第3話 進化
「くぉ〜食った、食った。おいしかった〜」
少年は腹を叩いて態度でも満腹を表現しているようだった。
「それは良かった。相当腹が減っていたようだな。あのあと3杯はおかわりしただろう?」
「あぁうん。カレーなんて、食べたの母さんが生きてたとき以来だったから」
そういえば、両親が死んだと言っていたな。それも、我の同族に。
「少年よ。名前を聞いて良いか?」
「あ? あぁぼ、俺は紅林太陽。あと俺をガキ扱いすんじゃねぇ今年で14だ!舐めんな!」
これは今日一番の驚きだ。フードで顔が見えなかったとは言え、想像していた以上に若い。教会はこれほどにも人手不足なのか?それとも子供を争わなければいけないほど同族が暴れているのか。
「そうか、14か。確かに子供と大人の狭間、と今では言われているそうだな。だが、ガキはガキだぞ?貴様がガキではなかったら我は何になる?」
「は!そんなん知ったことかよ!バケモンだろ?それか妖怪か?」
妖怪か、確かに昔はあんな生き物もいたのかもしれないな。我らも日本にもしいたら妖怪に含まれていただろう
「ま、そんなことは良い。太陽くん、もう我に関わるな。もっと言えば君たちの言う吸血鬼とは関わるな。もちろん、君の理由は分かるが次、我以外のものと会えば十中八九殺される。だから、もっと人間らしく生きなさい」
「はん! そんなこともう散々言われてきたわ! だが、俺にはお前らを絶滅させるっていう目標があんだよ。ま、お前は優しそうだから見逃してやるよ。あと俺をくん付けで呼ぶな。名字も駄目だ」
はぁ~。やはりそうなるか。答えはなんとなく予想していたが。しょうがない、どこかで道半ば死ぬだろうな。いや、もしかしたら本当に滅ぼせるのかもな。子供の可能性は無限大だ、侮ってはいけない。
「なんだその目は! 俺のこと舐めてんな! あ~あ、もう決めた! お前も絶対に絶滅させてやる!」
「それは楽しみだな。首を洗って待っておくよ」
グギギ、と漫画のような顔をする。久々に子供と関わった。やっぱり、殺すには勿体ない。
「ときに、太陽。なぜ我らはトマトジュースが飲めると思う?他にもなぜ、我にニンニクが効かなかったと思う?」
「知らねぇよ。 血に似てたとか?あとお前が特別だったりするか?」
「正解は慣れ。つまり適応だ。我らは種族間での進化は著しく遅いが、長寿なぶん個体として進化する。人間と同じく我らも自身の毒となるものをだんだんと消していくのだ。つまるところ我らと人間の違いは世代交代で進化するか、自分自身だけ進化するかだけだ」
さっき交戦した以上に困惑と怒りで満ちた太陽の顔が歪み始めた。
「そんな事ありえない! お前らは人を襲い、血を貪る滅されるべき存在だ!」
「確かに、以前我らの命を繋ぐには血しかなかった。うぬらとは違い種族全体で進化することは出来ぬぶん遅れるものもでていただろう。しかし、行き着く先は皆同じだ」
さっきの怒りと、うって変わって静かになってしまった。少し難しすぎたか?
「なんだよそれ…じゃあ!俺らがお前たちを殺さないで待っていたら全員進化して、教会もなんもなくなって、みんないきてたってことかよ…」
これは、まずい。予想外だ。標的がヴァンパイアから人間に移るかも知れん。どうにかせねば
「そうだったかも知れぬな。しかし、結果論だがやってよかったと思うぞ。所詮たられば。どうころんでも襲うやつは襲う。進化せんもんはせん。それらを駆除するのも大事なことだ。我も実際、以前に啜った血を未だに忘れられん。だから、これからも先祖は敬うといい。彼らも正しい事をした」
ここまでで少しは伝わったか?納得してくれると良いが。
「お前なんなんだよ。なにが言いたいのか全然わからん。つまりどういうことだよ」
それはそうか、まわりくどすぎたな。はっきり伝えよう。
「つまり太陽、君が争う必要はないということだ。恐らく我らの同族はここまでで相当数、すでに人間に殺されている。現在生き残っている同族は少なからず血を摂取しなくとも生きていけるように進化しているだろう。そして、今の時代様々な場所に目がある。常習的に血を求めていたら国の警備隊が対処するのも時間の問題だ。だから君が頑張る必要は恐らく、いや、絶対にない」
「そんなことなんでわかるんだ! 血を飲まないように進化しないかもしれないだろう! それに、まだ母さんたちを殺したやつは見つかっていない!」
「あぁ、確かにどう進化するかはそのもの次第だ。だが、自分の生命線をより増やすことが生きるために一番効率がいいと身体は判断するだろう。そして、こう言ってはなんだが、君の母を殺したものも本当に見つかっていない可能性もあるが、秘密裏に処理された可能性も捨てきれない」
ま、これを言って大人しくやめてくれるとは思えないな。復讐の輪廻はつくづく面倒なものだ。しかし、我が口出して少しでもいい方向になってくれるとうれしいのだが。しかし、もうこんな時間か…
「それだけだ。言いたかったのは。もう遅い、どこに住んでいる? 送ってやろう」
太陽は、俯きながらモゴモゴと言葉を落としている
「なんだ? 聞こえないぞ。どこにあるんだ?」
「帰りたくない」
うわ~面倒くさい。どうしろって言うんだ。今日泊めることは特段気にしないが、それでは明日の朝からまた今日は返すかまだここに居座らせるかで悩まないといけないじゃないか。
「どうして帰りたくないんだ? 人間関係があまり良くないのか? 君が帰らなければ心配すると思うが」
「心配なんてしないよ。逃げてきたし。するとしても、持ってきた服とか教会の情報だけだよ。他のみんなもたぶん俺のこと恨んでる」
たしかに、服のサイズは合ってなかったし、カレーも久々と言っていた。逃げたと言ったことからあまり良くない扱いをされていなかったのだろう。この子以外にも
「な、なぁ頼む。今日、今日だけでいい泊めさせてくれませんか。お願いします」
この願いも葛藤の末なのだろう。本人じゃないとはいえ親の仇と同じ種族だ。相当な覚悟だろう
「しょうがない。とりあえずはいるといい。だが、我ももうしばらくしたらこの家を離れる。それまでにどうするか考えておけ」
「本当! ありがとう! お前本当に吸血鬼かよ! あ、でも血はやらんぞ!」
「いらんわ! 布団引いてやるから早く寝ろ!」
今日はいろいろ起こりすぎだ。やっと休める。明日はあいつの分も作らなくてはな。
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