第4話 趣味タイム




 友達ができても、基本的な俺の生活スタイルは変わらない。


 平日は帰れば討伐に行くし、休日はもちろんガッツリ異界へ行く。


 俺は強靭で伸縮性のあるボディスーツの上に、特殊部隊のような装備をまとって討伐アプリを開く。


 討伐アプリの機能はシンプルで、ログインアウトボタン、メッセージボックス、マップ、時計、コレクションアプリ、討伐記録を使うことができる。


「よし、行くか」


 忘れ物なし、と指差し確認してログインボタンをタップ。

 すると瞬く間に、景色が変わる。

 

 異界に入った俺は体を慣らすように動かしていく。


 俺みたいに討伐を繰り返している場合は、入った瞬間に身体能力が上がるので必ず違和感があるのだ。


 軽くジャンプしただけで二メートルほど体が浮き上がり、右手を上空に向ければ火の玉が飛び出す。


 まるでゲームみたいで楽しい。


「今日は草原かー」


 異界は広大で、いくつかのフィールドが確認されている。


 草原、洞窟、湿地、島などあり、それぞれは繋がっていないと

 が実際は広大すぎて探索しきれないのが実情だ。


 異界に行ったらまず、補給拠点を確認する。


「お、今日はついてる」


 草原の奥の方に国旗の描かれたバルーンが浮いている。


 その下に国に所属する異界対策チームが建てた拠点があるのだ。


 そこで飲食の販売、休憩、武器防具のメンテ、簡単な治療や、情報の取得まで色々できる。


「お疲れさまでーす」


 拠点に着くと俺は見張りに声をかけて、簡易バリケードを通過した。


 この中は祭りの屋台が並ぶようにテント張りの施設が軒を連ねている。


 その中の一軒、道具屋に入る。


 探索に必要な物資を確保しなければならない。


 異界のルールとして、異界で得たものは持ち帰れないという特徴がある。


 しかし入る際は身に付けられる物は持ち込める。


 大きすぎる物や、異界特有の効果のある品は現地で調達しなければならない。


 その最たるものが回復薬だ。


「よく効くやつください」

「……君、本気で言っているの?」


 迷彩服の軍人さんが眉を潜めるが、俺は迷いなく頷いた。


 異界で調合された回復薬は、物語のように傷を即座に癒す効果を持っている。


 しかし違うのは治癒と同時に激しい痛みも伴うところだろう。


 回復薬には等級があるが、上等であれば欠損すら治すが痛みは比例して強くなる。


 その痛みのショックで廃人になったり、治療を拒否して戦えなくなる者もいるというくらい。

 なので回復する際は戦闘時を避け、必ず安全な場所で行うというのがセオリーだ。


「大丈夫です、俺結構痛みに強いみたいなので」

「強いとかそういう問題じゃないと思うが、一応忠告はしたからな」


 見た目が若いこともあって、良くある問答を終えればようやく準備完了だ。


 スマホでマップに拠点の位置にピンを立てて、俺はさっそくフィールド出た。


 しばらくぶらぶらしてようやく怪物を発見した。


 怪物はファンタジーに出てくるようなゴブリンやスライムのような明確な容姿ではない。


 奴らは人型や、獣型、飛行型などと呼称され、見た目は様々な形の泥人形のような見た目である。


 今回遭遇したのは四つ足の獣型だ。


「いいね、先制パンチ食らいな」


 笑って、わざと火玉を放つ。


 怪物の中でも俺は獣型が一番好きだ。

 

 なぜなら獣型は、追い詰められると仲間を呼ぶからである。


『WOOOOOON!』


 遠吠えによって、怪物がどこからともなくやってくる。


「さあそろそろ初めよう」


 人によっては地獄、しかし俺にとっては楽しい狩りの時間だ。


 俺は腰に携えた剣鉈を抜き放ち、大人たちから「狂ってる」と言われる笑みを浮かべるのであった。


 獣型が動く前に俺は強く踏み込んで群れの先頭にいた、泥に鉈を突き立てる。


『WAAAAA』


 一体の悲痛な叫びと共に周囲の獣が、殺意を放ちながら俺に飛び付いてきた。


 強く踏み込むと、地面がめり込む感触がつたわってくる。


「死ねぇ!」


 鉈を振るい、ナイフを突き立て、火を飛ばしながら俺は溺れるように群れの中で暴れる。


 技術なんてない。


 特別強くもない。


 しかし恐怖もなく、あるのは高揚だけ。


 傷つく痛みすら、加速させる燃料でしかない。


 まるで無双ゲームの主人公のような気分で、


「はっはー、爽快爽快」


 しかし楽しい時間ほど過ぎるのは早く、俺は溶けるように崩れる泥を横目に小さく息を吐いた。


「討伐完了っと」


 体の調子は怪物を倒したことによる能力上昇のため、僅かに良い。


 この空間において、ドロップというのは、能力上昇が報酬である。


 非常にしょっぱい。

 故に物語のように討伐が流行らないのだ。


「じゃ、次行きますか」


 しかしそれでも俺はゲームみたいに強くなっていく感覚が好きだし、色々なスキルを使えるようになるのも楽しい。


 ゲームみたいに簡単ではないから良いのだ。


ーーだってすぐにクリア出来たらつまらない。


 義務も、社会貢献も、どうでも良い。


 俺にとって異界は、やり込んでも怒られないどころか『偉い』と褒められる最高の遊び場なのだ。





 朝から戦いと探索を続けて昼過ぎとなった。


 俺は丘の上に一本だけ生えた木に寄りかかりながら、お握りを頬張る。


 異界では電波が届かないので、暇潰しといえば討伐アプリでコレクションを確認するのが常だ。


 この機能では図鑑と宝具、そして取得スキルの三つを確認することができる。




$$$$$


集目チギリ:


スキル:身体強化、初級魔法、気絶耐性、痛み耐性、回復促進

 

$$$$$




「変わりなしか、残念」


 スキルを確認して俺は呟いた。


 スキルの獲得条件は不明で、倒す怪物によって変わる報酬説や、その人の行動で条件を達成すればいい熟練度説があるが、実際は不明である。


 俺のスキルを見る限りだと両方ある気がするけれど、


「助けてぇぇええええ!」


 そんな小難しい思考は悲痛な叫びによって遮られた。


 離れたところで、怪物の群れをトレインしながら少女がいる。


 俺は身に付けていたホイッスルを鳴らして「こっちに来い!」と叫んだ。


「あ、あああごめんなさいごめんなさいぃぃぃいい」


 叫びながら走ってくる少女に、どっかに行けと俺はジェスチャーで伝えて鉈を抜き放つ。


 本来、トレインは法としても相当な重罪だし、相当避難される行為である。


 しかし彼女に悪意があれば拠点で軍人に突き出すつもりだ。


(ゲームスタート!)


 俺は心のなかでそう呟いて、嬉々として怪物の群れに突撃するのであった。







「本当にありがとうございました」

「いいよ~、全然気にしないで」


 助けた少女を拠点の軍人さんに引き渡して、俺は異界をログアウトした。


 結果から言って彼女に悪意はなかった。

 チームを組んで討伐に挑んだものの、仲間に囮にされ逃げているうちに気配を感じた怪物たちが雪達磨式に増えていってトレインとなったらしい。


 トレインは重罪であるが、事実であれば情状酌量の余地ありとなるだろう、と軍人さんが言っていたのでひと安心である。


 なんせ少女は中学生だったのだ。

 遅生まれで、討伐義務の前に先行して討伐数を貯蓄しておこうというとてもやる気のある珍しい人物である。


 なんだか仲間意識を感じて嬉しくなったのだ。

 俺のように楽しみを見出だしているわけではなく、夏休みの宿題を初日に済ませるタイプという可能性もあるけれど。


 どちらにせよ、悪意がなければ俺に思うところは全くない。


「ん?」


 そんなことを考えていると、SNSの通知音が鳴った。


『体育祭の種目何でるか決めてるー?』


 そんなメッセージが柳さんから届いた。


 体育祭、そんなこと担任が言っていたかもしれないが、完全に忘れていた。


 体育祭なんて種目決めで余るとか、リレーで足引っ張るとか、ろくな思い出がない。


(そっか、もう始まる前から駆け引きは始まってるんだなぁ)


 いつも流れに任せて余ったり、嫌なポジションになったりしていたが、皆こうやって事前に色々やっているのだろう。


『一緒の種目出よーよ』


 続けてきたメッセージに俺は天を仰ぎ祈るように手を合わせた。


(神! 本当にありがとうございます!)


 これで今年は少しマシな行事に、むしろ楽しく過ごせるかもと、思ったのもつかの間ーー


『いいよ! 何の種目がいいとかある?』


ーー次のメッセージで俺の思考は完全に止まった。


『おんぶリレー出よ!』


「はぇ?」


 おんぶリレー、それは一人の人が、もう一人を背負って早さを競う種目。

 大抵同姓で行い、時々痛いカップルが出て冷やかされるようなイロモノ種目である。


 それに俺とクラスの男子の視線を集める柳さんが出ると。


「殺されても文句は言えないやつだ」


 他の種目に誘ってみても、彼女はなぜかおんぶリレーに出たいらしい。


 つまり柳さんをおんぶして死ぬか、いつも通りの余り物か。


 天国か地獄か。


 俺は悩んだ末、柳さんに了承のメッセージを送り、もう疲れたと布団に横になるのであった。








$$$$


アイテム……異界産のアイテムはログアウトするとその場に全て落ちてロストする。


$$$$










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