第三十二話 過熱する世界

 事件はニュースにはならなかった。

 だがネットの中では――別の爆発が起きていた。


 仮面の予知者の動画が一晩で再生数を跳ね上げ、

 コメント欄は加速度的に増えていた。


「次の配信いつ?」

「もっと未来を教えてくれ!」

「身元特定班、動きます」


 おまけに、まとめサイトやニュース風ブログまでもが取り上げる始末。


 さらには――


 大学内でも噂が一気に広がった。


「この大学に“予知できるやつ”がいるらしい」

「仮面の予知者、絶対うちの学生だよ」

「記者が張り込みに来てるってマジ?」


 講義棟の入口に、見慣れないスーツ姿が数人。

 カメラらしきものも見える。


 ネットの過熱は、もう止まっていなかった。


■雨宮に言うべきか


(……どう伝えればいいんだよ、これ)


 雨宮の母の状態は好転しつつある。

 だからこそ余計に、混乱を与えたくなかった。


 でも俺には、もう逃げ道がなくなりつつある――。

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