第4話 まさかの……

、こんないい天気にわざわざ学校かい?」

 ねぇちゃんじゃないです。むしろ兄ちゃんです。

「学校行くの天気関係ないですから……」

 なんで世紀末でもないのに、こんなトゲトゲの服着てモヒカンなんだ?

「ん? 威勢がいいじゃねえか、ねぇちゃん!」

「いや……ははっ……」

 笑って誤魔化すくらいしか出来ない。少なくともオレは、野郎にナンパされる想定なんてしないで生きてきた。


「あの……すみません、遅刻するんで……」

 か細い声が板についてる。女子化が進んでるのか……ちょっとショックだなぁ……いや、朝から野郎たちにナンパされてるよりショックな事はないか。


、こっちが下手したてに出てりゃ調子乗りやがって、おとなしくついて来りゃいいんだよ!」

 いや、世紀末な皆様。その、お言葉ですがたいして下手に出てないですよ?

 失恋100敗したオレなんで、えて言わせてもらいますけど、オタクらモテないでしょ? 

 キレるの早すぎ。

 そんなすぐキレちゃあ、失恋100敗できないよ?

 もうちょい、広い心でですねぇ……いくら失恋100敗してても、さすがにトゲトゲついた野郎にはついて行かないけど……って、腕掴まれた⁉


 ヤバい……信じられないくらいオレの力が弱くなってる。まるで女子みたいって、女子だった‼ えっ、腕力も女子なの? 密かにモテるために筋トレしてたんだけど、胸にも少し筋肉が……あっ、筋肉がDカップになってた‼ 揺れてる‼


 駅前。オレはオロオロと女子っぽく困っているが、世間は――まぁなんて冷たい。みなさん今オレ女子ですよ~~かよわいですよ~~助けてあげて! 泣いちゃうよ、TSして涙腺弱いんだから~~

クソ、世間は冷たいぜ。仕方ない、スネを蹴り上げて逃げるか? いや、股間か⁉


「君たち、嫌がってるじゃないか」

 ひとりの不良さんの股間にロックオンしてるオレに、誰か話しかけてきた。ドドドドドッと特徴のあるエンジン音。黒のバイク。YAMAHAのエンブレム……

 ヘルメットを被って全身黒ずくめ。ついにオレにも白馬の王子様が……これって喜んでいいのか? 昨日まで男だったぞ~~


「なんだ、てめえは⁉」

 ヤバい、どうしよ。定番過ぎる反応。だけど、黒ずくめのライダーはオレを背に庇い、あっという間にバイクの後ろに乗っけられ駅前を後にした。まさにイリュージョン!


 でも、これでいいんだろうか。

 何がというと、オレは咄嗟にバイクの後部座席に横座りして、スカートを押さえながら黒ずくめのライダーの背中にしがみついた。


 女子だ……

 もう、完全に女子だ。しかも本能的に助けてくれた、ライダーの背中をクンクンと嗅いだ。革のいい匂いがする。

 なに、この女子みたいな行動。オレが夢見る乙女だった。まさか、このままこの人とお付き合いなんて……なくはない展開!

 いや、完全にこれボーイミーツガールじゃないか! オレ、もうボーイじゃないけど! えっ、なに? ボーイミーツボーイ⁉ 斬新だけど! いや体、女子だから……ボーイミーツガール? オレ実はちょろインなの? 男なのに⁉


 そうこうしてるうちにYAMAHAのバイクは路肩に停まった。考えてみたら、オレは今女子なんだ。このままホテルに連れ込まれるパターンもある。童貞なクセして女子として初体験してる場合じゃない気がする。気を付けよう。


 でも停車したってことはホテルはないか。いい人で良かった。オレは逃げる際に被せられたヘルメットを脱いで返そうとする。


「君も、相和そうわ国際学園なのかい?」

 黒ずくめのライダー。

 君ということは、この人もだろうか。ウチの高校は免許取得は申請したら出来るので、二輪免許持ってるヤツもいるから不思議じゃないけど……


 オレ、同じ学校の男子の背中クンクンしてたのか? しかも、なんかいい匂いした……おい、まさか細胞レベルで女子になりかけてるのか?

 女子としての幸せをオレは掴もうとしてるのか? なんか、怖い。


「君、名前は? 見ない顔だな」

 そりゃ、つい先日まで男子でしたので。

南畝のうねんつばさです、助けてくれてありがとうございます、サヨウナラ……」

 オレは自分がまさかのメス堕ちまでするのではと、この場を立ち去ろうとした。TS化した上に、メス堕ちまでしたら正直シャレにならんし、すいになんて言えばいいかわからん。去ろう、可及的速やかに。


「やあやあ、待ってくれないか。

 こ、子猫ちゃん⁉ いや、それもう男が男に使う言葉じゃないよ、オレが男だって知ったら、このライダーさんトラウマ発症する、間違いなく。

 そういえば、少し気にならないでもない。

 ――というのも、まだ黒ずくめのライダーさんは、ヘルメットをしたまま。素顔もだし、素の声も聞いてない。聞いたのはヘルメット越しのこもった声。いや、なに顔気にしてる? イケメンならワンチャンとか思ってるのか、オレ⁉


 いや待て、そもそも論。

 女子を子猫ちゃんなんて呼ぶ男子ってどうなの? 遊び慣れてない? きっとブロンドヘアで目元涼し気な御曹司に違いない! 高校生でバイク乗り回すくらいだもの。いや待てよ、オレまさかの玉の輿こし⁉ 男だけど⁉


 すると、脱いだヘルメットから現れたのは、予想通りブロンドヘアで目元涼し気な爽やか――女子だった⁉


「川村……楓佳ふうか……⁉」

 まさかの、あの川村さま⁉ ただでさえ相和そうわ国際学園は美少女が乱立すると有名な高校。美少女の聖地と呼ばれた高校。その中でもひと際目立つ存在、そのグループを川村派閥と呼ばれ、学園の美少女ランキングで美少女過ぎて、殿堂入りを果たした集団。

 ランク付けさえ、おこがましいとされるグループの代表格が彼女。


「なんだ、君は私を知っててくれたんだね、光栄だよ」

 失恋100敗。

 失恋無双の不名誉な称号を持つオレでも、流石に川村楓佳ふうかを代表する、川村派閥には告ったどころか、声も掛けたこともない。

 クラス替えがあり、同じクラスなのは知ってたが……


南畝のうねんつばさ、だったね。転校生かい? 見ない顔だからね?」

「いえ、その……2年になって、大幅にしたと言いますか……」

 男子から女子に、大幅イメチェンしたのは確かです。

「そうか、イメチェンか。それはいい、どれ近くで見せておくれ」

 そして、まさかのあごクイ。

 オレ、男なのに女子にあごクイされてます。しかもしげしげ見られてます……ヤバい、いつ息したらいいんだ⁉ 翠~~お兄ちゃん、窒息しそう‼


「そうか、つばさか。うん、君はアレかい? 恋人というか、お付き合いしてる人がいたりするのかい?」

 恋人? お付き合い? 失恋無双のオレが? オレは首がねじ切れそうな勢いで首を振る。すると川村さんは、今度は自分のきれいな顎に手を沿え聞いてきた。


「じゃあ、どうだろう。つばさ、この私、川村楓佳ふうかとお付き合いするというのは?」

 どこかの歌劇団風に言われたのだけど……


 えっ、これって告られた⁉ いや、いまオレ女子なんだけど~~っ⁉ まさかの女子同士で⁉

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