差すように「ところで」と、クレイドがふとした疑問を口にする。


「ルーシアは連れていかないのか?メインストーリーを進めるのに、彼女をのけものにするのは、少しどうかと思うが」


 クレイドは冷静な口調で続ける。


「確かに鍛冶屋と錬金師のツインクラスのルーシアは、製造と合成を首都でしていればいいから、メインストーリーを進めなくても問題ないかとは思うが、楽勝なのなら、進めさせておきたい。僕たちは彼女に世話になっているからな」


「なるほど、それもそうだな」とゼクロスも同意して、一つの案を、ここのPT仲間に示す。


「じゃあ、フラグ立てて墓場に入ったら、俺が前で戦うから、エリシャとローザは中間で援護、クレイドは戦闘力のない、ルーシアを後方で守ってやって欲しい。それでどうかな」


「分かった。ルーシアが乗り気であれば、それでいこう。後ろは任せろ」


「いざとなったら、私も「ダークナイト」にスイッチして戦うから、大丈夫よ」


 クレイドとローザもそう答えて、ゼクロス達は、一旦首都セルフィに戻り、潤沢になったGPで、まず武器、防具屋で武具を揃えた。


 ゼクロスは、パラディンとホーリーナイトで対になるようににプレートメイル(1200G)を2着買い、ホーリーナイト用にも、ロングソード(500G)とノーマルシールド(300G)を1個ずつ購入した。これで両方のクラススイッチで、同じ装備になることになる。


 エリシャはロングボウ(500G)、ローザはチェインメイル(600G)とノーマルシールド(300G)を同時に購入。大幅な武具の充実を行った。


 クレイドは、GP不足で装備の追加は見合わせた。商人でもあるエリシャが「私が買おうか?」というと「気持ちは嬉しいが断固として固辞する。借金はしない主義だ。あれは慣れると身を滅ぼす」と少し強い口調で断った。


 そして、街外れの空き地でポーションを合成していたルーシアと合流して、この事を話すと、彼女はおどおどとした様子で、


「いいんですか?私、戦力になりませんよ?足手まといになるんじゃ…」と言ったので、ゼクロスがフォローするようにこう答える。


「ルーシアには世話になってるから、その礼代りと思っていいよ。守りもクレイドがやってくれるから、安心して」


 クレイドもここでルーシアに向かって、彼にしてはいたってにこやかに優しい口調で発言する。


「ゼクロスにはまだ遠く及ばないが、僕も力を付けてきている。しっかり護衛するからよければBOSS戦に参加してくれないか?」


 ルーシアはこの段で「分かりました。よろしくお願いします」とこれに応じた。メインストーリーが進めば、今の段階で行けないエリアにも足を踏み入れる事ができる。このPTのみんなにそこで、何らかの役に立てるかもしれないと、彼女なりに思ったのだ。


「じゃあ、ストーリーを進めるフラグを立てないとな」とゼクロスが言うと、エリシャが「そういえば、これのメインストーリーって、どんなのだったっけ?」とか言い出したので、ゼクロスは盛大にずっこけた。


「そこからかよ!」と立ち上がってツッコミを入れると、ゼクロスは「仕方ないな…」とメインストーリーを簡素に説明する。


「…人間側の光の神エイシスと、怪物側の闇の神セレーヌの、大きな喧嘩みたいなもので「怪物を生み出して操る塔」の「装置」を壊すのが、一応のストーリーの目的になっている。で、そこに行きつくには、5個の宝珠が必要で、各地で闇側のBOSSがそれを守っている訳だ。ネクロマンサーもそのBOSSの一人だな」


 ゼクロスの解説に、ローザも感心した様子であり、


「上手く簡略してまとめたわね。細部については、いいの?」とゼクロスに聞いた。


「それは、後で公式サイトで確認してもらうさ。口で全部は説明できないし、疲れるからね」


 エリシャは「説明ありがと、ゼクロス。それじゃあ行きましょうか、メインストーリーの最初のBOSS討伐!」と勢い込んで、宣言した。


「何でお前が仕切るかな…。」とゼクロスは少し、呆れたが、士気は高い方がいいので、それ以上は突っ込まなかった。


 こうしてルーシアもPTに加えて、西の墓場に居るという、メインストーリーの最初のBOSS、ネクロマンサーの「ゲルミーネ」にゼクロスPTは、幾つかのNPCとの会話でフラグを立てて、挑むことになるのであった…。




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