第9話「初のBOSS戦」(後編)

 首都セルフィで、西の墓場に出るという最初のBOSS敵、ネクロマンサー「ゲルミーネ」と戦うフラグを立てるべく、街のNPC達から、情報を集めていくゼクロス達。


 最後に被害にあったという「設定」の未亡人NPCから「夫の仇を討って欲しい」という形で、「ゲルミーネ」の出現条件を満たすと、ゼクロスのPTは、西門から出て、そのまま、まっすぐ西方向に向かった。


 平地に舗装された道をたどって歩いていくと、途中から、進むにつれ、段々夕日が落ちていき、件の墓場に着いた時には、MAPは夜になっていた。


 距離や時間はたいしてかかっていないが、そういう風に調整されているようだと、ゼクロス達には感じ取れた。


「これは酷く荒れ果てた感じの墓場MAPだな…」


 そういうゼクロスの印象通り、墓地の墓石は所々、破損したり倒されたりしており、「何か」が這い出た後もある。


 空気は濁ったように重く感じられて、おどろおどろしい雰囲気で満ちていた。


「VRでこれも、少し開発者の趣味が悪いわね。みんな、とりあえず、打ち合わせた陣形を取りましょう」


 エリシャがそういい、PTの皆は、ゼクロスがあらかじめ提案した陣形を取る。


 ゼクロスが先頭で、エリシャとローザが中間、後方はルーシアと、彼女を守るクレイドである。


「じゃあ、とりあえず、先に進もう。ここのアンデッドは全部アクティブで、襲ってくるはずだ。クレイド、ルーシアを頼むよ」


 ゼクロスに言われたクレイドは、これに真剣な表情で頷いた。


「言われるまでもない。ルーシア、僕からあまり離れるなよ」と言い、ショートスピアを構えて、周囲を警戒する。MAPの雰囲気が怖いのか、無言で頷くルーシア。


 その陣形で臨戦態勢のまま、徐々に墓場の中央に向かうと、墓石の影から腐敗したゾンビがちらほら現れて、ばらばらに襲い掛かってくる。


「出て来たな。みんな、とりあえずゾンビを蹴散らすぞ!」


 ゼクロスはそう言い、ロングソードでの「クロススラッシュ」でまずは、と1体のゾンビを倒す。


 エリシャも続いて「ゾンビ相手なら、私だって!」と買ったばかりのロングボウで気合と共に放った命中補正の非常に高い2連射スキル「ダブルエイムショット」の2本の矢でゾンビを射抜き、これを倒す。


「プリースト系も、一応白兵は出来るのよ」と、ローザもメイスで白兵に入り、打撃スキル「クラッシュ」の、メイスの重い一撃でゾンビをこれも一撃で打ち倒す。


「みんな強いな。でも、僕だって、この位の敵の相手なら出来る」


 クレイドも、ショートスピアを用いての2回攻撃スキル「ダブルファング」で、やや苦戦つつも、着実にゾンビのターゲットを取り、そして倒して、ルーシアにアンデッドを近寄らせない。


 ルーシアは、ダガーで形ばかりの「パリィ」に入る。


 戦闘で減ったクレイドのHPは、ローザが「ヒール」ですかさず回復させる。ローザ自身も白兵戦をしながら、クレイドにヒールをかける支援の手並みは、さすがのプレイヤースキルの高さといえた。


 そして、ゾンビやスケルトンを10体程倒した辺りか、出現条件通りに、目的の「BOSS敵NPC」は現れた。


「愚か者め、亡者に喰われて果てるがいい」


 と、ややエコーのかかった声と共に、青白い肌に腰まで届く赤い髪、紅い眼をして、黒いローブに帯剣をした、女性魔族のBOSS敵NPCである、ネクロマンサーの「ゲルミーネ」が、青白い炎と共に出現した。


                      ☆


 ゲルミーネが剣を抜いて、横に振るうと、倒れたはずのゾンビが次々と復活して起き上がる。


 PTの他の皆が一斉に復活したゾンビを相手にしているので、ゼクロスは、このゲルミーネを一人で相手する形となった。


「冥府に案内するわ」


 BOSS敵NPCのゲルミーネはエコーのかかった声でそう言い、ゼクロスに「スラッシュ」で斬り込んでくる。その斬撃は鋭く、LV15であるパラディンのゼクロスのHPの3割を持っていき、ゼクロスは「クロススラッシュ」で反撃するが、やや押され気味だ。


(意外と強いな…。少し早いが、あれをやるか…)


 ここでゼクロスは「奥の手」を使う。戦闘中に「パラディン」から「ホーリーナイト」にクラススイッチしたのである。光がゼクロスを包み、一時無敵時間が発生して、ゲルミーネの「スラッシュ」を空振りさせる。


 そして、ホーリーナイトLV10に「スイッチ」したゼクロスは、クラススイッチ効果でHP、SP、MPが全快して、ホーリーナイトのスキル、魔族やアンデッドに対して効果の高い「聖光剣」で反撃に出る。


 このスキルは「ダークナイト」のスキル「暗黒剣」の対になるような斬撃スキルで、魔族、アンデッドに対してのみではあるが、命中すると力や速さ等のステータスを減衰させ、さらに絶大なダメージを与える事が出来る。反面、SP、MPの消費は多めではあるが。


 ズシャアッ!


 ゼクロスがこのスキルよってロングソードに輝く光を宿して、ゲルミーネを袈裟斬りにすると、ゲルミーネは、HPの値自体は高くなかったのか「聖光剣」の絶大なダメージのおかげか、一撃でHPが0になり「グォォォォォ」と断末魔の叫びをあげて、倒れ伏し、黒くなってかき消えた。


 BOSSである「ゲルミーネ」が倒れると、復活していたゾンビの群れも、全部崩れ落ちて、黒くなってかき消える。


「LVUP!」


 BOSSのゲルミーネを倒したので、ゼクロスのPT全員のLVが上がり、HP、SP、MPがみんな全快する。


 ゼクロスは、このゲームを甘く見ていたのと、データの推奨LVがあまり当てにならない事を悟った。


「思ったより手ごわかったな。これだと、つぎのBOSS戦は、結構強くならないときついかもしれないな」


 ゼクロスは、率直な感想をPTのみんなに告げる。


 白兵と支援に回っていたローザも「敵の数がとにかく多かったわね。少し、歯ごたえがあったとはいえるかもしれないけど」とほぼ同意見のようだ。


 そして、PT全員にイベントアイテムの「黒い宝珠」が自動でアイテム欄に入る。(売却、破棄不可になっている)残念ながら、レアドロップは無かったようだ。


 この後、首都セルフィの街に帰還して、PTリーダーのゼクロスがNPCの未亡人に報告すると、ゼクロスが代表で、報酬として多少の防御力の上がる「守りのペンダント」を受け取った。


 これにより、ゼクロスPTのメインストーリーでの最初のBOSS戦はやや苦戦をした形で終了した。


               ☆


 いつもルーシアが合成をしている、セルフィの街の外れの空き地で、ゼクロスは達は、BOSS戦を振り返った。


「とりあえずは、いけたが、思ったよりBOSS敵は強いようだ。次のBOSSに向けて、またLV上げしないとな」


 ゼクロスが言うと、エリシャも、思案顔で感想を述べる。


「こう乱戦が続くと、私も弓だけじゃなく、剣も使わないといけなくなりそうね」


 といって、ショートソードを帯剣して白兵戦も考慮する感じである。


 クレイドはいつもよりさらに真剣な表情になり、


「僕も、もっと強くならないと、ゼクロス達についていけなくなるな。もっとLVを上げなくてはな」とさらなるやる気を見せた。ゲームは初心者だが、向上心自体は高いのだ。


 ローザは少し茶化すように「クレイド君もだいぶ戦闘に慣れてきてるから大丈夫よ。見た感じだけど、筋はいいし、まだ「ウィザード」のLVも上げていないから、そっちの方面でも活躍できるかもね」


 これに対してクレイドは、眼鏡のズレを手で直して、持論を展開する。


「それも試してみたいところではあるが「ソルジャー」のLVが落ち着いてからにするよ。皆に追い付くには、「ソルジャー」一点に集中して、LV上げするのもいいといえるからね。それにゲームとはいえ、ゼクロスばかりにいいところを持っていかれたくないしな」


 ここで、初めてルーシアが発言する。


「でも、クレイドさんもカッコ良かったですよ。私には、敵はこなかったですし、しっかり守ってもらいました。おかげでメインストーリーも進みました。ありがとうございます」


 ルーシアがにこにこと愛らしい笑顔で一礼して、そういうと、クレイドは少し赤くなったが、すぐに頭を振って曰く、


「いや、僕の腕はまだまだだよ。幸い今日は皆に助けられたから、上手く切り抜けられたけど、主に活躍したのは、ゼクロスとローザのようだからね。ぼくも負けてはいられないな」


 このクレイドの発言に、エリシャは少し呆れ気味に、


「やる気があるのはいいけど、この二人とあまり張り合わないほうがいいわよ、ゼクロスとローザはVRゲームしまくりでプレイヤースキル、バリバリみたいだし」


 そういって、今度は笑顔になってこうも言う。


「それにPTは助け合いよ。足りない所は補い合って、明るく楽しくね。せっかくなんだしここでの冒険を満喫しましょう」


 …こうして、ゼクロスのPTは、無事にメインストーリーの最初のBOSS、ネクロマンサ―の「ゲルミーネ」を撃破した。


 しかし「推奨LVの割には、意外に苦戦をした」とゼクロスが言ったように、このゲームの難度は、そう甘いばかりのものでもないようだった。


 さらに先に進むには、さらなる戦力UPに努める必要があるのは、ゼクロスのPTの、誰もが思うところでもあった…。





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