第3話 契約




「おはようくん!」


 契約から一週間経った。


 柳さんの義務は済ませ、契約によって少しは楽しい学生生活を送れるかと思っていたーー


ーーそんな俺は可愛い同級生と登下校するという、ラブコメのような日々を送っていた。


「おはよう。 せ、セイカ」

「照れないでよ~こっちも恥ずかしくなってくるじゃん」

「ご、ごめん」


 どもる俺に柳さんはカバンを軽く当ててはにかんだ。


 友達が欲しい、そう望んだのは俺なのにいざ降って沸くように叶うと慣れるのに時間がかかる。


 何事にも順序があるが、今回は特例のため柳さんの提案で俺たちはとりあえず形から入ると決めたのだ。


 時間に任せていてはいつまでも他人行儀になるのは必至(主に俺のせいで)。


 よって俺たちはお友達訓練期間を設けることにした。

 お互いを下の名前で呼び、

 無理のない範囲で時間を過ごし、

 出来るだけ気を遣わず、

 嫌なことがあればちゃんと言う。


 そんなルールというか仲良くなるには必須の事項である。


 俺の思っていた友達より遥かに距離が近いものとなった。


 学校でボッチ飯回避できたらなー、ペア作る時に相手になってくれたらなー、とかそれくらいの軽い感じを想像していたので戸惑いはある。


 しかしそれ以上に嬉しくもある。


『なんかレンタル友達みたいじゃない?』

『私、チギリくんの親友目指してますから』


 そんな臭いことを面と向かって言われるなんて初めてだったから。


 だから、


「早く行こ、遅れちゃうよ?」


 頬が緩むのは断じて下心ではない、断じてない。





 俺と柳さんは電車通学である。


 しかも最寄り駅が同じ。

 契約の日、学校最寄りの改札で別れて、同じ駅で降りて顔を合わせたのは驚いた。


 そのおかげでこの嬉し恥ずかしの登下校が可能になっている。


(しかし毎朝なんでこんな混むんだよ)


 人の波に飲まれながら車両に乗り込み俺は仕方のないことではあるが嘆息した。


 俺一人ならまだしも、美少女同級生と一緒だと色々気を遣うのだ。


 満員とはいえ彼女にべったり触れることははばかられるので、できるだけ触れないようなけなしの隙間を開け続けているから。


「今日はドームが良く見えるね」


 柳さんが俺の横から車窓を眺めて言った。


 住宅街な景色の中にある巨大で透明な半円。


 ドームとか、上から見ると飲み込むような黒色をしているからか沼やブラックホールなんて呼ばれるそこには異界が広がっている。


 それはゲーム化というスキルによって生み出された光景だ。

 

 一人の英雄のこの世界の平和は保たれている。


 今や日常の風景となってしまっているけれど、


 今もあそこで誰かが戦い死んでいく。


「本当にありがとうね」

「ん、そういう契約だからさ」


 電車が揺れる。


 背中に柔らかい感触が触れた。


 離れる、当たる、離れる、当たる。


(こここれって当ててんのよってやつ?!)


「そういえば今日の授業さー」


(どっちなの? 不可抗力なの? わざとなの? どっちなのぉぉおおお?!)


 楽しげに柳さんが話す一方で、俺は変な汗をかき続けるのであった。







「ねえ、お兄ちゃん」

「どうしたセイカ~」


 自宅にて私は大学生の兄に声をかけた。


「男の子が喜ぶことってどんなこと?」

「は? 彼氏?」

「いやー、そういうんじゃないんだけど」


 驚き過ぎてスマホを落とす兄に苦笑しつつ、私は悩みながらボカして説明する。


 とてもお世話になった人に恩返しをしたい、と。


 だって義務を肩代わりしたなんて知ったら、兄は怒るだろうし、家族総出での重い感謝は集目くんは望んでいないだろうから。


「んー、まあ高一ならエロだな。 おっぱいでも触らせてあげれば?」

「うわぁ……」

「実の兄に向かってそんな目を向けるのはやめなさい」

「だってキモいもん」

「なら欲しいもんでも買ってあげたら? ゲームとか」

「そういうんじゃないんだよなー」


 金とか物とかで終わりは違う気がした。


「その人はなんて?」

「友達になって欲しいって」

「それ下心あるやつーぅ!」

「いや、本当に。 一緒にご飯食べる人もいないから、それだけでありがたいって」

「あっ、ボッチか……なら、それでいいんじゃん?」


 兄も集目くんもそう言うけど、それじゃのだ。


ーー私は命を救われた、いや救われ続けるのだ。


ーーならばそれと釣り合わなければならない。


 私が悩んでいると、兄は「なら」と言ってオタク趣味な本棚を指した。


「あれでも読んで参考にしたら?」

「えー、私漫画とか興味ないよー」

「くっくっくっ」


 兄はニヤリと笑って言った。


 オタク文化は男の欲望が詰まってるんだぜ?






 そしてそれから何かヒントでもあれば、と読み初めて私はまんまとはまった。


 意外と面白い。


 気持ち悪いのもいっぱいあるけど。


「ふーん、こういうのがいいの、かな?」


 それから私は集目くんに恩を返すため、色々と実践している。


 朝、迎えに行ってみたり。


 名前で呼んでみたり。


 スカートの丈を短くしてみたり。


 体を少し密着してみたり。


 甘えてみたり。


 もっと、もっと、もっと。





 命の対価にはまだまだ









 

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