第三十一話 “助ける”という現実

 それは突然だった。


 いつものように、机に突っ伏して微睡んだ瞬間――

 視界に“未来”が滑り込んできた。


 今度の予知は、以前よりはるかに鮮明だった。


■“次の未来”の具体化


 夕暮れどきの公園。

 ジョギング中の男性が、突然ふらつき、倒れる。

 駆け寄る人はいない。

 通報されるのは――倒れてから三分後。

 救急車が到着するのはさらに五分後。


 それが“致命的な時間差”になる。


 だけど、未来はもう少しだけ続いた。


 ——助かる未来と、

 ——間に合わない未来。


 その分岐が、目の前に重ねて表示されたみたいだった。


「三分……いや、二分以内に通報が入れば助かる……!」


 予知がはっきりとそこまで見せたのは初めてだった。


■走るしかなかった


 俺は教室から飛び出し、全力で走った。

 公園は大学から歩いて十五分。

 だが自転車なら五分以内。


「間に合え……頼む……!」


 予知の内容を何度も反芻する。

 倒れるのは“今”から約七分後。

 通報はそれより三分遅れる。

 俺が先回りしていれば――変えられる。


 公園に着いた瞬間、息が切れた。

 だが、予知の“時間”はまだだ。


 そして。


 ジョギング中の男性の足取りが、突然乱れた。


「倒れる……!」


 男が地面に崩れ落ちた次の瞬間、

 俺はスマホを握り、すぐに119番へ。


「今、公園で男性が倒れました! 呼吸が浅いです!」


 震える声で状況を伝える。

 通報は――予知よりも三分早かった。


■未来が変わった瞬間


 救急車は予知より四分も早く到着した。

 隊員たちが処置を行いながら、俺へ短く告げる。


「君の通報が早かった。助かったよ。ありがとう」


 その言葉が、ゆっくり胸に落ちていった。


(……未来、変えられたんだ)


 予知能力を得てから初めて“誰かを助けられた”実感。

 だがその喜びは、長く続かなかった。

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