とうめいな絵の具
不思議乃九
*
みずきは、今日も机の上にコップの水を置いていた。
絵の具なんてなくても、おえかきはできる。
だって、**とうめいないろは、いちばんきれいな色**だから。
「みててね、かあさん」
白い画用紙の上に、水のついた筆をすべらせる。
線は見えない。
でも、みずきにはちゃんと見える。
空の色。
おはようの色。
やさしい笑顔の色。
筆を動かすたび、机にこぼれた水が光って、
部屋の中に小さな虹がゆれた。
「ここが、おててつないでるとこ」
みずきはそう言いながら、
見えない線を、何度もなぞった。
トントン、と部屋の戸をおばあちゃんがたたく。
「みずき、ごはんよ。
……また、おえかきしてたの?」
「うん。かあさんに、みせるの」
おばあちゃんは少しだけ困ったように笑った。
でも何も言わず、そっと部屋を出ていった。
みずきは筆を止めない。
とうめいな絵の具は、乾くともっと見えなくなるけど、
そのぶん、胸の中ではっきりしてくる。
「ねえ、かあさん。
きょうは、どこにお散歩いきたい?」
答えは返ってこない。
だけど、みずきは泣かなかった。
この絵を完成させたら、
ようやく言える気がしたから。
かあさん、
いないんだってこと。
筆に残った最後の水を、そっと画用紙にのせる。
その部分だけ、光を吸いこんで、ゆっくり乾いていく。
みずきは顔を上げて、小さくつぶやいた。
「かあさん。
とうめいな色はね、さみしいときの色でもあるんだよ」
窓から差しこむ冬の日ざしが、
乾きかけた画用紙の“なにも描かれていない場所”を
そっと照らした。
そこには、
みずきが描いた“かあさんと手をつないでる場所”が、
ほんとうにあるように見えた。
とうめいな絵の具 不思議乃九 @chill_mana
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