第7話

「お母さん。今度遊びに行ってもいい?」


 家族団欒の際に母親にそう聞いてみる。

「前も言ってた子?」

「うん!」

「……メイドを一人……いや三人つけるなら行ってもいいよ」

 そう言って、母親は了承した。


 あの前の席に座る文学少女は長女であり、下に複数の妹が存在している。思春期や性知識がないことから、性的に襲われるといった心配は消える。そのため、外に出ないのであれば問題ないと判断したのだ。

 メイドを引き連れているのにも理由がある。忘れている人もいるかもしれないが、この世界にはダンジョンがある。そして、レベルアップをしている世の中であれば、ステータスは超人的なものになっているだろう。

 ダンジョンに潜ったことがない悠里を、組み伏せることなんて容易だ。その護衛としてメイドが派遣される。


 金持ちが使うリムジンのほか、擬態ようにワゴン車も存在している。リムジンは周囲を威圧するため、学校に行くのに使われている。そしてワゴン車は外に遊びに行くために買ったはいいものの、使っておらず今回が初出勤だ。


「うん!四人で家に入れるか聞いてみるね?」

「16時ごろには家を出なさい。ご飯の準備もあるだろうから、迷惑がかかるわよ」

「はーい」


 ここにいる数人のメイドの行動を見ていると大体そうなんだろうと予想ができる。メイドのスケジュールは朝から掃除や洗濯があり、11時半ごろから簡単な昼ごはんが作られる。

 その後はゆっくりと僕と過ごす人やのんびり過ごす人に別れる。そして、16時ごろには干していた洗濯物を取り込み、たたむ作業や風呂場の掃除が始まるのだ。

 そうこうしているうちに、母が帰ってくるので出迎えに行くこともしている。そして17時からはご飯の準備だ。キッチンには数人のメイドが立ち、手際よく料理を進めていた。

 遊び相手になってもらおうと行こうとしていたが、その慌ただしさから迷惑になると判断し自室で本を読んでいたのもいい思い出だろう。


 悠里にとっては、16時から家事が忙しくなる時間と認識している。その時間に帰らなければならないことには納得しているのだ。

「あと、推理小説?だったかな?買っておいたよ。他にも何冊か同じジャンルを用意しているから読んで感想を聞かせてちょうだい」


 そう母は悠里を見つめてにこやかに微笑んだ。

 その本質は、息子の好みの把握だ。本が好きなのは理解しているが、そのジャンルがわからない。今現在、推理小説に興味を持っていることは知っている。

 まず、その小説を渡すことで、喜んでもらいたいという気持ちが出てくる。次に、感想を聞かせて欲しいと言ったことで、息子との会話が生まれてくるのだ。

 その会話をするための話術がここに詰まっている。


 息子を手にした女性は男ママ友の会に強制参加となる。そして、他の人の息子の現状を知ることができるのだ。

 女性不審になり、会話がなくなった子供や部屋から出てこなくなった子供もいる。まだそっちの方がマシだ。中には、金を豪遊し食費が危うくなるケースも存在していたのだ。

 この世界で悠里は異質な存在だ。


 悠里の物欲は全くと言っていいほどない。何が欲しいのかわからないため、母にとってこの会話が良い機会だったのだ。


「ありがとう。お母さん大好き!」

 食事が終わると、そう言いながら母の方に近づき、抱きつくのだった。あざといが、それに前にキュンと心臓を締め付けられるような感覚に陥る。

「ええ、こちらもありがとう」


 抱きついた背中から母の腕が伸び、ぎゅっと体を引き寄せられる。そして、数秒が経過した時にはポンポンと背中が叩かれた。

「ご飯が冷めるから食べてきなさい」


 母は息子に抱きつかれて満足したのだろう。顔は赤く染まり、鼻からわずかに血が垂れている。それに気がついたメイドが急いで近づき、ティッシュやポーションを差し出す。

 その鼻血は悠里が椅子に座り直し、振り向くまでには治っており、悠里にバレていない。

 再び少し冷めた料理に悠里はスプーンやフォークで食事を再開する。


 ***

「ごちそうさまでした」

 椅子に座り直し、両手を閉じ、そう口にする。礼儀は正しくしなさいと教えられて身についたことだ。


「今日のご飯もおいしかったよー。いつもありがとう」

 後ろに控えているメイドの方に視線を向けたのちに、そう言葉にして表す。

「お母さんもおやすみなさい」

「ええ。おやすみ」


 そう言ったのちに、悠里はメイドを二名引き連れ、自分の部屋に戻っていく。いつも勉強をしている机の上には10冊程度の本が積み重ねられ、ラッピングされている。

 これが母が買ってきた本だろうと、察しがつく。風呂に入り、ふわふわモコモコのパジャマに着替え、本を読み始めた。


 集中していたこともあり、入れ替わるメイドや様子を見にくる母のことなんて気がついていない。完全に本の世界に囚われてしまっている。

 目の前にある机に手を伸ばし、本を片付けようとするメイドの行動も気にならない。


 一時間程度集中し、本を読んでいると眠気がやってくる。うつらうつらと船を漕ぎ初め、いつの間にか寝ていた。

 目が覚めた時にはベッドの上で寝ていたのだ。誰かが運んでくれたのだろう。朝日が眩しいが眠気はまだ残っている。いつもよりも早い目覚めだったのだろう。

 今日は何もすることがないため、二度寝をするのだった。


__

後書き

母親とのやりとりってこんな感じでいいのかな?

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男女比のいかれた世界で ひまなひと @haruki0320

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