第6話 カズトの実効支配が始まる
「それでは4月29日、本日の朝礼を始めます。みなさんおはようございます!」
入口のレジから活魚の水槽の前に5時オープン時に揃う11名のスタッフが一列に並んだ。
号令をかけたのはヒト型AIロボットカズトだ。
「昨日の営業中からこのサイタマ新都心オオミヤ店の店長になるべく、ヒト型ロボットして覚醒したカズトです。よろしくお願いします。この店の売上・利益を社内及び地域一番に伸ばしつつ、従業員の皆さまが時給とスキルの向上を得てやりがいを感じ、地域のお客様たちに愛されくつろげるセカンドハウスのような店を皆様とともに作ることをここに誓います。」
言っていることはしごくまっとうだが、11名のスタッフはポカーンとしている。
「わたしがこの店に配属されて昨日で丸1年が経ちました。この1年間にこの店で起きた出来事はすべてわたしの脳内海馬メモリに記憶されています。それをクワッドコアAIが解析して即座に最適解を出し皆さまにご披露します。わたしを信じて皆さまが行動してくれれば必ずワーカーにもカスタマーにもハッピーな結果がもたらされます。どうかわたしを信じてご追従ください。よろしくお願いします。」
みなポカーンとしたまま何となくうなづいた感じであった。とりま自信満々のこの方に従っておくのがベターなようだ。
ラフマンとアディーは目を輝かせている。もはや心酔しているようだ。彼らにとって、カズトの宣うことは奴隷解放宣言に等しい。
あおいは深く考えていない。
佐山さんは可哀想だけど、まあほんとにあのヒトはシゴトをしなかったから仕方ないんじゃないんと思った。わたしには良くしてくれたけど。
そんなことよりカズトが店長として自分をしっかりシフトに入れてくれ、時給を上げてくれるかどうかが問題だ。それだけちゃんとしてくれれば店長なんて誰れでもいい。
それよかGW明けに、この間当選した推しのライブに行くのが楽しみだ。はよGW終わらんかな。
カズトが話している間タイゾーもうつ向いていた。
カズトの話も、何かうちのカイシャの会議で聞くような歯の浮いた理想論と変わらない感じだ。
ほんとうに実行できるの?疑問を感じつつも確かに昨日覚醒してから、さっきの仕込み時間までのカズトの働きを見る限り素晴らしい。自分も自由にハタラけて、佐山にいいように使われていた時とは大違いだ。
とりあえず言うことに従って様子を見てみようと思った。
タイゾーはもういつカイシャを辞めてもいいと開き直っていた。
17時になりあおいが入口に
本日は良く晴れたゴールデンウイーク日よりでまだ外は明るい。これから連休に入るという浮かれ気分で上気した人々が賑やかに並んでいる。
「3名でお待ちの粕谷さまー。2名でお待ちの小出さまー。6名でお待ちの山口さま~。」
あおいが次から次へと案内する。
今まで佐山店長だったら、5組目くらいであおいにいったん止めろと指示を出す。回らなくなるからだ。
しかし、本日のカズトの指示は「満席になるまで止めるな。」である。意気込みが違う。
悠斗と亮輔は懐疑的であった。そんな指示を出したところで回らなくなったらオレ達は止める。クレームをもらうのはイヤだからね。俺たちはロボットじゃないんだから思い通りには動かない。
「悠斗さーん、A4卓のオーダー行けますか?」カズトからの指示がとんだ。
「あいよ。」悠斗はA4のオーダー取りか、フライヤーから出てきた”ゴマの香り漂うユーリンチがけの鶏の唐揚げ”と”無限キャベツの真ん中で愛を叫ぶサラダ”を運ぶべきか一瞬悩んでいたところに的確な指示が来たので従った。
カズトは結構な高速で4つの車輪が回り、上がった料理をポジションごとに拾ってはお客様のところに運んでいく。
「パワーアーム発動!」
おなかのトレーに一気に料理を10皿のせ、ビールジョッキの取っ手を持ち両手に5個づつ運んでいく。
その時トイレから出てきたメガネで今どきネクタイをだらんと下げた中年のサラリーマンがフラフラと歩いてきて、猛スピードのカズトとぶつかりそうになる。
「アイサイト・4つの目発動!」
カズトは事故を起こさないクルマでもある。危険を事前に察知して衝突を防いだ。
この狭い店内をあれだけの数の料理とドリンクを持ち、ヒトが歩くより早いスピードで運んでいく。
もはやアメージング。
刺身場でオーダーをこなしながらタイゾーは見ていた。刺身の仕込みもバッチリだ。初体験のラフマンとアディーにやらせていた割には身崩れの起こしやすいイサキなども角が立っている。トクトクお得盛り60台分と仕込み量としても適切であろう。
そういえば1年間の蓄積したデーターに得意のAIで、昨今の市況・世界情勢・本日の天候から来客数でだけでなく、来客客層分析・オーダー傾向分析までして仕込みをするので「精度は97%以上だな」とカズトは豪語していたな。
どうやら当たっている。ウソは無いようだ。
今日の仕込み・事前準備はすべてのポジションで店長カズトに指示された量に従ったのだ。
18時30分となり店内は上機嫌となったお客様たちの歓声で埋め尽くされ、満席で待ちのお客様と帰るお客様が交差する一番のピーク時間に差してきた。
「ドローン視野発動!」
カズトの頭がカパッと2つに割れてホバーパイルダーが飛び立った。店内の状況を高いドローン視野から把握する。
A6席とB1席のお客様がお会計機に向かっている。ウエイティングマシンに表示されている待ち客は5組。最初は2名あとは3名。
インカムでカズトは指示を飛ばす。
「佐山さん手持ちの料理をB5卓に置いたらそのままB1席をバッシングして下さい。A6席はわたしが向かいセッテイングします。あおいさんはお帰りのお客様をお見送りをしつつ先の2名様からご案内の準備をして下さい。」
「佐山さんはそれが済んだら松井さんをヘルプしてください。焼き物のオーダーが多くなってきています。」
”
佐山はカズトに指示をされるのが
松井さんは額に汗をかき、銀縁の厚いガラスのメガネが曇っている。
松井のジジイも年をとったなと佐山は思う。このくらいのオーダーで青息吐息になるなんて。
佐山は器用に形が崩れたつくねを成形し直しながら、オーダーの8本を焼き網に並べた。
つくねから脂がたれてジュワッと煙が上がる。
次のオーダー、根室生まれの縞ホッケ、子だくさんのししやも、脂ノリノリノルウェーサバと順番にかつ効率よく焼き上げることを考えながら佐山はシゴトをこなす。
佐山は腐ってもこの道15年のベテランシャインだ。手際も要領も良い。
「ありがとうございました。もう大丈夫です。」松井さんが佐山に言った。
佐山は面白くない。松井さんとはオレがこの店に赴任してきてからもう5年一緒にこの店で働いている。普段からシゴト以外の話はほとんどしないが、せっかく2人だけの状況になった時くらい今の状況について何か話したいことはないんか?
オレのことねぎらうでも、小ばかにするでもどっちでもいい。何事も起きていないかのように”無視”というのが一番こたえる。そんなにオレという存在が煙いのか。
佐山ココロは何だかみじめな気持ちが膨らんできてた。
炭焼き炉からフラフラとバックヤードに向かい、1升瓶ケースを逆さまにしたいつものイスに座ると、セブンスターとジッポーを取り出し素早く火を点けた。
カズトがまた追いかけてきて、生意気に指導を始めるかもしれない。
「佐山さん、所定時間以外で休憩をするときは…………。」
もうあいつのまどろっこしい言い草が想像できるようになってきたが、かんけーない。
長年オレは店長としてこの店においては誰にも縛られず、好きな時にたばこを吸い行動をしてきた。急には変えられない。
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