第一章 その名前は銀と雪の女神
第一章 その名前は銀と雪の女神
第一章 その名前は銀と雪の女神
「 ぅわっ……目が覚めた?」
嫌悪感を隠そうともしない声が漏れてしまい、私『マイ』は慌てて口を塞いで辺りを見回す。
声が聞こえてきたのはアージェント王妃の部屋だ。今、あの部屋にはお付きの人間が一人もいないから、声や物音がしたとしたらそれはアージェント王妃本人ということになる。
「行きたくなぁい」
そう声が漏れても、今度は口を塞ごうとは思わなかった。
むしろ、アージェント王妃に聞こえて、そのままクビになりたいと思っていたからだ。
何せ、アージェント王妃は借金王女であり、敗戦国の捕虜であり、自国の王を不具にした元凶であり、享楽に耽り湯水のように金を使う厄介者でもあった。
ついこの間も、アージェント王妃付きの侍女が粗相をしたからと刃物で切り付けられて運び出されて言った。
その子は結局、城下町で手当を受けて侍女を勤められないような体になったために、退職していいたと聞く。
その前も、さらにその前も、理由はちょっとしたことだ。
アージェント王妃は少し掃除ができなかったら辞めさせ、料理の味が気に食わなければ辞めさせ、どんどんと人を辞めさせていくことで有名だった。
「あぁーん。王様からお墨付きをもらってるって言ってもさぁ! いきなりばさっと切られたら私にはどうしようもないっての!」
もしかしたら、自慢のこの尾を挟みでちょん切られるかもしれない! と思うと……やっぱり扉を開ける気にはなれない。
「………………ヘップシュ!」
むず っとした瞬間、鼻水を飛ばしてしまった。
何せここは王妃宮と言われても気づかないほど埃っぽくて汚くて、しかも隙間風が吹くから寒くって……そんなところに立ち続けてるんだから、くしゃみの一つでも出てしまうってものよね。
……これは、もう誤魔化せない?
アージェント王妃が起きていて、外に侍女が控えているのに挨拶にも行かない なんてありえない。
ありえないけど行きたくないから、もうこのまま見なかったことにしちゃダメなのかな?
「王から名指しじゃなかったら、こんなとこ来ないよー」
廊下はがらんとしていて埃っぽく、かろうじてアージェント王妃の部屋周りの廊下は綺麗だけれど、奥なんかは床にうっすらと埃が積もって足跡がわかってしまうくらいだ。
本来なら鏡のように磨かれていなければならない窓ガラスもくすみ、白いこびりつきで全体的にくすんでいる。
調度品がない分、綺麗に見えているのかもしれなかったが、まったくないから余計に廃墟感を醸し出していた。
どこかから吹く風は冷たい冬の空気だ。
廊下を彩る燭台も絵画もカーテンもすべてないそこは…………
「やっぱり廃墟だな!」
もう恐れなど考えず、はっきりと感想を言ってやった。
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