006 「魔法 ~Magic~」

 朝起きたら知らない場所にいた。そんな経験はないだろうか。

 そんな事あるわけない。

 そうお思いのそこのあなた! 人生は小説よりも奇なりという言葉をご存じないですか?


 目が覚めると俺は……木の上にいた。


「……なんで?」


 そこは川岸近くの木の枝の上。俺はしがみつくようにしてそこにいた。


 え、なにこれ?

 

 意味が分からない。魔力切れを起こして意識を失ったところまでは覚えている。そこから後のことはまったく記憶にない。


 もしかして、サポートさん?


 可能性としてはそれ以外考えられなかった。


(回答。危機的状況だったため緊急措置としてマスターの身体を操作いたしました)


 おお、やっぱり。体中擦り傷だらけなのはそのせいか。

 服がちょっと焦げているのもそのせいか。腕に巻きついた蔓とか一体どうやって登ったのか定かではないが、命があっただけめっけもんである。


(申し訳ございません)


 いやいや、あのままだったら獣に襲われて死んでいたかもしれないし結果オーライ! グッジョブサポートさん!


(…………)


 どこかサポートさんのほっとしたような気配が伝わってくる。


 それにしても、魔力切れを起こすと意識を失うのか。今後のことを考えて注意しないといけないな。


 俺は木から降りて川岸に向かう。

 案の定、川岸はひどいありさまだった。

 そりゃ川岸で肉を焼いていれば動物たちがやってくるよね。どれくらいの間意識を失っていたかは分からないけど日の傾き方からしてかなりの時木の上にいたようだ。


 燻製肉や石で作ったかまども壊されていた。思い入れはないけど壊されたのはやっぱりショックだった。それよりも保存食用にと作っておいた燻製肉がなくなったショックは大きい。


(回答。保存食は無事です)


 ナンデスト!


 サポートさんの言葉に俺は目を輝かせた。

 でも、どうやって? どこかに隠しているのだろうか。

 

(回答。回復した魔力を使って【捕食】を実行しました)


 サポートさんの説明では、逃げる前にわずかに回復した魔力を使って燻製肉を「捕食」しておいたということだった。


 サポートさんマジすげぇ!

 もう、俺いらないんじゃないかと思っちゃう。


(回答。そんなことはありません。あなたのお役に立ててこそ、私はその存在意義を果たすことができるのです)


 謙虚なサポートさん。こんなサポートさんに支えてもらえるなんて俺はなんて幸せ者なんだ。


 周囲を注意深く探索してみた。獣はいないようだ。

 とにかく草やら木の枝など色々なものを集めていく。最低でも火を起こせるだけの薪は必要だ。


 森を探索しているだけでかなりの時間を使ってしまった。


(回答。周囲が暗くなり始めています。夜は危険です。危険を回避するための行動を推奨します)


 俺は空を見上げる。

 夕暮れ時なのか、ほのかに空が赤みがかってきている。


 どうする? さっきの木の上に避難しようか、さっきの枝はそれなりの太さがあったから、一晩くらいならなんとかなるかもしれない。


 そう考えていると。


(夜は夜行性の動物が徘徊します。木の上も危険と判断します)


 ……だそうだ。


 それなら、穴でも掘ってそこに隠れるか……でも、穴を掘るなんて今のこの状況じゃ無理だ。


(回答。スキル【捕食】を使えば効率よく穴を掘ることができます)


 えっ、なにそれ、そんなことできるの?


 俺は試しに近くの岩に手を当てた。


 スキル【捕食】!


 目の前の大岩が俺の目の前で手の平に吸い込まれるようにして消えていく。

 重さも何も感じなかった。


「すっご!」


 いや、これやばいでしょ! これは掘削業界の大革命ですぜダンナ!


(回答。速やかなる行動を推奨します)


 喜んでいるとサポートさんに釘を刺されてしまった。分かってますって。


 俺は川岸近くの高台に岩壁を発見した。ここなら万が一川が増水しても大丈夫だろう。


(補足。スキル【捕食】は捕食する範囲を指定することができます)


 ほほう。言いたいことはなんとなくわかったぞ。


 スキル【捕食】!


 発動するとすぐに岩が切り取られたようにえぐれる。


 お、これは意外と便利な能力のようだ。削りすぎた時には「復元」で元に戻してから削りなおした。作業しながら思ったのだが、捕食できる範囲はせいぜい十メートルくらいか、これなら煙突も作れそうだ。

 魔力の残量を気にしながら俺は掘削作業に没頭した。

 どれくらいの時間頑張っただろうか。


 気がつけば、外は真っ暗になっていた。


 とりあえず内装は明日以降に頑張るとして、今日はとにかく休もう。

 捕食ができるんだからその逆ももちろんできる。放出した岩で入り口をふさいで地面に横になる。

 こんな固い地面の上で眠れるものかと思ったが、気が付いたら朝になっていた。

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