兵庫県北部の某所で発生した狼憑きの事象について
卯月 絢華
令和×年12月3日
1
「――それで、例の件はどうなっているんでしょうか?」
そんなこと言われても分からないし。私は「分かりません」と返すしかなかった。
学生時代に
そんな現状を打破すべく、私は
そもそも、丸川書店から受け取ったオファーとは「兵庫県北部のとある村で発生したとされる一家
とはいえ、京極夏彦はミステリにホラーを組み込んだモノを執筆することが多く、「それなら私でも執筆できます」と担当者に対してうっかり口を滑らせてしまった。だからこそ、こうやってダイナブックの前で頭を抱えているのだが。
私の丸川書店における担当者――名前は
「卯月先生、いい加減にしてもらえないでしょうか? 丸川書店の将来は、卯月先生の新作に
私は、彼の話に反論した。
「矢野さん、私は今執筆に悩んでいるんですよ。それは分かっていますよね。そうやってあなたが
「そうですか。――それじゃあ、来年の一月を目標として小説を仕上げる。その約束、確かに承りましたよ?」
「はい。――執筆出来るように努力しますから、私はこれで失礼します」
そう言って、私は内心怒りながらビデオチャットの終話ボタンをクリックした。――ダイナブックの画面越しに、自分の
不健康で醜い顔を持つ私は「
頬杖をつきながら、私はダイナブックの画面と向き合う。兵庫県北部で発生したとされる一家鏖殺事件をどうやってモキュメンタリーとして執筆していけば良いのだろうか。そんなことばかり考えていると、スマホが鳴った。
仕方ないので、私はスマホのロックを解除していく。私は友人がいないから、どうせメッセージアプリにメッセージが入ってきたとしてもお得なクーポンか広告だろうと思っていたが、その目論みは見事に崩れた。
――卯月先生……じゃなかった。ヒロロン、調子はどう? アタシはそれなり。
――最近、ヒロロンから新作小説が出てないから、ちょっと心配してんのよね。
――それはともかく、ヒロロンが気になるかもしれないネタを提供しようと思ってね。
――唐突で申し訳ないけど、ヒロロンは「
――ああ、「
――それはともかく、「大神家」自体は兵庫県北部……まあ、豊岡とかあの辺って言えばいいのかな。とにかくそこに大きな家を構えているって訳。
――でも、最近その一家の間で不穏な噂があるらしくてさ、当主である
――なんでも、「満月の夜になると自分の息子が『人間じゃない何か』になって人の血肉を喰らっている」って話でさ、アタシはこの件に関して「狼憑き」だと考えたって訳。ほら、京極夏彦の小説でもあったじゃん、そういうの。
――それはともかく、小説のネタにはなるかもしれないんじゃないのかな。アタシ、ヒロロン……というより、卯月先生のことを応援してるから。
――ちなみに、大神家の所在地はここだから。あとはヨロシク。
どうやら、メッセージの主は私の友人だったようだ。友人の名前は「
そんな志村沙織からもたらされた情報――兵庫県北部の「大神家」という名家で発生しているという狼憑きの事象――は、確かに丸川書店から提示された小説の題材である「兵庫県北部のとある村で発生したとされる一家鏖殺事件」と合致する部分が多少あるかもしれない。ならば、この噂をベースとして小説を執筆すべきだろうか?
そうと決まれば、私がやることはただ一つである。――小説を書くのだ。
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