005 「調理 ~Wild Cooking~」

 カンカン!


 適当な石を大きな石に当てて削っていく。

 石によって割れ方が違う、色々な石を削りながらやっと肉が切れそうな石ナイフが出来上がった。その時ついでに火花の散る石も発見。偶然にも俺は「火」を手に入れることができた。


 血抜きをした牙狼をサポートさんの指示に従いながら石ナイフで解体していく。牙狼を解体することに俺は怖さも感じなかった。これは生きるために必要なことなのだと自信を納得させる。

 血抜きをしたら、食べる以外は川に入れて冷やして保存する。とりあえず燻製か干し肉にして保存しやすくしておこう。燻製の仕方はあんまりよく知らないけどなんとかなるだろう。


 簡単なかまどを作って木の枝に差した肉を焼く。

 かじりついた。まぁ、思ったより悪くない味だ。牙狼なんて初めて食べたけど(当たり前か)しばらくの間は保存した肉で食いつなごう。

 調味料なんてない。せめて塩でもあればなぁ。

 文句を言っても始まらない。

 川の水はそのまま飲んだ。本当なら煮沸が必要だろうけど今は道具がないので無理。大きな葉っぱでも見つけたらお椀代わりにして煮沸してみるか。

 そんなことを考えながら、この世界に来て初めての食事を終えた。


 それにしても石を削ったり、火をおこしたり……まずは道具がないと始まらない。特に火をつけるのは雨の日とか難しいだろう。


(提案。火魔法を習得すると手間が軽減されます)


「な、なんですと……!?」


 魔法!? 今、魔法とおっしゃいましたか?


(回答。土魔法と同じ要領で火魔法を習得することができます)


 ん? 土魔法?

 いつの間にそんなの習得したんだ?

 とりあえずステータス確認。


 NAME:???

 LEVEL:1

 HP 2/10 MP 5/10

 JOB:世界の管理者

 SKILL:管理者権限Lv1・英知の書Lv2・復元Lv2

 MAGIC:水魔法Lv1・土魔法Lv1


 ん? 水魔法も習得してる。


 その時、俺の中で何かがひらめいた。


「もしかして」


 肉を水に浸す、石を削って石ナイフを作る……「経験」することで魔法を習得することができるのか!


(回答。その通りです)


 いや、でも火は習得していないみたいだな。火を起こすだけじゃダメなのかな。


(火魔法は直接経験していないため習得できませんでした)


 つまり、道具の力で起こした現象は習得条件に当てはまらないという事か……簡単なようで難しいな。経験するってことは火の中に手を突っ込むとか……いやいやそんなことできないし。


 じゃあ、どうやって習得するのかな?


(回答。燃えている木の枝を一度消してください)


 俺は言われた通り石で作ったかまどから木の枝を取り出す。軽く振ったら火はすぐに消えた。


 これでいいのか?


(回答。それでは木の枝を「復元」してください)


「……ん?」


 よくわからないけれど。サポートさんが言うんだったら信じて実行するのみ。


 スキル【復元】!!


 すると、燃えカスだった枝が逆再生のように元に戻っていく。


 そしてーー


 俺の手には火のついた木の枝が握られていた。


(報告。火魔法を習得しました。【復元】がレベルアップしました)


 …………え?


 何? 今ので習得したの? 


 ステータスを確認してみると……



 NAME:???

 LEVEL:1

 HP 2/10 MP 5/10

 JOB:世界の管理者

 SKILL:管理者権限Lv1・英知の書Lv2・復元Lv3・捕食Lv1

 MAGIC:水魔法Lv1・土魔法Lv1・火魔法Lv1



 なんか予想もしていないスキルが追加されてるんですけど、捕食って何? もしかしてさっき食べたから「捕食」をマスターしたとか? つまりは肉の栄養を捕食したから。


(回答。その通りです)


 よく分からない理屈だ。


 まあ、捕食の件は後で考えるとして、今は火魔法の方だ。


 ええっと、どうすればいいのかな。


(回答。火魔法は習得しているためイメージすれば使用することができます。その際、あらかじめキーになる言葉を設定しておけばより具体的に具現化することができます)


 ほほう。つまりは……

 手の平を前にかざす。


「ファイヤーボール!」


 ぽん! と火の玉が目の前に現れる。そして、すぐにその場に落ちてしまった。


「おおおおおおおおおおおおおお!!!」


 すげぇぇぇぇ! 魔法だぁぁぁ!


 思わず声が出た。そりゃ、復元も魔法かもしれないけど、なんかこう「魔法」って感じのを初めて感じた瞬間だったんだから仕方ないじゃないか。


「ファイヤーボール!」


 二個目の火の玉。今度は目の前に飛び出していく。今回はイメージ通り飛び出していった。


 それじゃあ次は……

 ちょっとけだるいけど。

 俺の予想が正しければ、イメージがそのまま魔法になるのであればできるはずだ。


「ファイヤーウォール!」


 俺の背丈の二倍くらいの火の壁が現れた。

 すごい。これなら獣に襲われても逃げられるだけの……時間稼ぎには……なる……


 あれ……おかしい。

 目の前が暗くなる。


(回…答…。まりょく……ぎ…れ……デス)


  身体から力が抜けていく。鉛のように重い。

 自分の体が崩れ落ちるように倒れるのが分かった。


 ……あ、これやばいかも……


 俺は薄れる意識の中で大きくため息をついた。

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