第四十八話:未来視が揺れる夜――撮影者の“次の仕掛け”が見える
深夜。
アパートの部屋は、いつになく静かだった。
パソコンを閉じて、ベッドに腰を沈める。
今日の雨宮の分析は、確かに大きな前進だった。
だが同時に――
胸の奥底に、ずっと冷たい影が残っている。
撮影者は“俺を知ろうとしている”。
俺の未来視を、理解しようとしている。
「……くそ」
ため息を吐き、目を閉じた瞬間。
――世界が、裏返った。
■1. 未来視が、ひさびさに“荒れる”
映像が急に流れ込んでくる。
いつものように滑らかではなく――
断片的で、ノイズを含んで、揺れている。
視界の端に、暗い部屋。
机の上に、黒いカメラ。
その横に並んでいるSDカード。
そして――ディスプレイの光だけが顔を照らす“誰か”。
だが、顔だけは見えない。
カメラの角度なのか、意図的なのか、影が濃い。
その人物は、画面に映る俺の動画を停止し、
指で何度も巻き戻し、再生し、コマ送りする。
——技術者の手だ。
動きが迷いなく、無駄がなく、冷たい。
(……どこだ、ここ)
暗い部屋。
壁に無地の布。
音は何も聞こえない。
ただ、映像の端に――
白い付箋と、赤いペンの落書き。
そこには歪んだ字で書かれていた。
「予知の“条件”を探せ」
その文字を見た瞬間、視界が大きく揺れた。
未来視が乱れている。
撮影者の“意図”が強すぎるのか?
■2. “次の仕掛け”が姿を現す
映像が別の場面へ切り替わる。
街の雑踏。
誰かが、コートのポケットからスマホを取り出す。
画面には、俺の配信のサムネイル。
タイトルと再生数。
その人はそれをスクロールし……
――ある場所の地図を開いた。
(また、来る……)
未来視は細かく見せない。
地名も消され、駅名もぼやけ、まるで“言ってはいけない未来”みたいに曖昧だ。
ただ、ひとつだけ鮮明だった。
地図に、赤い丸印。
その下に書かれたメモ。
「次は“予知者”の動きを誘導する」
胸が一気に冷たくなる。
(誘導……俺の動きを?)
次の瞬間、電気が落ちたみたいに視界が暗くなり――
未来視は途切れた。
■3. 夜の静寂で、心だけがざわつく
「はぁ……っ」
息を吐いたとき、背中が汗で濡れていた。
落ち着いて深呼吸しようとするが、胸の鼓動は収まらない。
撮影者は、俺の未来視そのものを実験対象のように扱っている。
それが確信に変わってしまった。
「……雨宮に、連絡するか……?」
だが、こんな夜中に……。
そう迷っていると、スマホが震えた。
通知の名前は――
雨宮舞。
『起きてますか?
どうも嫌な予感がするので……確認したくて』
偶然ではない。
雨宮は勘が鋭いわけではない。
ただ、俺の様子の変化を敏感に感じ取るタイプだ。
(……言うべきか?)
迷ったまま、返信の画面を開く。
「さっき……未来視が来た。
“撮影者が次に仕掛けてくる”映像だ」
送信。
するとすぐに返信が来た。
『大丈夫です。
落ち着いて、あとで話しましょう。
あなたの未来視は乱れてない。“あなた”が揺れているだけです』
『詳しくは明日、会って整理しましょう。
ひとりで抱えないでください』
その短い文が、体温のように胸に染みる。
雨宮は、いつも“余計なことを言わない”。
ただ必要な言葉だけをくれる。
(……助かる)
スマホを置き、深く息を吐いた。
■4. 眠れないまま、明日の不穏を思う
撮影者は次に何をするつもりなのか。
未来視に見えた“誘導”とは何なのか。
そして――
「俺を、どうする気なんだ……」
答えはどれも、黒い霧の向こう側だった。
眠気が来ないまま、窓の外が白んでいく。
夜が終わり、新しい一日が始まる。
そして俺たちは――
**撮影者の本気の“次の一手”**に、踏み込むことになる。
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