第二十三話 揺れる光景
白い光がぱっと弾け、
世界が音もなく“未来”の色に変わった。
■予知の映像
場所は病院。
雨宮の母の病室が見える。
ベッドのわきには看護師。
モニターのアラームが鳴っている。
雨宮の母は、強い痛みに顔をゆがめ、
呼吸が浅く、途切れそうだった。
(……やばい……急変だ)
心臓が冷たく沈む。
だが次の瞬間、映像は二つに揺れた。
まるで可能性が“分岐”しているかのように。
■一つ目の未来:絶望
母の容態は急激に悪化し、
医師と看護師が総出で処置に当たる。
呼び出されて駆けつける雨宮。
白くなった顔。
震える声。
けれど――
手を握った直後に、モニターのラインは――
(……見せるな……!)
胸が締め付けられ、息が止まる。
■二つ目の未来:希望
同じように急変は起こる。
だが医師の処置が成功し、
容態はぎりぎり持ち直す。
呼吸が安定し、
モニターのアラームが止み、
看護師が安堵の息をつく。
雨宮は涙を流しながら
母の手を握りしめ――
それが“間に合った”ことに、
何度も何度も感謝していた。
(……どっちだ……?
どっちが“現実”になる……?)
映像はそこで途切れた。
■現実へ
光が消え、カフェの空気が戻る。
雨宮が俺を震える声で呼ぶ。
「……見えたんですか?」
息がうまく吸えなかった。
これを言えば、雨宮は……
この先ずっと怯えるかもしれない。
(でも……約束した)
逃げることはできない。
俺は必死に呼吸を整え、言葉を絞り出した。
■未来を告げる
「……雨宮。
さっき……未来が二つ見えた」
「二つ……?」
「どっちも共通してるのは……
“病院でお母さんが急変する”ってことだ」
雨宮の表情から血の気が引く。
「でも……」
俺は続けた。
「一つは……かなり危険な未来だった。
処置が間に合わない可能性がある」
雨宮の膝の上の手が、きつく握られる。
泣き出しそうな顔。
でも、逃げない。
だからこそ、言わなければならなかった。
「もう一つの未来は……処置が間に合って、
お母さんが助かる未来だ」
雨宮がふっと息を吸い、目を見開く。
「……助かる……未来……」
「どちらが“確定”かは分からない。
でも、助かる未来が“見えた”ってことは……
希望は確かにある」
雨宮の目から、ゆっくり涙がこぼれ落ちた。
■雨宮の受け止め方
彼女は顔を伏せ、
肩を震わせながらも、声を絞り出した。
「……ありがとう……
本当に……ありがとう……」
「雨宮……」
「正直、怖い。
怖くてどうしようもない。
でも……
“助かる未来がある”って分かったから……
私は、そっちを信じたい」
涙を拭き、
雨宮は震える笑顔を見せた。
「……私、ちゃんと覚悟します。
急変が起こるなら……
絶対に間に合わせます。
私が、お母さんを守ります」
(……なんて強いんだよ)
本当なら誰よりも不安で、
泣き崩れてもおかしくないのに。
雨宮の強さが胸に刺さった。
そして同時に――
俺の責任は、さらに重くなる。
(もし悪い未来が現実になったら……
俺の言葉は……雨宮を壊すかもしれない)
その重さが、
背中にのしかかるようだった。
透子がそっと俺の手を握る。
「……大丈夫。
あなたが見せたのは“可能性”なんだから。
悪い未来があったなら、回避できるように動けばいい」
その言葉に、ほんの少し救われる。
雨宮は深く息を吸い、
決意を込めて言った。
「……病院、行ってきます。
今日のうちに先生に相談します」
強い目だった。
涙を流しながらも、
前を向いていた。
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