第四話 そして、日常が崩れ始める

その日も大学帰り、なんとなく百円を出した。

 外は夕日で穏やかだった。

 今日も何も起きないだろうと思っていた。


 しかし――


カチリ。


 視界に映った未来は、これまでで最も鮮明だった。


『数分後、駅前のロータリーで“誰か”が事故に巻き込まれる。

 その瞬間、君は――』


「……っ!?」


 映像はそこで途切れた。

 誰が、どうなるのか。

 なぜ途切れたのか。

 そして、なぜ俺がそこに巻き込まれるのか。


 今までの軽い予兆とは違う。

 これは明確な“重大事件”だ。


 俺は百円玉を握りしめる。


「……足りない。情報が足りない」


 さらに百円。

 だが、未来は――


 映らなかった。


「なんでだよ……!」


 足が震えた。

 神社で最初に予知が始まった日よりも、ずっと寒気がした。


 駅前のロータリーへと走る。

 夕暮れの街に、胸の鼓動が響いた。


 百円で未来を買える男は、

 ついに“未来が見えない未来”と対峙する。

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