第6話

 再び、学校が始まる。いつも通り、車で学校まで送ってもらいその間は外の雰囲気を満喫する。この時間に外にいるのはスーツを着ている人たちだ。

 母はスーツを着ておらず、メイドはメイド服だ。そのため、珍しいスーツに目を奪われる。

 他にも自転車に乗っている人や大量のぬいぐるみをカバンにつけて歩いている人もいる。


 そんな外の状況を観察していると、いつの間にか学校に着いていたのだ。ここ最近、学校付近に不審者が現れたらしい。しかも、男子生徒がいる時間を確認するかのように駐車場に張り込んでいるようだ。

 護衛もいるため、問題はないが少し不安になる。学校の靴箱まで見送りされ、靴を履き替え、自分の教室へと移動する。


 そんな教室からは賑やかな話し声が聞こえてくる。

「おはよ〜」

 教室の扉を開け、眠たげな目をこすりながら挨拶する。

「おはよう!」


 何人かのクラスメートは振り向き返事をしてくれる。いつも後ろを向いて話している人や、腕相撲や指スマ(名称に地域差あり)をしている生徒がいる。そんな賑やかな空間だった。

 だが、現在は異なっている。全員が正面を向き、本を読んでいたのだ。この年で活字を読むのは難しいはずだ。漫画や自分の好きな本を読むことになる。


 だが、全員が文字の多そうな本を読んでいた。

(……本ブームなのかな?)

 悠里本人はそう考えていた。だが実際には違う。

 話しかけてはいけないというルールもある。さらに、悠里は本を読んでいるという情報がある。そのことから導き出せるのは、話しかけてきてくださいね?というアピールだ。

 前の席にいる文学少女に話しかけたように、他の人たちも話しかけてもらうのを待っている形だった。


「今日は何の本を読んでいるの?」

 先週も会話をした目の前の少女に話しかけた。前回の会話でその本が面白そうだな。と感じるプレゼンをされていた。だが、そのタイトルを聞いていなかったため、知りたかった。


「今日はホラー小説かな?」

「ホラーかー」


 悠里自体ホラーはあまり得意ではない。こう急に脅かされるのが嫌で、見たくないと感じている。ホラー好きのメイドもいるため、たまに巻き込まれている模様。


「そういえば、前に聞いてた本のタイトルって何だったっけ?」

「……ホームズの探偵事務所ってタイトルだね。昔にシャーロック・ホームズって本があってね。その手法を使って書かれているんだー!憧れて、人間観察もしているんだけど、そううまくいかないね!」


「今度読んでみるよ」

 そういったのちに、その本のタイトルを母のLIMEに送信した。


「今日の本ってどんな本なの?」

「んー。心霊系かな?読んでいくうちに、ゾクゾクして体が冷えていくよ?ここ最近ハマっているんだー!」


 嘘である。内心、怖い怖いと思いながらその本を読んでいるのだ。子供というのは想像力が豊かであり、その情景を想像することも容易だ。

 その結果起きるのは、幽霊がいるかもしれないと考えることだ。壁の模様が人の顔に見えて寝れないとかもあるだろう。その現象が起きた。彼女は夜の暗闇の中、トイレに行くことができなくなったらしい。


 その目的は、悠里に覚えてもらうためだ。本が好きな仲間として存在をしている。狙っている人たちは、男子との会話のネタとして、読み始めている。

 専売特許がパクられたのだ。他者と比較してネタが被ると埋もれてしまう。そこでホラーといった誰も手をつけないジャンルを見つけたのだ。

 今は情報社会である。読まずとも調べると感想を見つけることも容易だ。感想を覚え、読んでいるフリをすればよかった。だが、根が真面目で本好きだったため、ホラー小説を読んでしまい今に至る。

 スプラッタなら大丈夫だっただろう。


「…ゴクっ」

 目の前にいる少女が唾を飲み込み、本を閉じ悠里と視線を合わせた。その目には決意が宿っていた。

「家にも本がたくさんあるけど。今度うちに来てみる?」


 そう、遊ぼうというお誘いだ。単に外で遊んだり、買い物に行ったりするのではなく。おうちデートのように家で本を読むための誘いだ。

「行きたいけど、お母さんに聞いておくね?」


 悠里はどんな本があるのかといった本との出会いを気にしている。文学少女は思春期のように、自分のことが好きかもと考えつつも、この結果は誘うことに成功したようなもので心の中で大きくガッツポーズをしていた。


 悠里にとってホラー小説は、よほどのことがない限り読まないと決めていた。腹が減ったとしても虫を食べようとはならない。極限状態や気にしない人なら食べるが、そうじゃない人もいるといった感覚だ。


 この作品のタイトルを聞こうと思わず、その内容を聞くだけにとどまる。そして、その日の授業では、好きな本をプレゼンするといった授業が開催された。

 悠里のためで、会話を作るための授業だったのだ。


 先生は漫画やエロ本を持ってきてプレゼンしていた。さすがにそれはダメだろう(by作者)

 その新たな取り組みに関心をしていた教頭がそのタイミングで現れ、すぐにエロ本を没収していた。漫画の方は、じーっと読んでいくうちに何回か顔を赤くしていたが許容範囲だったらしい。

 その2限分(一時間半)の時間をかけて全員分の本のプレゼンが完了した。心理学の本や実用書といった親が持っていた本を持ってきた人もいる。

 感想だけは暗記していたのかスラスラと答えていたのに対し、自分の意見を言うことはできていない。

『よりよりリーダーになるためには』といった本や『リーダーシップとは』といったタイトルの本を持ってきていた人が数人いた。


「これを使えば、今年度の読書感想文は安泰だー」

 そう教頭は呟いていた。



 __

 後書き

 ……なんか、トラウマまで行かないね

 予定だとこのあたりでトラウマ出すつもりだったんだけど、日常を書くのが楽しすぎてつい伸びてしまいます

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