第3話
朝になった。
腹の無いお母さんはいつもの通り朝食を用意して僕の前に差し出す。今朝はエリンギとピーマンの炒め物と冬瓜とあさりの味噌汁、玄米ご飯だった。
僕は自身の殻を被り高校へ行く。歩く度に僕の割れ目がぐらついて変な歩き方になる。
変な歩き方になったまま僕は校門をくぐるえっちらおっちらしゃにむに教室に入り席に着く。
「おっす」友達が僕の席の隣に座って挨拶をくれた。「おっす」僕は顎を互い違いにガクガクさせながら返事を返す。友達は僕を一瞥すると椅子を引きずりながらこちらの方へと近づいてきた。友達の鼻息が僕の頬にかかる。僕はちょっと驚いて身を引く。
友達は躊躇いなく口を開いて「お前さ」と言った。彼の口からは歯磨き粉の良い香りがする。耳の側で彼は囁く。「お前、俺んちの病院に来いよ」は?
「それさ、治せるぞ」
治せる
「治せる。俺の親父が皮膚科医だから。注射と内服と塗り薬やれよ」
治せる
僕は信じられないものを見る目で友達を見つめた。いや無理だろお母さんが医者の出す薬はだめだって言ってたし僕もそうだと思う治る?治るのか?僕は 逡巡する思い巡らせて考え込む友達は黙って僕の返事を待っているこめかみに汗が浮いて痒くなったガリガリと頭をかきながら僕はしどろもどろに返事をした「でも」「いいよ」 友達が囁く「最終的に決めるのはお前だから。お前の体だ」お前の体。
僕の体に僕は触れる。
この体にお母さんが施し続けた徒労が手のひらに滲む。
そこにあるのは紛れも無く僕の肉体だった。
そして僕の肉体は僕の魂と繋がり、動いている。
僕は椅子から立ち上がって友達を見つめた。
「行く」
友達は破顔すると立ち上がり、カバンを持ってどうぞという素振りで教室の出口に向かい 僕を促した。 僕もカバンを持ち教室の出口に向かって行った。
僕はまず友達を伴って自宅に帰った。僕はまだ高校1年生なので 乳児医療受給者証が使える。僕は友達を外で待たせると玄関に立った。薄暗い廊下はひんやりとしていて誰の気配もない。リビングに入って棚を漁る。 保険証お薬手帳その他もろもろがまとまった綴りがあった。僕はそれを手に取ると踵を返して玄関から外へ出た。友達が待ち構えており僕たちは連れだって病院に向かった。
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