第3話 色々キツい……

「妹」

「なに、えっと……どっちで呼んだらいい? お兄ちゃんそれとも……お姉……」

「この見た目と母さんも『お姉ちゃん』って言ってんだろ……もう、世界はオレをお姉ちゃんにしたがってるんだって」

 自暴自棄に頭を振る。元々髪は長めだったが、ここまで長くなかった。しかも妹と同じ青髪。


「じゃ、じゃあ……仮にお姉ちゃんって呼ぶね? あの……キツかったら言って」

「ありがと。すまんな、気を使わせて」

「い、いいのよ! その……実際誰だってこの状況はキツイよね……で、なにかな?」

「あぁ……言いにくいんだが……そのの使い方教えて貰っていいですか? しないとだろ、お姉ちゃんなら」

 なぜか敬語。というのも、仕方ない。内容が内容だもの。


「ぶ、ブラジャーか、ブラジャーよね、うん。そりゃ、まぁ……したことないもんね! いや、逆にすっと着けてたら、私引いてたよ? ハハッ……ハハハハハハ〜〜」

 妹の笑い声が申し訳ないが、すっごくわざとらしいし、引きつってる。気を使わせてるんだろなぁ、完全に。兄失格だ、いや姉だった。


「妹よ」

「な、なにかな? お姉ちゃん」

「その……恥ずかしいこと言うんだけど」

「うん」

「オレ、見たことないんだ。その生で」

「えっと、その……?」

「うん」

「そうなんだ、えっと……それで?」


「なんにも感じない。感動も驚きも何にもない。ただ、単に自分の胸?」

 オレは複雑な胸の内をさらした。胸だけに。

「そ、そうなんだねぇ~〜」

「オレ、自分で自分を女だと認めだしてんのかなぁ……」

 妹は言葉に詰まる。高1になったばっかで入学式前の妹を困らせてどうするんだよ、ホントに。でも、何もかもが謎だらけ。

「悪いんだけど、制服もいまいちわからん」


「じゃあ着せてあげるけど……大丈夫かな?」

「大丈夫って?」

「いや、相和そうわって結構ミニだよねって話。そのスカート……」

「ミニ……オレ、スカート履くんだ……お前こそ大丈夫か」

 探り探りの会話。妹に聞いていいのか、判断できないけど聞かずにはいられない。


「えっと……?」

「いや、この、状況とはいえ兄がスカート履くのって、妹として死にたくなるとか……」

「死ぬ⁉ いやいや、だ、大丈夫よ? ほら、なんかどっかで、最初からお姉ちゃんだったかもぉ~〜みたいな? ねえ? お姉ちゃん欲しかったし‼」

 同意を求められても……あと、無理やり納得しようとしてない? とはいえ目の前の現実を見ないと。

 ウチの制服って、標準でもスカート丈短めで有名だった。それを目当てに勉強頑張ったにも関わらず、失恋100敗……しかも女子になってるし……ある意味憧れの制服を手に入れたのか、これって?

 これはなにか? 神さまが男としてのオレに限界を感じて、女にしたってことかなぁ? ん? まさかの神さまの親切心⁉


 はぁ……


 ため息しか出ません。オレは妹に制服だけではなく、靴下まで履かせてもらった。履かせてもらいながら思う。オレ足首細っ! って。これオレの女子の理想像じゃないか。でもなぁ……オレ自身がなりたいんじゃないんだよ、神さま?


「お姉ちゃん、大丈夫! !」

 1つ下の妹は精一杯励まそうとしてくれる。実を言うとこんなにも会話するのは久しぶりだったり。兄のTS化が理由で関係がよくなる兄妹って……いや……姉妹⁉


「あの……まだ自分にかわいさ求めるほど吹っ切れてない……」

「ごめん」

 小さく謝られた。マジな謝罪だろうけど、オレは輪をかけてへこむ。


 どうすんだろ、世間は世界はオレを女の子として、認識してる可能性が高い。

 じゃないと、制服が女子用になってるわけがないし、昨日履いてたトランクスが知らない間に、布地が少ないパンティーになってるなんてイタズラ誰もしない。

 つまりは世界全体がオレを女子にしようとしてるというか、初めから女子だったことにしてるかも知れない。


「あの……オレの名前なんだけど……参考までに教えてくれ」

「えっと……南畝のうねんつばさ……前は漢字だったようなぁ……」

 そう、男の時は『南畝翼』だった。どうやら女子化してひらがなになって、親しみやすい調整されたっぽい。そんな気遣いいらないけどなぁ……


か、なんかかわいいね?」

「妹……ガチトーンで言わないで。お前だって兄にかわいさ求めてないだろ」

 トホホと肩を落とすが、時間は待ってくれない。

 脱衣場の鏡の前。いつもなら寝癖を直す程度。あと歯磨きをしてため息をひとつついて学校に出掛けるのだが、女子はそうはいかない。


「お姉ちゃん、髪。セットしたげる」

 元々長めだったが髪。だけど、こんなにも長くはなかった。いつものように寝癖だけ……そんな感じで終わらせようとしたオレにストップがかかった。


「あの……妹よ、これはなにか? オレに対する嫌がらせだったり……」

 妹に任せた髪のセット。出来上がったのはツインテール。しかも耳の上でぴょこんとほんの少し束ねられて……なんか分からないがラビットスタイルとかいうやつだと思う。

「かわいい……お、お姉ちゃん、想像以上にかわいいよ!」

すい、兄にかわいさを求めないで。まさかツインテールで学校行く日が来るとは……」

「あとは……眉だね、お兄ちゃん、眉ゲジってる」

「眉毛はオレのアイデンティティなんでそっとしておいて」

 オレは力なく鞄を手に妹南畝のうねんすいに手を振り家を出た。すると妹が慌てて後を追いかけてきて、小さな声で叫んだ。


「お兄ちゃん〜〜がんばって! 明日から私も相和行くから〜〜」

 そうだった。

 妹の翠も同じ相和国際学園に入学が決まっていた。そんな新入生入学前の2年になりたての春の日、オレは翠のお兄ちゃんを卒業し、お姉ちゃんになっていた。


 失恋も100敗となると何も感じない。何も感じないが、ふと不安がこみ上げる。

 オレは101回目の告白を誰にするんだろう。まさか相手は男だったりしないだろうなぁ……それだけが不安です。


 ふと、駅前のコンビニに映る自分の姿。相和そうわ国際学園の女子の制服に身を包んだオレ。

 ヤバい……想像以上にかわいくないか。いや、かわいさ求めてないんだけど……でも、オレが男だったら間違いなく101回目の告白はこのコンビニのガラスに映るオレにしてた。

 なんてことを考えてたら、とんでもないことが起きた。

 コンビニ前で不良さんたちに囲まれた。えぇ〜〜オレ男なんだけど、不良さんにナンパされてる……死にたい……


 そんな春の晴れた朝だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る