第7話「もうひとりの幼馴染」

 ゼクロスのプレイヤー、闇雲玄人(やみくもくろと)はリアルでもう一人の幼馴染、明智誠人(あけちせいと)に、誠人の整然とした、本棚だらけの部屋で、彼に頼み事をする。


「頼む、俺と一緒に、VRMMOで、冒険してくれないか?」


 しかし、眼鏡のインテリ、誠人の返答はすげないもので、


「断る。僕がゲームが好きでないのは、お前も知っているだろう。あんなものは、時間の浪費だ」


 理論派の誠人は、玄人の頼みを断るが、玄人の「どうしても、だめか?」と懇願するような視線を受けて、訳を聞く。


「というか、なんで僕なんだ?ゲーム好きなら、他に幾らでもいるだろう」


 これに、玄人は即答して「お前が、信頼できるからだ」と答えたので、誠人は無下にできなくなり、


「…詳しく話せ」


 と状況の説明を求めた。


                     ☆


 玄人が、VRMMO「ツインクラス・オンライン」で、女性プレイヤーに囲まれて、周囲の不評を買っている。そして、下手な男プレイヤーをPTに入れて、彼女たちとの関係を悪くしたくない、とのことを話すと、誠人は一応の納得をしたみたいで、


「それで僕か、というか、何だその状況は。何をどうしたら、そんな事になるんだ?」


 そして、誠人は、少し考える素振りを見せると「VRヘッドセットとソフトはどうするんだ」と玄人に聞き、彼が「ソフトと一緒に予備がある」と答えると、これに応じる事となった。


「少しなら、つきあってもいい。ただし、つまらなかったら、即座にやめるから、そこは覚えておけ」


 こうして、真面目なインテリの幼馴染、明智誠人は、玄人の説明を受けて、VRヘッドセットを被り、ソフトを差して、キャラメイキングに入った。


「…何だ、こんなに細かく外見を設定できるのか…。しかも、一般の職業まであるじゃないか。薬師とか、料理人とかまで…」


 少しの驚きを見せつつも、彼はキャラメイキングを済ませると、同じくVRヘッドセットを被りログイン

 した玄人の「ゼクロス」とスタート地点、首都セルフィの中央公園、噴水前で合流した。


 彼のネームは「バルクレイド」


 眼鏡をかけた、銀髪の、理知的な感じの若い学者を思わせる、冷静そうな、真面目を絵にかいたような、なかなかの美形の青年アバターである。


 ゼクロスと合流したバルクレイドは、ゼクロスがFLから呼んだ、仲間のエリシャ、ローザ、ルーシアと顔あわせをする。


「…バルクレイドだ。長めの名前だから「クレイド」でいい。クラスは「ソルジャー」と「ウィザード」だ。ゲームは初心者だから、よろしく頼む」


 この事を、事前に聞いていたエリシャは歓喜して「セイト君!来てくれたんだ。嬉しいけど、どういう風の吹き回し?」


 同じくリアル幼馴染の銀髪の美人アバターのエリシャが問うと「ここでは、バルクレイドだよ、「エリシャ」そういう決まりなんだろう?」と冷静に返す。


「じゃあ、クレイド君だね。私はローザ「ダークナイト」と「ダークプリースト」ね。こちらの大人しい子はルーシアで「鍛冶屋」と「錬金師」のクラスよ」


 妖艶な黒髪のローザが自己紹介し、人見知りをする白髪のあどけない少女のルーシアを紹介すると、ルーシアも自ら丁寧にクレイドに向かって、


「ルーシアです。クレイドさん、よろしくお願いします」と愛らしい顔で言ったので、クレイドは思わず赤くなって、ゼクロスをつかまえて、少しはなれたところで話す。


「これは、なんだ?お前、ハーレムでも作るつもりだったのか?」


「それを言われるのがあれで、お前を呼んだんだよ!」


 クレイドの問いに、ゼクロスが少し強めに反論した。


「ふう…」とクレイドは、片手で眼鏡のズレを直すと「本題」に移った。


「で、僕は、ここで、何をすればいいんだ?LVを上げて、ストーリーを進めるというのも、この世界の背景設定も、公式サイトで確認している。要するに、このPT内での「役割」だな」


 ローザは少し感心して、


「おお、凄いマジメ君だわ!とりあえず前衛が少ないから「ソルジャー」のクラスで武装して、モンスターと白兵で戦ってくれると、助かるわね」


 この時、ローザは支援用の「ダークプリースト」状態で、ゼクロスも「ホーリーナイト」エリシャは「レンジャー」となっている。ヘルプがてら、自分たちのEXPも稼ぐ構えだ。


 クレイドは、その構成を見て、


「なるほど、騎士に神官に狩人か。確かにフォワードが一人しかいないな」といい「装備を整えるから、少しまっていてくれないか」と、一人で武器、防具の店に入った。


 ローザは「アドバイスなしで、大丈夫かな?」と心配したが、ゼクロスは「あいつなら大丈夫。戦争とか兵士の知識も、ある程度は知っているはずだからね」と、まるきり信頼を置いている感じだ。


                    ☆


 そして、クレイドが武器屋から出てくると、ショートスピア(100G)レザーアーマー(200G)ラウンドシールド(150G)レザーヘルム(100G)レッグガード(200G)という、中世の兵士じみたいでたちで、ゼクロスPTに合流した。


 ローザは、驚くのと呆れるのが半々といった感じで、


「何か、凄くリアルな兵士装備ね。この人、本当にゼクロスの幼馴染?」


 これには同じくクレイドの幼馴染であるエリシャが答えて、


「クレイドは歴史にも少し詳しいの。ただ、実はゲームがあまり好きではないらしいから、みんな、うまくサポートしてあげてね」


「はい!クレイドさん、ポーションの類が足りなくなったら、遠慮なく言ってくださいね。沢山ありますから」


 クレイドはルーシアの申し出に少し赤くなりながらも、


「有難いが、その時は適正価格で買い取らせてもらうよ。対価は正確に払われるべきだからね」


 と、やや優しい口調で返した。


 …こうして、ゼクロスとエリシャのリアル幼馴染の「バルクレイド」が新たにPTに加わり、ローザとゼクロスの的確なサポートで、南の平原で二人に支援をもらいつつ、ウルフやオークと戦って、早くもLVを5として、ステータスは普通だが「スキル」の覚えが早いクラスの「ソルジャー」のクレイドは、次々とスキルを覚える。


 そして、2回攻撃の突き攻撃「ダブルファング」パリィの効果が上がる「パリィアップ」そしてLV5で「エイムチャージ」のスキルを得ると、攻守に渡って、ゼクロスPTで、活躍をすることになる。


 クレイドも、この世界を幾分気にいったようで「…VRゲームというのも、思ったより悪くはないな」と少しばかり、考えを見直した感じである。思考自体は柔軟な所もあるのだ。


 そして、この「クレイド」の加入によって、ゼクロスの「ハーレムPT疑惑」も晴れることとなった…。



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