愛必要の天使様は、自分の気持ちに嘘をつけない件
@ShiromineAira
第1話 – 初めての出会い
「傘、持っていないか?」
嵐のような雨の中、彼女は――白石優奈は校舎の前に一人で立っていた。そこに一人の見知らぬ男が話しかけてきた。
「こんな雨じゃ、きっと長く待っているだろう。無理に帰っただとしても、きっと風邪をひたんでしょう」
「僕、湯三浦明 (ゆみうらあきら)。よかったら、家まで送ってやる。」
明がこの学校に通い始めてから、もう一ヶ月が経っていた。そして優奈は彼と同じ学年だった。
しかし、同じクラスにいるだとしても、
しかし、二人は一度も言葉を交わしたことがなかった。その理由は....
優奈の人気の高さが、入学初日から始まっていたからだ。
「続いて、一年代表、白石優奈さん。」
彼女の足が表彰台に上ると、皆の視線が彼女に注がれた。
鮮やかな青色の髪は手入れが行き届き、滑らかで光沢を帯びていた。
サファイアのように輝く美しい青い瞳、均整の取れた小さな体、言葉では言い表せない優しさを放つ日本的な美貌。
これら全てを兼ね備えた彼女―白石優奈は、天使のような自然な魅力を放っている。
「おはようございます、皆様」
そして彼女の声を聞いた者は誰もが、白石優奈の声がこれまで出会ったどの女の子よりも優しいと認めるだろう。
その日、皆は演壇で演説する彼女を感嘆の眼差しで見つめた。そしてその時から、彼女を「天使」と呼ぶようになった。
そして今日は登校する最悪の日だった。
厚い黒雲が、一筋の光さえも地上に届かせない。それに伴う激しい風と稲妻。
そしてこの最悪の日に、明は一人、黒板消しを手に窓の外を見つめていた。
閃光が闇を一瞬切り裂き、轟く雷鳴が続いた。
心の中でどうしてもあることを考えてしまう。
(今日、誰か異世界に飛ばされているんじゃ.......ないよね?)
オタクとしての経験から、彼はこうした状況のシーンを何度も見てきた。
例えば、主人公がトラックに轢かれる、事故に巻き込まれる、谷に落ちる、あるいは突然足元に魔法陣が現れるといった展開だ。
「帰るか。」
これ以上できることはなかったため、彼は消しゴムを返し、鞄を取ると去っていった。
どこへ歩いても、閃光と轟音だけがあった。
轟音が途切れる瞬間、彼は自分の足音さえもはっきりと聞き取れた。
今日は全教師が沖縄へ行き、選抜された生徒たちの全国大会参加を支援している。
教師がいない学校は、実質的に休校日と言える。
しかし教師側は「通常授業を実施」と宣言。生徒には課外活動や遊びなど他の行動を推奨した。
予想通り、今日学校へ行く者は誰もいなかった。
明も同様で、実は今日学校に行くつもりは全くなかった。
しかし、心の奥底では、今日行かなければ貴重な機会を逃すだろうと告げていた。
そうなれば、一生後悔するに違いないと確信していた。
何度も自分に行かないように言い聞かせたが、心の奥で何かが強く抵抗していた。
だから、彼は無理やり学校へ向かった。
(はぁぁ…今日行かなきゃよかった。)
彼は疲れたようにため息をつき、自分のしたことに後悔した。
一方で、彼は自分の好奇心を満たした。満足感と後悔が、彼の心の中で衝突し始めた。
(あいつ、あそこで何してんだ?)
彼が靴を履き替えて建物を出た直後、彼はみんなのアイドル、白石優奈が腕時計を確認しているのを見た。
優奈は時々顔を上げて、止む気配のない嵐の雨を眺めていた。何かを心配しているようだった。
実は明は彼女と深く関わりたくなかった。少しでも間違えれば、学校の全員が彼を殺すかもしれないからだ。
しかし、彼女を置いて行こうと思った瞬間、彼女の潤んだ瞳と掻きむしるような仕草が目に入った。
(何待ってるんだよ…俺。)
「傘持ってないのか?」それが彼の頭に浮かんだ最初の言葉だった。
「あ、はい。」
轟く嵐の音の中、優奈は背後から聞こえた声に反応し、音源へと身を投げ出した。
その表情から、明らかに驚いていることがわかった。それだけでなく、まるで自分以外に誰かがいることに気づいていなかったかのように。
まあ、それは驚くことではない。
天候と状況からすれば、誰もがこの明かりの消えた学校に誰もいないと思うだろう。
「あれ、あなたは確か…」優奈が彼を知らないのも無理はない。
というのも、明はこの学校で数人の友達しかいない孤独な人間に過ぎなかったからだ。
人気者というわけではなく、2年生や3年生でさえ彼を知っているが、直接話したことがない者も少なくない。
しかし、優奈はその顔を見覚えがあった。彼は、入学初日に彼女の方を振り向いたのと同じ男だった。
「こんな雨じゃ、きっと長く待っているだろう。無理に帰っただとしても、きっと風邪をひたんでしょう」
「僕、湯三浦明 (ゆみうらあきら)。よかったら、家まで送ってやる。」
直感的に、明は優奈に一緒に帰ることを提案した。
特に理由はない。ただ、多くの人の憧れの天使である彼女が無事に目的地にたどり着けるように手助けしたかっただけだ。
「湯三浦さん…ですか」
優奈は彼を見て呆然とした。何しろ、男性と二人きりで話すことに慣れていなかった。
だから、彼女は当然のように緊張し、こんな状況でどう振る舞えばいいのかわからなかった。
それに、心の奥底で、なぜか奇妙な温かさを感じていた。
この男性を信頼しても構わないと思わせる何かが。
気づかぬうちに、彼女は目の前の男性を端目でずっと見つめていた。
「じゃ、行こうか。」
「は、はい。よろしくお願いします」
優奈を長く待たせたくないと思い、彼はすぐに傘を開いてキャノピーの外へ歩み出た。優奈はその後を追った。
彼女の瞳の輝きが以前とは違っていた。すぐそばでそんな笑顔を見せる彼女を見て、今日は学校に行くのをどれほど必死に拒んでいたかを思い出した。
しかし今、彼女はもう学校へ行ったことを後悔していないと感じていた。
優奈にとって、誰かと二人で帰るのも、ましてや二人で傘を差すのも初めてだった。
普段なら、男性からこんな提案をされたら、優奈は「ごめんなさい、傘自分で持っています」と断るだろう。
でも今回は、本当に傘を忘れたのだ。不運なのか、自分でもわからなかった。
この距離から、明は優奈の落ち着く香りを嗅ぎ取れた。
それは彼女が使う石鹸の香りだった。
しばらくの間、二人は全く話さず、どちらからも会話が始まることはなかった。
明自身、こんな風に彼女のそばにいる資格がないと自覚していた。ましてや二人で傘を共有するなど。
明がこんなことをしたのは、ただ彼女を傷つけたくなかったから、悲しませたくなかったからだ。
彼女を家まで送った後、二人の関係は元通りになる。
他人同士。必要がなければ、話す必要もない。
「.......っ!」明は突然、鳥肌が立った。誰かに見られているような気がしたのだ。
彼は少し後ろを振り返って確認した。
そして案の定、彼女の目尻の端に、青いレインコートを着た誰かが嵐の真っ只中に一人立っているのが映った。
謎めいた人物が、雨嵐の中、うつむいたままレインコートのポケットに手を突っ込んで立っている。
一方、優奈はこっそりと明を好奇の眼差しで盗み見ていた。聞きたいことが山ほどあった。
しかし、今が質問するタイミングなのか、彼女自身もわからなかった。
「ゆ、湯三浦…さん、そう呼んでもいいですか?」
結局、優奈自身が会話を切り出した。明は謎の人物に気づかないふりをしていた。
おそらく、この気まずい空気が居心地悪かったのだろう。
しかし、その視線と赤らんだ頬から、明は何か別の理由があると感じていた。確信はなかったが。
「うん」
明が軽くうなずいて返すと、優奈は眉をひそめた。
どうやら明が距離を置いていることが、彼女を不快にさせているようだった。
「ねえ、湯三浦さん、今日はどうして学校に行くんですか?」
優奈はまだ諦めきれず、次の質問を投げかけ、距離を縮めようとした。
「今日は当番だから、ついでにやろうと思って。」
明の言ったことは嘘ではない。今日は確かに当番の日だった。
しかし、それを聞いた者は誰もが奇妙に感じるだろう。
こんな天候の中で、どうしてこの人は平然と当直を続けられるのか!
きっと、普通の人ならそう尋ねるだろう。
そして状況は変わらない。明は相変わらず距離を保っていた。
彼女が明の行動を理解していないわけではないが、ただ明が距離を置いているのを感じるだけで……
なぜか胸が痛んだ。
優奈は自分の手を胸に当て、苦しそうな表情を浮かべた。
何も言わずに明をちらりと見ると、その瞳には奇妙な輝きが宿っていた。何かが彼女の好奇心を刺激しているかのようだった。
「あの、明さ... 彼女、いますか?」
明は反射的に彼女の方を見た。優奈はうつむき、横を向いていた。
正直、明はそんなことを聞く意図がわからなかった。だから率直に尋ねた。
「なんでそんなこと聞く?」
「.......気になっただけです」優奈は短く答えた。
顔を隠す優奈の態度から、明はこの会話の行方を全く読み取れなかった。
明の心の中では、二つの相反する考えが対立していた。
一方では真実を語るべきだと主張し、もう一方では嘘をつくべきだと訴えていた。
両者には具体的な理由と異なる視点があったが、結局明はどちらかを選ばねばならなかった。
「いない。すくなくとも、今は作る予定もない」
心が二つに分かれていたが、正直に選ぶべきだと胸が告げた。だから彼は真実を語ることを選んだ。
「そうですか......」
優奈の短い返答に彼は戸惑った。
頬を赤らめて奇妙な笑みを浮かべる優奈の表情から、明が推測できたのは一つの可能性だけだった。
それは、彼のような孤独な人間には到底不可能なことだった。
だから彼は深く考えないことにした。
もし推測を間違えれば、多くの人から嫌われるリスクが急激に高まり、人生が苦痛に満ちることを恐れたのだ。
道中、明はただ優奈が行きたい場所へついていった。
質問も抗議もせず、優奈が曲がる方向や進む方向に従った。
「じゃあ、俺はこれで」
「はい、今日はありがとうございます、湯三浦さん」
最期の瞬間まで、優奈はあの甘い微笑みを浮かべていた。なぜそうしたのか、その理由はわからない。
優奈が無事に家に着いたことを確認すると、明は自分の家へと帰った。
優奈の家は二階建てで広々とした建物で、豪華に見えた。それに加え、高価そうなクラシックな装飾品が施されており、明はすぐに優奈が裕福な家庭の出身だと気づいた。
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