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 とは言ったものの、どうやって「狼憑きの噂」を調べれば良いのだろうか。実際に現地に向かったところで、門前払いされるのがオチだろう。どうせやるなら、徹底的に調べないと。


 一般的に「狼憑き」と呼ばれる事象の大半は現代の科学で証明可能である。昔は冷蔵庫なんてモノはなかったので、パンの保存には大変苦労したという。パンの保存状態が悪いと、ライ麦パンに「麦角菌ばっかくきん」という悪い菌が付着して、その菌が付着したパンを食べると幻覚症状というか、トランスにも似た症状を引き起こすという。そして、結果として狼のように凶暴になってしまい、赤の他人を襲うとされている。――それが、狼憑きの正体なんじゃないかと専門家の間で言われている。


 もちろん、私は実際にこの目で「狼憑き」と呼ばれる症状を見たことがないので、結局のところ優しい人間が凶暴な人間に豹変したところで「狼憑き」だと判断してしまうかもしれない。――所詮、人閒の心理なんてそんなモノである。


 そんなことを考えながら、私はなんとなく「最近発生した狼憑きの事例」について調べていく。流石にそんな都合の良い話なんてある訳ないだろうと思っていたが――どうやら、あったらしい。


【兵庫県北部で暴行事件発生 被害者は重傷 神戸新報 令和×年十二月三日】

 昨日、兵庫県豊岡市○○町で農作業をしていた八十三歳の男性が何者かに襲われるという事件が発生した。最初はクマによる被害かと思われたが、男性の話によると「あれはクマじゃなくて明らかに人閒の男性だった。男性は私に対して噛みついてきた」と証言していた。兵庫県警では、事件と事故の両方から捜査を進めるとしている。


 この記事が本当だとしたら、大神家の誰かが狼憑きの被害に遭って、なおかつ赤の他人に対して噛みついているらしい。――実際に、大神家へと向かうべきか。


 覚悟を決めた私は、早速大神家へと取材を申し込むことにした。とはいえ、「面白半分」だと思われるとかえって不愉快に思われてしまう。ここは穏便おんびんに済ませよう。


 結果だけ言うと、私は大神家への取材申し込みに成功した。どうやら、私が「卯月絢華」という小説家だということも知っていたらしい。――チョロいな。


 とはいえ、私だけでは不安だから――念のために「探偵役」も連れて行くことにした。多分、彼なら私の無茶な要求ものんでくれるだろう。

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