第7話 SVの襲来
時間は夜9時になろうとしている。満席状態は終わり店の賑わいも少し落ち着き始める時間だ。
ふいにバックヤードの従業員用出入り口のドアが開いた。庭山統括スーパーバイザーだ。
「お疲れ様です。」
「ウッス。」
さぼっているところに庭山統括スーパーバイザーが臨店してきて少しバツが悪いが、今までなら気にしていなかった。
自分のことをそこそこ成績も悪くなく要領の良いスーパー店長だと思っていたから。しかし今はちょっとタイミングが悪い。
とはいえそんなことより、カズトのことを聞かなければ。
「庭山さん、知ってますか?あのネコ型配膳ロボットのカズちゃんが突然覚醒してヒト型AIロボットの店長カズトなんて宣言して店長気取りでこの店を仕切り始めたんすよ。」
「そうなんですか。」
庭山統括スーパーバイザーは無表情で答えた。
「庭山さん、あれは本部のプログラムですか?1年経ってリロードしたらああなるように本部で仕込んでいたんですか?」
「どうなのかな~。」
庭山の返事は煮え切らない。
「どうなのかなって言うのはどうなんすか?庭山さんは知ってたのにオレに何も教えてくれなかったんですか?」
「いや、私も詳しいことは知らない。」
とだけ言うと、庭山はフロアの方に出て行った。
クソあのタヌキおやじメが。本部のあなたが何も知らないわけないだろう。こりゃーカイシャごとグルの線で考えていかなければならんな。
ホールに行った庭山統括スーパーバイザーはカズトを見付けるとそろそろと近づいていき話しを始めた。
何を話しているのか分からない。庭山は以前、佐山が店長であった時と変わらずポーカーフェイスでカズトと話しを始めた。佐山から見るとそれはもう、カイシャがカズトを店長として認めているアカシじゃないか。ちくしょーやっぱりあいつらカイシャごとグルじゃないか。
訴えてやる。
庭山統括スーパーバイザーはアイパッドを取り出し何か見せながらカズトと話をしている。それは佐山が店長であった時と同じ感じで、特別な感情が庭山には宿っていないようでもあった。
5分くらいで話が終わると庭山は店内をぐるりと回ってすぐに店を出て行ってしまった。
なぜかそのとき、アディーも慌てて外に出て行った。ごみ捨てか?何かの袋を小脇に抱えている。
アディーが庭山さんと話すなんて珍しい。
佐山は追いかけようかとも思ったが止めておいた。
それだけなのか?急にロボットが店長になったのに、いつもと変わらない様子で店内を一回りして、ハイ終わりですか。
こりゃ絶対におかしい。世の中がおかしいのか、オレの脳みそがおかしいのかどっちかだ。
佐山はパントリーでピーク時に散らかったドリンクの片づけをしているあおいのところに行った。
「あおい、おかしくねーか。庭山さんさ来たけど当たり前のようにカズトと話して、あっという間に帰っちまったで。」
あおいはいそいそと紙パックの濃縮オレンジやペットボトルのウーロン茶を冷蔵庫に片付けながら佐山の話を聞いていた。ユニフォームの簡易着物の裾をまくり上げながらしゃがみ込み佐山の顔を覗き込む。
「そうだね。」
それ以上のあおいが会話を膨らませそうな感じはない。
「あおいちゃん、そうだねって、何か変だと思わない?」
「変だけだ、そういうもんじゃないの。仕方ないじゃない。」
あおいの丸く大きな瞳が佐山の目を一瞬だけとらえたが、スッと視線を外してまた片付けにいそしんだ。
何なんだあおいまで。その可哀想なものを見るような目つきは。エレーそっけないし。もう店長ではないオレに用はないのか。
あおいはパントリーの水場で計量カップやら計量スプーンやらピーク時に散らかした備品類をスポンジにたっぷりとポンプの洗剤を浸み込ませて洗いながら考える。
店長でなくなった佐山さんはシフトを増やしてくれるわけでないし、時給を上げてくれるわけでないし、どちらかと言えば押しが強くて何か昭和の男のようなところがある。ほんとうは苦手なタイプだから、これからは距離をおく方がいいや。
それより推しのキンキ男子のコンサートまでカウントダウン、あと7日。ゴールデンウイークは長いな。体調を崩さないように頑張らなくては。
わたしのシフトと時給を優遇さえしてくれれば店長は誰でも構わないけど、あのロボット店長は話しが通じるのかなー。何か理屈っぽさそう。
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