第2話 出会い

 大浴場は貸切だった。

 最高。


 さぁ、さっと上がって、仕事しよう。

 温泉は好きだが、1人で入っていると長時間いられない。


 温泉後には、コーヒー牛乳に限る!


 素早く着替えて、大浴場の共用エリアでコーヒー牛乳を買って、一気に飲み干す。


「プハァー!!」


 周りに聞こえない程度に、全力の感動を出す。

 このために生きてるよなぁ



 ===



 その共用部分に到着し、コーヒー牛乳を飲み干す男性が、視界に入る。

 ――いや、吸い込まれるように視線が飲み込まれる。


「あ、」

 私は、呟いた。意図せずに、声にならない声が出ていた。


「ん? どうしたの? あっ、あの人って・・・」

「うん、やっぱり赤城さんだよ。間違いない。」


「確かに、こう見ると、只者じゃないね笑 コーヒー牛乳飲んでる姿でも様になっているっていうか、」

「うん、かっこいい」


 目が、離せない。

 視線が、吸い込まれたままだ。


 あぁ、飲み終わってしまう。そうしたら、もう会えないかもしれない。

 同じ空間にいるだけでも奇跡なのに、地元に帰省したタイミングで会えるなんて。

 ずっと、このままの時間が続けばいいのに・・・


 コツンと腕に刺激が

 振り向くと、肘で合図してくる。


「話に行っちゃいなよ。千愛の目、ハートになってたよ?」

「うんんん!! 違うもん!」

「ははっ、その反応だけで違わないって分かるよ。もしあれなら私から話に言ってみようか?」


「んっ!?」

 少しだけ、いいかもしれないと思ってしまった。

 今まで、雲の上の人で。

 実在しているかどうかも分からなくて。


 でも、同時に、私が声優を目指すきっかけを作ってくれた人でもあって。


 友の協力を得てでも、一度だけでも話してみたい。

 これからも応援しています、それだけでも伝えたい。


 そして、言われたい。


「もちろん、知ってますよ。上野さんの声好きなんです。応援してます」と。


 それだけで、私は頑張っていける。

 このどうしようもない現実も、何も見えない真っ暗な未来も。


 この世界に入って、後悔したことも、辞めたいと思ったこともたくさんあった。それでも、あなたに一声くれるだけで、私は・・・




「あのー、すみません!」


 気を緩めた瞬間、見つめていた視線の先に、友が赤城さんに声をかけていた。


「えっ! ちょちょっと!!」

 私は、急いで追いかける。



 ===



「ん? はい?」

 この時、俺は視線に気づいていた。

 さすがに、これほどまでの熱視線を送られていては、気づけないことはありえない。


 本来、面倒な客なら、声がかけられないように対策をとる。

 時間は有限で、無駄にできるほど余裕はないからだ。


 だが、今回は違う。


「もしかして、赤城翔さんですか・・・??」


 俺は、キョロキョロと周りを一瞥して、答える。


「はい、そうです。」


「やっぱり!」

 この子は、すごいな。俺を前に全く動じてない。俺もまだまだだな。

 対照的に後の子は、俯いて顔が良く見えない。


「プライベートのところ、すみません! あの、この子が赤城さんのこと大好きで!」

「ちょっ!」


 背中を押されて、前に出される。

 顔がかろうじて見えるようになった。


 顔が真っ赤になっている。


 そして、想像以上に、かわいい。

 知ってたけど。



「あ、あの、ずっと私好きで、応援してて。よければ、握手してもらったりとか・・・・」


(ん、名乗らないのかな)


「えぇ、もちろんいいですよ」


 俺は、手を前に出す。


 それを震える両手で、包み込んだ。


「ハァ・・・」

 吐息混じりの声が聞こえてくる。



「ん? すみません」

 俺は、そう言って、ずっと俯いて見えなかった顔を覗き込んだ。


「ンウェ!?!?」


 変な声を出してのけぞるように後ずさる。


「あ!すみません! いきなり!」

「でも、もしかして、声優の上野千愛さんですか?」



「はっ・・」

 今まで俯いていた顔が、やっと見えた。


「そ、です。あの、私のこと、、知って、、、」



「もちろん、知ってますよ。上野さんの”声”好きなんです。アニメも全部みてますし、応援してます」



 スーッと頬を伝う。


「あれっ、私、ごめんなさい」



「僕も、上野さんと話してみたかったんですよ。よければ、お茶しませんか?」



「ううっ、ぜひ、お願いしますぅぅ」

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