第2話 同族殺し
「全てお前らのせいだ! 葬ってやる! その醜い魂と醜悪な血を神に懺悔しろ!」
会うのは何十年ぶりだろうか。一世紀ほどは過ぎているのではないだろうか。驚いた、まだ存続していたのか。それはそうといつも通りひどい罵倒だ。
「こんばんわ。初めましてですかな? 分かっての通り、我はヴァンパイア。名をミハイル・ホワイト。今夜はどのような要件で?」
「なんの要件だ? 一つに決まっている! お前ら吸血鬼を滅ぼすためにほかならない!」
こいつ、若いな。そして実戦も少ないようだ。死ぬものの名など聞いて何の意味がある。自分の事も話し出すなど馬鹿がすることだ。いつでも殺せる
「そうか。貴様らはいつだってそう言うな。だがしかし、殺すだけならそんな暴言を吐く必要などないはずだろう? 同族殺しだとしても狩人ならば獲物を尊重したまえ」
「くっ、お、俺は同族殺しなんかじゃねぇ! 俺は吸血鬼ハンターだ! こっちは狩人は狩人でもバケモンを退治するというれっきとした正義がある!」
「日本では吸血鬼ハンターというのか。漢字と外来語を混ぜて統一感というものを知らないのか。どうせなら吸血鬼狩人のほうがまだましだ」
「うるせぇ! 黙れ! 大人しく土に還れ! そうだ! これでもくらえ」
そういって、白い装束から袋を取り出した。匂いからしておそらくニンニクだ。
「どうだ、お前らは大層ニンニクが苦手なそうだな」
「まぁな。食べると臭いし、我もそこまで好きではない」
「た、食べる?!」
まるでゲテモノを見るような目でこちらを凝視する。
「なんだ、意外か?確かにその匂いが当時は人の血の匂いを打ち消したりで人を嗅ぎ分けるときは苦労したぞ」
口を開けたままのそいつはいきなりハッとした顔に戻り、装束の中をまたガサゴソを探し始めた。
そして水入りの瓶と十字架を取り出し、前に突き出した。
「こ、これならどうだ! 聖なる水と聖なる十字架だ! これでお前は近づけない!」
「貴様は馬鹿か?そもそも我からは近づいておらん。貴様に近づけないのなら普通に逃げればよかろう。それと今の時代、十字架がだめなら外に出れぬであろう。その聖なる水とやらも怪しい。どこ基準で神聖なのだ」
馬鹿にされたのが悔しいのか、顔を真っ赤にして、十字架と水入り瓶を投げる。
もちろん、当たるわけがない。割れた瓶の水もなにやら、酸性の匂いがする。相変わらず教会のやり方はどす黒いな。
「なんなんだお前は! ニンニクもだめ! 十字架も駄目! 聖水も駄目! なんなら効くんだ! まさか、銀の銃弾しか効かないのか…」
そういいながら、少しおびえた様子で我を指さす。
「あぁ確かに、銀の銃弾を撃たれたら死ぬな。だが、それは人も同様だろう? さ、少年今なら見逃してやる。家に帰って家族と食事でもして今日のことは忘れなさい」
下を向いて、俯いてしまった。少し痛い目を見せておけばよかったか? これではまたヴァンパイアと会えば死んでしまう。いや、所詮他人だ。どうでもいい
「僕の家族はもう死んでるんだよ!お前たちのせいで!!」
一心不乱に走ってくる。はぁ~、やっぱりこうなってしまうか。
少年の拳を空振らせて、背後に回る。そして…
○○○
「ん? ここは?」
「お、起きたか。飯でも食うか?」
少年は椅子にくくりつけられたことに気づき、全身を動かす。
これまで何人に結んできたと思っている。その程度ではびくともしない。
「な、なにがしたいんだ! 俺の血が欲しけりゃさっさと飲みやがれ!」
「自惚れとるのぉ。貴様の血など死んでもごめんだ。ただ話したいだけだ。あのまま放置してまた襲われていたら我は良いが近隣住民に迷惑がいく」
「お前、本当に吸血鬼か?」
訝しみながらこちらを覗く。
「あぁ、そうだ。残念なことにな。ちなみに貴様の装備は他の部屋で保管している。だからとりあえず今は落ち着いて話そうではないか」
椅子に縛られている少年の前にカレーライスを置く。カレーが嫌いなものなどそうそういないだろう。
案の定、少年はカレーをさっきの我以上に見つめている。
「どうだ? 温かいうちに食いたいのなら、我と冷静に話をすることが条件だ」
少年はすこし斜め下を見つめ不満そうな顔で口を開きはじめた。
「お前がなにもしないなら。そうしてやるよ」
「ふん。素直じゃないな」
カレーにスプーンをのせ、縄を解く。相当腹が減っていたのか、我が解けたと言う前にカレーにかぶりついていた。
「おかわりもある。食べたい分だけ食べ…」
「おかわり!」
さすがに感性は子供だな。さっきの表情が嘘みたいに明るい。しょうがない、腹いっぱい食わせてやろう。
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