第2話 – 普通の日常

「おっはよーう......!」

「うわぁぁっ!?」

静かな朝、突然明の妹・奈里由紀が現れ、愛する兄を常識外れの騒ぎで起こした。

彼女は明の腰の上に座り、悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

「へぇぇ…何ぃぃ……私の愛するお兄ちゃんが天使ちゃん家まで送るだって.....っ」

「しかも、相合傘って....?やるじゃんお兄」

今日は本当に手加減しない。わざと体を低くして、明をもっと近くでからかう。

「お前…ひかげんにー!」

明が捕まえようとした瞬間、雪は跳び上がり、ドアへ駆け出した。

相変わらず、彼女は本当に素早い。明は彼女のスピードに決して追いつけない。

「わははははは…捕まえられるものなら捕まえてみろ!…わはははっ!」

彼女はドアの前で立ち止まり、まだ我に返っている明をからかうだけだった。

用事を済ませると、すぐに走り去っていった。

足音が速く響き、止まった。おそらく今は台所にいるのだろう。

「この野郎…」

明はゆっくりと起き上がったが、頭が痛むことに気づいた。

徹夜で仕事をしていたため、今日は十分な睡眠が取れていなかった。

それに加えて、雪が突然現れてあんな風に起こしたのだ。

しかし、明が顔を上げると、壁掛け時計はすでに7時30分を指していた…

それを見て、彼の目が少し見開かれた。一瞬、雪の行動に腹が立った。

でも、たぶん雪は、明の散らかった勉強机を見てわざとそうしたんだろう。

今日、明を学校に行かせるために、最も効果的な方法で起こそうとしたのだ。

まだ電源が入ったままのノートパソコン、机の上や床に散らばった紙、そしてノートパソコンのそばのペン。

すべてが、昨夜明が経験したストレスのおかげで散らかっていた。

明は重い足を引きずりながら部屋を出て、おそらくもう台所にいる雪の後を追った。

しかし、部屋を出る前に、まず自分の机に向かい、パソコンでCtrl + Sを押して保存し、電源を切った。

名入・雪——明と同じ学校に通う、美しく人気のある少女。

両親の話によると、明は5月に生まれ、雪は翌年の3月に生まれた。

つまり教育システム上、彼らは同じ学年で学校に通っている。

「お前...もうひかげんにしろよ...」

「もう高校生なんだから。」

部屋を出ると、雪が白いタンクトップとショートパンツ姿で食卓に座っていた。

「何よ!私が愛するのお兄ちゃんにそんなこといけないわけ?!」

彼は抗議するように、パンを持った手をテーブルに叩きつけた。

「リフジン」

「それこっちのセリフ!」彼は眉をひそめ、イライラしながら明を指さした。

この年齢になっても、まだ子供っぽい振る舞いをしていた。

しかし、彼女がこんな風に振る舞うのはここだけなので、明は特に気にしなかった。

とはいえ、この妹と恋愛関係になる男性が可哀想に思えた。

だって、あの大きなサンドイッチをむさぼり食う様子を見ればわかる。一口で半分も残らない。

しかも、馬鹿げた表情でむさぼり食っている。

明は、彼女のこの性格が作り物なのかどうか確信が持てなかった。

おそらく、現実世界で彼女に起きたことへのストレス発散の方法なのだろう。

「あ、そうそう、今日あのライトノベルの続きが出るらしい。」

「うーん…じゃあ後で買うよ。」

「わぁぁい…!お兄ちゃん大好き!じゃあ、私の分もお願い。」

彼女はテーブルの上の水を手に取り、会話の合間にのんびりと飲んだ。

「はぁぁ…?自分で買えよ。」

「ダメだ。」

「あたしが本屋でラノベの棚じーっと見てたら、ユメカの他のやつら、なんて言うと思う?」

「…」

奈々里雪はオタクだった。

そんな事実を誰もが受け入れられるわけではない。

お嬢様という立場上、そんなことは表向きは隠している。

「わかったよ」

明は反論も拒否もできなかった。妹が苦労して築いた評判を、些細なことで台無しにしたくなかったのだ。

「じゃ私、ちょっと着替えてくるわ。」

残りのサンドイッチを半分ほど平らげると、彼女は席を立ち、テーブル脇のバッグを手に取ると、そのままトイレへ向かった。

明の前でサンドイッチとフライドポテトを作っていたのは、他ならぬ雪自身だった。

そして彼女がわざわざ明のアパートまで来て、こんな馬鹿げたことをする様子を見ると……

明は、数週間会っていない妹が自分を恋しがっている可能性以外には考えられなかった。

一方で、そんな妹がいることに感謝している。

しかし、その活発すぎる行動にはよくイライラさせられる。しかも予測不能だ。

「やるじゃん、お前...…」

「なんだよ」

教室では、相変わらず元気がない様子だった。

机の上に組んだ腕の上に寝そべり、賑やかな教室の真ん中で。

徹夜した長い夜の後、眠気を抑えきれなかったのだ。

結局、三列目の窓際の自分の席で横になっていた。

そして今、彼に話しかけている男子生徒は、中学時代からの親友・篠秋悠司だった。

「やぁぁ.....一人で学校に来て、嵐に遭った天使を助ける」

「だれでもできるじゃないぜ、あれ」

「待て、なんでわかった?」

明は思わず顔を上げた。その目つきだけで、悠司は親友が自分に多くの疑問を抱いていることを悟った。

しかし、説明する代わりに、彼は腕を組んで得意げに言った。

「へへん…俺たちの友情の絆を舐めるんじゃないぞ」

両眉を上げて、うっとうしいほど自信満々の顔をしている。

気づかぬうちに、明は片方の眉を上げた。一方では腹が立つが、もう一方では未解決の疑問があった。

ある重要なことに気づく前に、

「あ...っ!まさか遠くから立っていて、いつも俺を尾行しているのは…?」

「へへん、照れる」

「じゃないわ!」

鼻の下で指をこする悠司に、明は鳥肌が立った。

思わず立ち上がり、抗議するようにテーブルを叩いた。

「安心して、親友よ。誰にも言ってないから。」

「はぁ…」明はなぜ悠司そこまでやったのか、自分でもわからなかった。

今できるのは、疲れた息を吐いて再び横になることだけだった。

あの時怖くなかったと言えば嘘になる。

でも、その時は優奈が隣を歩いていた。

だから彼は平然を装いながら、不審な人物の動きを注意深く観察し続けた。

彼らを尾行するストーカーは、優奈の熱狂的なファンかもしれないとさえ思った。

まさかその人物が、特定の理由で自分を尾行していた親友の篠秋悠司だとは夢にも思わなかった。

一方で、何も悪いことが起きなくて良かったと安堵した。

一方で、なぜ雄二がそんなことをしたのか疑問に思った。

「とゆうか、なんでそんなこと待ってたんだよ」

「怖い…?」

「怖いにきまてんだろう、たく…」

この時点でさえ、悠司はまだ理由を言わず、むしろからかっている。

しかし、明が再び抗議する前に、悠司はついに口を開いた。

「ま…何だ。昨日、あんな天気なのにまだ学校にいるって言ったから、ちょっと心配して」

「急に連絡が取れなくて…異世界とかに飛ばされたのかと思って。だからちょっと見に来たんだと思って」

「…」一瞬、明は言葉を失った。

彼女は必死に、折りたたんだ手の裏で赤らんだ顔を隠した。

「な、なんか…ありがとう」

「まぁ…もし君がポータルで異世界へ飛ばされたら、俺も一緒に行けるかなって…へへん......」

「......っ」

明は目を閉じ、純粋に心配してくれている悠司の気持ちを、自分が勘違いしていたことに気づき、自分が馬鹿だったと悟った。

「お前……!この、この…!!」

「あはははは…はははは…」

彼は、イライラしながら制服の襟を何度も引っ張る明を見て、笑いを止められなかった。

悠司にとって、明をこうやってからかうのは、彼にとっての楽しみだった。

明は知っていたが、それでもほぼ毎回、ユーモラスな暴力で応酬していた。少なくとも彼自身にとっては。

「おっは!…って、何やってんの?」

「えーん…別に。」

今のところ明は、悠司の恋人・高島千夏が突然背後から現れたため、仕方なく後退した。

「あ、ちー...先生職員室にいるのか?」

「うぅん…見ない」

「そうか」

ちーは、悠二が最愛の恋人、千夏を呼ぶ時の呼び名だった。

それは、誰もが理解できるわけではない、一種の愛情表現だった。

あきらも例外ではなかった。彼は、彼女を持ったことがなかった。

彼女はオレンジ色の光沢あるショートヘアの少女だった。

その柔らかなショートヘアがふんわりとまとまっている様子は、彼女が髪を大切に手入れしている証拠だった。

驚くべきことに、この雲ひとつない日にも、まだ授業をする先生はいなかった。

しかももうすぐ昼休みだ。

昨日が全国大会の最終日のはずなのに……

まさか全員、最終目的地が北海道の新幹線で寝落ちしたのか?全く理解できない。

とにかく、今日は先生がいなかったから、間接的に休み日扱いになる。

生徒は全員登校していたのに。

「なあ明、食堂に行かないか。」

彼が今やったことの後で、全く疑っていないと言えば嘘になる。

「ま、やることないし。」

だがそれ以上に、彼は腹を満たしたかった。もう昼休みの時間だ。

食堂へ向かう途中、明はできるだけ彼らの真ん中を歩いた。

移動中やその後で邪魔にならないように努めた。

食堂に着くと、悠司と千夏は向かい合って座り、明は悠司の隣に座った。

明の隣には空席が一つ、千夏の隣には空席が二つあった。

この学校の食堂のテーブルはとても大きく、6人が同時に座れるほどだった。

夢川高校、通称ユメカ高校。クリエイティブ分野で成功した卒業生を輩出する有名高校は、さすがだ!

時々、学校の食堂で昼食をとる時、明はメニューの中で一番辛いものを選ぶ。

今回は、提供されている中で最も辛いレベルの牛カツラーメンを選んだ。

一方、悠司と千夏もラーメンを注文した。しかし、彼らはそれほど辛くないものを選んだ。

おそらく辛い食べ物があまり好きではないのだろう。

「何度食べても、うまいなあ、これ」

「あまり頼まないけど、これ美味しい。」

「うん、うん。濃厚な味わいに香ばしいスパイスと少しの辛さが絡み合って…」

「これからよく頼むかも。」

注文したラーメンの味を互いに称賛し合う中、騒がしい食堂の入り口で突然物音がした。

明たちは自然と騒ぎの元へ目を向けると、二人の美しい女子生徒が昼食のトレイを運んでいるのが見えた。

「うちの学校、今年は本当に美人だらけだなあ…」

悠司は食事を噛みながら、明の腕の横から騒ぎの元を見つめながらそう呟いた。

「まあ、俺らには関係ないだろうけど」

「まあ、確かに。」

突然、小さな手が明の肩を叩いた。

振り返ると、雪と優奈が隣に立っていた。

「お兄様、ここに座ってもいいですか?」

お兄様——雪が学校や家族以外の人がいる場所で明を呼ぶ時の呼び名だ。

こういう時、お嬢様気取りの雪は人前では優雅な一面を完全に発揮する。

彼女がそうするのは理由があってのことだ。もともと名入家は名門の家柄だったからだ。

少なくとも昔はそういう評判だった。

明自身はそんな面倒なことはしたくなかった。

その結果、彼は家族の伝統に従おうとしなかったため、祖父から厳しい罰を受けたことがある。

確かに、現代社会ではそんな話は馬鹿げているように聞こえる。

しかし、それは由緒ある家族の古い伝統の一部であるため、少なくとも雪はある程度までは続けるつもりだった。

「あぁぁ…」

「ありがとうございます。」

明は雪が自分のためにしてきた犠牲をよく理解していた。

しかし、兄として彼は気にしなかった。

彼は雪を家外でも家の中と同じように扱いたかった。

だから彼は普通の口調で話し、一般的な高校生のユメカのような形式ばった言い方はしなかった。

「お、お邪魔します。」

優奈は他の皆と一緒に座った。千夏の隣の空席に、明と向かい合う形で。

一方雪は明のすぐ隣に座った。

「あの、名入さん…お兄様って…」

「ああ…実は明くんは私のお兄様です」

「ですが、苗字が…」

「家族に少し問題があって。あまり詮索しないでくれると足し借ります」

雪はすぐに優奈の質問を遮り、会話の流れを完全に止めた。

彼女の好奇心に満ちた表情から、優奈の頭には多くの疑問が渦巻いていることが明らかだった。

しかし、友人のプライバシーを尊重するため、彼女は質問を控えた。

そして昨日の出来事については、幸いにも悠司がそこへ話題を誘導するような発言をしなかった。

彼はあまり話さずに自分のラーメンを楽しんでいた。

念のため、彼は警告するような冷ややかな眼差しで彼を見つめた。

しかし、悠司は噛みながら無邪気な眼差しでその視線に応えた。

まるで食べ物を噛んでいる最中に話しかけられた子供のように。

「そいべあ、明、冬にまたどこかで行ってるの?」

「うん、そうゆうするつもり」

「へぇ…いいな…また名入さんと一緒?」

「まぁ......」

年に数回、明は執筆中のライトノベルの題材を探す旅に出るのが常だった。

そして彼と同行するのは、妹の雪だけだった。

明の古くからの友人である悠司と千夏は、親友が何をするつもりかよく理解していた。

しかし、部外者で何も知らない優奈は困惑した様子で尋ねた。「…二人きりですか?」

雪は優奈の質問に答える前に、一瞬目を閉じて食べ物を飲み込んだ。

「はい。ふだんは二人だけです」

「キャンプも、ホテル泊まりも、温泉も、寝る時も、いつも一緒です」

「いや、温泉はしていないだろう」明が抗議を挟んだ。

雪は明と共にしたことを、流暢に、そして誠実に説明した。

ただし、意図的に言い換えた部分もあった。

優奈は言葉を失った。疑いの眼差しで二人をじっと見つめている。

「あなたたち…実の兄弟ですよね?」

「うーん…その質問、答えしたくないな......」

「え?」

雪が答えないのを見て、優奈は少し驚いた様子で、肩がぴくっと動いた。

「だって、私が来たのは明さんが一人で行くのが怖がったからです。」

横から、明が冷ややかな目つきで彼女を睨みつけ、まるで「うそつくな!」と言わんばかりだった。

それを見て、雪は言い直した。「一人で行きたくないからです」

それでも、雪は両方向からの視線を受けながらも、相変わらず落ち着いていた。

「んん…」

優奈の疑いの眼差しの中、突然悠司と千夏が立ち上がった。

「じゃ俺たちもう終わったから、お先に」

「私も…」

千夏は去る前に手を振った。幼なじみであり恋人同士である二人は揃って席を立った。

「え?じゃあ俺も」

明も立ち上がり、食堂の席を離れた。

明が二人を残して去る前に、振り返って見た。

雪は一人でラーメンを楽しんでいるようだった。彼女はもうすっかり慣れていた。

明は雪が優奈と話をしているのを見て、ためらうことなく自分の用事に戻った。

一方優奈は、あの兄妹にまだ疑念を抱きつつも……

深呼吸をしてから、休み時間が終わる前に雪と一緒に食事をすることにした。


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