いつわりの転生王妃

Utuduki.

プロローグ

プロローグ 銀の目覚めの朝




 眩しさは光の女神が目覚めを促すために朝日に託した言葉なのだという。

 けれどこれは少し眩しすぎではない?

 腕を翳して日差しを遮ったのにそれでも四方八方から光は目に飛び込んでくる。

 これでは促すではなくて叩き起こされている状態で……まだ眠っていたい心をへし折るように視界を真っ白に焼いていく。


「ん゙ん゙ん゙っ!」


 眠さに抗えずに抵抗していたが、もう限界だと体を起こした。


「……あら?」


 思わず素っ頓狂な声が漏れる。

 てっきり自室で眠っていたと思っていたのにそうではない。右を見ても左を見ても見覚えのないものばかり……というか、見覚えることができるような物が一つもない状態の部屋が広がるばかりだった。


 辛うじて壁紙ははがされていないけれど、幾つもある窓にカーテンが一枚もないし、壁の下には必ずある巾木ですら引き剥がされた跡が残っている。

 ベッドに本来ならある天蓋もなくて、わたしは不思議なものを見たとばかりにぽかんと口を開けた。


 部屋の広さだけで言うならばかなり広かったけれど、テーブルもなければカーペットもない、鏡台もチェストも、壁を飾る絵画も日焼け跡が残っているだけで存在していない。


 本来なら燭台がある部分ですら、痕が残るばかりだ。

 

「ここ は、廃墟かしら?」


 零れた声にはっと口を押えると、その感覚の違いに飛び上がるようにして手を矯めつ眇めつ見遣る。

 自分の手……じゃない!

 白く長い指に見覚えがなく、自分の手とは比べ物にならないほどほっそりとして美しく、まるで名匠が心を捧げて彫り上げた女神像の指先のようだ。


「あ、あー……」


 そしてそれはさっき漏らしてしまった声も同じだ。

 鈴を転がしたようでありながらも落ち着いた大人の響きを持つ声音は、笑い声をあげるとまだまだ子供だね とたしなめられる自分のものとは思えない。


 けれど、見慣れぬ手は自分の思ったように動くし、声は自分の思いのままに言葉を紡ぐ。


「ぁ、あ、これ、わたし⁉︎」


 思わずぱっと飛び上がって窓ガラスに飛びついた。

 明るい朝の陽ざしの下でははっきりとは見えなかったが、それでも鮮やかな銀色の髪色と光を弾いて湖面のように揺らめく浅瀬色の瞳だけはわかる。


 まるで女神のような色の髪と瞳を持つ人物の名前を、わたしは何の苦も無く口に出すことができた。


「アージェント?」


 きょとんと首を傾げるとガラスの中の幽霊のようなアージェントも首を傾げる。これにより、わたしは自分がアージェント・クリミノ・マルロファーダ王女だと確信した。



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