第2章 五十回忌 八話 式典1

 早朝の廃学校の体育館、その二階の窓から光が差し込んでいる。

 まだ誰もいない五十回忌会場で、米倉が式典前の最終チェックをしていた。

 式直前の準備に追われるフィールドスーツ姿が数名、バタバタと奔走している。

 コートラインが引かれたアリーナに並ぶパイプ椅子を見ていると、まるで卒業式か入学式でも始まりそうだ。

 ステージの上には、五日前に死にそうになりながら収集した、白い花々で装飾された祭壇がある。

 祭壇中央に額縁に入った藤崎初実の写真が飾られていた。

 若い頃の写真だろう。翼果と髪色も同じな上、やはり面影がある。

 目元は父親譲りなのだろうか、翼果と違って優しそうな垂れ目だ。

 そういえば髪型も同じだが、母に対する想い入れでそうしているのだろうか。

 祭壇の前には、ついさっき運ばれてきたばかりの、藤崎初実が納棺された棺桶が置かれていた。その手前に経机が置いてあり、上には経本や木魚やらの仏具がある。火はつかないので線香は立ててあるだけだ。


 米倉は棺桶の顔窓を覗いてみた。

 透明なアクリル板の向こうに藤崎初実の眠るような顔が見える。

 遺影より年を取っているが、聞いていた年齢より少し若くみえる。

 それにしても五十年前に亡くなったとは思えない。

 どういう技術で遺体を保存していたのかは知らないが、腐敗も全く無く、まるでつい昨日まで生きていたかのようだ。

「副長、大体のセッティング、終わりました」

「了解。各自、控室で休んでてくれ」

 報告に来たガードにそう言って、米倉は棺桶の顔窓を閉めた。

 手の甲についた時計を見る。そろそろ翼果が来る頃だろうか。

「しかし、五十回忌というより葬式だな」

 会場を見渡しながら米倉はそう呟いた。




 朝靄の中のフィールド内。ひび割れだらけの道路のど真ん中に、ポツンと置かれたパイプ椅子が置かれていた。その椅子にフィールド用スーツ姿の天田が座っており、そのすぐ横に、やはりフィールドスーツの笹村が立っている。

 当然、周囲には人っ子一人いる筈もなく、静寂に包まれていた。

「うー、さぶっ」

 笹村が寒さで身震いした。

 毛の長いトカゲみたいな小動物(※22)が、誰もいない道路を横切っていく。

「天田、式典が始まるのって二時間後だろ? 来るの早すぎじゃねーのか?」

「そうですね、私も早すぎるんじゃないかと思ってますが、穂高主任の指定時刻でしたので」

 そう言いながら、天田は四角く切り取られたボール紙に、マジックでなにか文字を書いていた。

 笹村が覗き込むと、ボール紙には『五十回忌式典会場はこちら』と、その下にでかでかと右向きの矢印が書かれている。

 天田は笹村より数年前からYOMOTSUにいるが、年は笹村のひとつ下だ。笹村は人見知りも無く誰とでも喋るタイプだが、年が近いこともあって、天田は中でも話しやすい人間の一人だった。

 一方、天田はかなり内向的なタイプで、あまり自分から積極的に他人と関わるタイプではない。研究者としても、縁の下の力持ち的なポジションで、あまり派手に前に出る性分ではないし、そんな自分を自覚もしていた。


 笹村は、そんな天田が他の研究者の、特に穂高の小間使いのように使われている様が少し気になってはいた。

「お前さ、穂高主任の言いなりになりすぎじゃねえの?」

「一応、言いましたよ、早すぎでは? って。そしたら、遺族である翼果さんが少し早めに会場入りするそうで、彼女が来た時に案内人が誰もいなければ、どうなるか分るよな、と凄まれました」

「そ、そうか。穂高主任、翼果さんの事となるとなぁ、そうだなぁ……」

「それに、私は嫌々アシスタントをしている訳ではないですよ。どんな仕事も誇りをもってやっているんです」

「そうかい。それならいいんだけどよ」そう言って笹村が欠伸をする。

「笹村さん」

「ふぁあ?」

「私は内勤専門なので、翼果さんを数えるほどしか見たことないですし、話したことも殆どないんですが、どういう方なんですか」

「どういう……って云われると、気さくでいい人って感じだけど、基本的に人間離れしてるからなぁ」

「身体能力が常人とは著しく異なるというのは知ってますが、人間的にもそうなんですか?」

「ああ、いや、人間的にはメッチャ普通だよ、裏表もない人だし接し易いぞ。それに、ネガティブなとこは全く見たことないな」

「それって、途方もない陽キャってことですか?」

「って、いうのとも違うなぁ。そうだな、目の前で誰か死んだ時とかさ、あるじゃん、フィールドやってっと」

「ありますね」

「そういう時、瞬間的には悲しそうなんだよ、でもすぐ切り替えるっていうか」

「冷たい人ってことですか?」

「あー、そういう感じでもなくて、受け入れるのが早い、って感じかな」

「それって、やっぱり冷たいのでは?」

「違う違う、なんて言えばいいんかなぁ、そう、あの人、ちゃんと覚えてるんだよ、死んだ奴らのことを詳細にさ」

「なるほど。分かったような分からないような」

「まあ、実際接してないとわかんねえかもな」

「いい人だってのは、分かりましたよ」

「あー、後、これはしょうがないのかもしれんけど、ちょっと自分基準で考えがちで、多少のことで人は死なないと思っている節があるな」

「それは、能力高い人全般にいえますよね」天田は穂高のことを思い浮かべた。

「つーかさ、俺に聞くより穂高さんに聞いた方がいいだろ。あの人の方が翼果さんのことよく知ってるんだから」

「笹村さんが、自分だとして、聞けます?」

 笹村は、穂高が圧のある目つきで、なんの用だ? といっている情景を思い浮かべた。

「う、うん、ごめん、聞けないわ」

「でしょ」


「なんで翼果さんのこと、訊こうって思ったんだよ?」

「初めてって訳じゃありませんが、ちゃんと面と向かって会うのは初めてみたいなものですし。一応、知っておいた方がいい情報があればと思いまして。まあ彼女は私の事なんて、気にも留めてないと思いますがね」

「お前、翼果さんに自己紹介したか?」

「? しましたよ、研究所にお越しになられた時に。主任のアシスタントとして、そこにいたので」

「じゃあ、ひょっとすると覚えてるかもよ」

「まさか。その時は自己紹介しただけで殆ど喋ってなかったですし、五年くらい前のことですよ」

「そうか、なら流石に覚えてねえかなぁ」



 いつの間にか朝靄が晴れ、清々しい青空が広がっていた。

 植物に飲まれ朽ちている廃墟群が退廃的な雰囲気を醸し出している。

 アスファルトのひびの間から生えた黄色い草の上で、赤いキリギリス(※23)が定まらない足場を固定させるために、モチャモチャと足を動かしていた。

 笹村がそんな景色をぼんやり眺めていると「なんか来てませんか?」と天田が言った。

 腰のスタンバトンに手をやりながら、天田が見ている方に目をやる。

 真っすぐに伸びた二車線道路の奥を、確かに、何か大き目の動物が道の真ん中を歩いてこちらに向かってきているのが確認できた。

 笹村が、豆粒ほどのサイズに見えているその動物に目を凝らすと、上に誰かが乗っているように見える。

「なんかヤバい生物ですか?」

 天田は、緊張でパイプ椅子のパイプ部分を思わず握り込んだ。

「いんや、あれは多分、翼果さんだな」

「え? 本当ですか? 人にしてはちょっと大きい様に見えますけど」

「そのデカい動物の上に人が乗ってるだろ」

「ちょっと、私には見えないですね」天田も目を凝らして言う。

「ちょっと待て」笹村がスーツの中で単眼鏡を取り出した。

 レンズのピントを合わせる。

 馬サイズの生物はタワシで、その上に翼果が跨っているのが見える。

「間違いなく翼果さんだわ」

 翼果が笹村に気付いたのか、ブンブンと手を振った。

「手振ってるぞ」そう言って笹村も手を振り返す。

「向こうから裸眼で見えてるんですか? すごい視力だ」

 手を振っていた翼果が姿勢を低くする。

 それが合図だったかのようにタワシが走り始めた。

 翼果を乗せたタワシが加速し、みるみる大きく見えてくる。

「オ、オオカミ!?」

 真っ直ぐにこちらに走ってくる、角の生えた巨大狼に天田がパニックになる。

 パイプ椅子をひっくり返しながら天田は立ち上がった。

 タワシは二人の手前で大きくジャンプして、二人を飛び越える。

「死んだ! 絶対死んだぁ!」

 そう天田は叫んで、頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 タワシは着地と共にスピードを緩めて、Uターンして二人の前で停まった。

「オッハヨー! 笹村」

「おはようっす、翼果さん」

 タワシの上に跨っている翼果は、珍しい黒のワンピース姿だった。

 朝日を浴びて煌めく栗色の髪と白い肌が、黒い服で一層映えている。

 喪服として着ているのだろうが、靴がいつものスニーカーでバックパックを背負っているのが翼果らしかった。

「珍しい恰好してるっすね」

「ああ、これな。米倉が用意してくれたんだ」翼果はタワシから降りて、履き慣れないスカートの裾を摘まんで言った。

「似合ってるっすよ」

「そうか? なんか分からないけど、相応しい服装ってことらしい」


「い、生きてる?」涙目の天田がしゃがんだまま呟いた。

「ん? ひょっとして天田か? 久しぶりだね、元気だったかい?」

「お、覚えてらっしゃるんですか」

 翼果が自分を覚えているなんて一ミリも思っていなかった天田は、驚いた声で聞き返した。

「もちろん覚えてるよ。直美と一緒にいただろ、あれはいつだったっけ?」

 翼果は覚えてて当たり前だろう、という顔をする。

「五年くらい前だと思います」

「そっか。ところでキミらはこんなところで何してるんだ? 散歩か?」

「い、いえ、翼果さんをお持ちしていたんです」

 天田が立ち上がって、自分の任務を遂行しなくてはと、姿勢を正した。

「ん? なんで?」タワシを撫でながら、翼果が小首を傾げる。

「会場まで案内するように言われておりまして」

 それを聞いて翼果は、自分を過剰に特別扱いするのは、きっと直美だろうな、と察した。

 翼果がトトトッ、と天田に近づく。

 陽光で透き通って見える真っ直ぐな瞳を向けられて、天田はドギマギする。

「そうだったのか、それは面倒かけたね。ありがとう」

 翼果のその眩しい笑顔が、天田のハートをブチ抜いた。

「か、会場はあちらです。ご案内します」

 動揺を見せてはいけない、としながら出した声が上擦ってしまっていた。

 翼果は頷いて、天田と笹村について歩く。


 その後ろからタワシがゆっくりとついてくる。

「そちらのオオカミはペットですか?」

 巨大狼の圧を背中に感じながら天田が訊ねる。

「タワシはペットじゃなくて友達だよ」

「タワ? そうなんですね」

 タワシとは? と思いながら天田は相槌を打った。

 タワシは学校手前で翼果について来ずに、道沿いの駐車場跡地に向かって行った。その駐車場に生えていた巨木の木陰で、身体を横たえる。法要が終わるまでそこで待つようだ。

 いやこれ、もうペットだろ、と笹村は心の中で突っ込みをいれた。



 廃学校の校門には、真新しい白い立て看板が設置されている。

 看板には【藤崎初美 儀 五十回忌式典会場】と墨文字で書かれていた。

「この先にある玄関から建物に入って、廊下を右に真っ直ぐ行った先にある体育館が会場になります」

「ここでいいよ、一人で行ける」

「了解です。会場には米倉副長がおりますので」

「ありがとう二人とも。天田もたまにはうちの店に遊びにおいで」

 翼果は手を振りながら、校舎に入って行き、見えなくなった。

「さあて、じゃあ俺らも戻るか」

「笹村さん」

「うん? どした?」

「翼果さんって、すごく素敵な人ですね」

 天田を見ると、胸に手を当ててその場に立ち尽くしていた。

「お前、チョロいって良く云われね?」

 笹村は呆れ顔で天田に言った。




 ガチャン、と体育館の重い鉄扉を開く音がして米倉が振り返る。

「おはよう! 米倉」

「おはようございます」

 元気そうな翼果の声に、米倉が挨拶を返した。

 翼果は小走りで体育館の中央に行き、祭壇を見渡す。

「おお! 壮観だな! 白い花畑みたいでイイ感じだ」

 米倉は満足そうな翼果に内心ホッとしながら、彼女の方に歩いて行った。

「喜んでもらえたみたいで良かったで……す」

 翼果の全身を近くで見て、米倉は眉をひそめた。

 翼果の黒のワンピースは皺だらけで、更には動物の毛だらけになっていたからだ。

 おまけに用意したはずのパンプスではなく、いつものスニーカーを履いている。

「毛だらけじゃないですか。モフロフですか?」

「いや、タワシに乗ってきたからかな」悪気もなさそうにケロケロと答える。

「それにアタシが用意したパンプスはどうしたんですか」

 フェイスガードの奥に見える米倉の座った目に、流石の翼果も彼女の怒りを察した。

「あの靴、ちょっと足が窮屈でさ、あっ、でもホラッ、ちゃんと持ってきてるから!」

 背負っていたバックパックを慌てて降ろして、黒のパンプスを取り出す。

 米倉は仕方ないという顔で、ハァ、と溜息をついて部下を呼ぶ。

「翼果さんを控室にお連れして、髪型とかメイクとか、見栄えを何とかしてあげてくれ」

「うーん、別にこのままでも……」

「駄目です」

 翼果が口を尖らせて、子供のようにブーっと不満を音に出した。

「お連れしろ」

 口を尖らせたままの翼果が、部下たちに連行されていく。

 やれやれと、思いながら見送っていると、翼果が立ち止まって振り返った。

「米倉! 今日の米倉は、かあさんが乗り移ったみたいだな」

 その翼果の言葉に米倉は目を丸くして、何を言ったらいいか分からずに口だけ開いた。

「あはは、冗談だよ。気にかけてくれてありがとう、米倉」

 上げた手の平をひらひらさせながら、控室に向かっていった。その後ろ姿に、まったく、と呟いた米倉の口元は微笑んでいた。



笹村と天田は元の場所に戻ってきていた。

 笹村が倒れていたパイプ椅子を起こして、天田は落ちていたボードを拾って座る。

「すいません、笹村さん」

 椅子を直してくれた礼を天田が言った。それに対して笹村は、そんなことはどうでも良さそうに、思い出したことを訊いた。

「そういえばよ、今回の五十回忌、比良坂の全員が参加するって聞いたけど、ホントか?」

「え、ああ、別に強制ではないんですけどね。翼果さんがそれだけ人に慕われてるといえますが、大半は翼果さんを殆ど見る機会がない人たちの、野次馬的なものですよ」

 少し折れ曲がったボードを直しながら、天田が淡々と答える。

「あっ、忘れてました。笹村さん、そこの袋を持って来て貰っていいですかね」

 天田が示す路肩に、紙袋が無造作に置いてあった。その紙袋を掴み上げて中身を覗き見ながら持ってくる。

「なんだこりゃ」

 中には黒のハンカチがどっさりと入っている。

 天田が紙袋を受け取ると、中から二枚を取り出して一枚を笹村に手渡した。

「これを腕に巻いてください」

「腕に? なんで?」

「黒ネクタイの代わりです。式典案内に書いてあったでしょ」

 天田はそう答えながら腕に黒ハンカチを巻く。

「あ、そうだっけ? ……なんでこんなに持ってきてんの?」

「笹村さんみたいに忘れた人用ですよ」そう言って冷ややかな視線を笹村に送った。

「なるほどなぁ、さすができるヤツは違うな、ハハッ」乾いた笑い声で誤魔化す。

 雲一つない空を、黄色い小鳥の群れがピツピーツピピピ……、と横切って行った。

「式典は一時間半後ですから、三、四十分後には人が来始めますかね」

 飛び去る鳥の群れを目で追いながら、天田が独り言のように言った。




「米倉ぁー、このタイツってのが、気持ちが悪いんだけど」

 そう不満を漏らしながら控室から出てきた翼果を見て、米倉は言葉を失った。

 元々容姿端麗だったが、ここまで変わるのか。

 法事仕様で控えめなナチュラルメイクだったが、普段のノーメイクと比べると見違える。

 長い髪は後ろで束ねられていた。

 黒のワンピースに黒タイツにパンプスで、首元には真珠のネックレスが控えめに輝いていた。

 よくあるありふれた喪服のコーデだが、あの翼果が正装をしているということだけで謎の感動があった。その上、翼果は美人でスタイルも良い。この極上の素材で、他の服や他のメイクも試したいという女心がムクムクする。


「うん? どうした米倉、黙っちゃって」

「い、いえ。想像以上にお綺麗になられてるので、言葉が出ませんでした」

「あはは、大袈裟だなぁ」

 ただの喪服用ワンピースでこの破壊力なら、やはり嫌がっても無理やり着物にすべきだったかもしれない、と米倉はひっそり思った。

「とりあえず、式典の段取りを復習しましょう」

 色々と込み上げる想いを抑えながら米倉は話を進めた。

「オーケー」

「基本は司会の天田が進行させるので、それに従って動く感じです」

 うんうん、と翼果が頷く。

「それで、最初に翼果さんから参列者の皆さまへ挨拶をしていただくんですが、その際は祭壇前に出ていただいて……」

 米倉が祭壇を指し示して、話を止めた。

「ん? どうしたんだ」

「いえ、とても大切なことを失念していました」

 そう言って米倉が祭壇の方へ歩いて行き、初実の棺桶の前で立ち止まった。

「お母さまにご挨拶してなかったですね」

 米倉にそう言われて、翼果はたった今、母の事を思い出したような顔をしてから、フッ、と小さく笑った。


 近づいてくる翼果の顔は悲しそうでも寂しそうでもない。

 少しだけ微笑んだような顔。

 藤崎初実の死から四十九年も経っている。

 心の整理はとっくの昔に終わっているだろう。

 でも、その四十九年間、母娘は引き離されたままでもあった。

「そうだね。その為に今日ここにいるんだもんね。わたしも、かあさんも」

 翼果は、そっと棺桶の上に手を置いた。

 そんな翼果を見て、込み上げるものを堪えながら顔窓を開く。

「驚いた。あの頃のままだ。てっきり骨になってるのだと思ってたよ」

「YOMOTSUの研究者たちが大切に保存していましたので」

「そうか。みんなに礼を言わないとだな」

 母の顔に視線を向けたまま、呟くように言う。

「蓋、開けましょうか?」

 なんだか堪らない気持ちになって米倉はそう提言した。

「いや……いいよ。不思議だな、もう何十年も昔の事だというのに昨日のことのように色んな事を思い出すよ」

「……翼果さん」

「うん? なんだい?」

「やっぱり、お墓の件は……」

「米倉、この間話した通りでいいんだ。それが、かあさんの望みだと思うから」

 そう言って、翼果は顔窓をそっと閉じた。


 

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