004 「初めてスキル ~My first skill~」

 ガルルル!


 牙狼が唸り声を上げ俺を睨みつける。

 俺は先ほど一緒に落ちてきた木の枝を拾い上げて構えた。武器としては心許ないけどないよりはましというものだ。


 うまくいくのかな。


 不安に駆られたけど俺は頭を振って不安を振り払った。

 うまくいかなかったら死ぬだけだ。


「よし、やってみるか」


 ゆっくりと木の枝を水平に構える。

 枝は俺の腕の半分くらいの太さだ。長さは俺の片腕くらい。武器として見ても全く役に立ちそうにない。歩く時の杖くらいにしか役に立たないだろう。

 でも、今の俺にとってこれが唯一の武器だった。まさに俺の命を預ける「相棒」だ。

 牙狼と睨み合うことしばし、先に動いたのは牙狼の方だった。


 牙狼が姿勢を低くした。


(警告。牙狼が飛び掛かってきます)


 言われるまでもない。


 ウガァァァ!


 牙狼が飛び掛かってくる。


「うわあぁぁぁ!」


 牙狼が吠え、俺も負けないくらいの雄たけびを上げて木の枝を突き出した。木の枝が牙狼の口に突き刺さる。でも、力が弱く致命傷ではない、せいぜいが口の中を少し傷つけたくらいだろう。


 それでいい。


 全ては、サポートさんの作戦通りだ。


 牙狼は頭を振って木の枝を振り払おうとした。俺は必死になって木の枝を牙狼の口に更に押し込んだ。


「復元!!」


 俺の叫び声にあわせて木の枝が「元の姿」に復元される。


 つまりーー


 ゴシャッ!


 鈍い音と共に牙狼の頭が弾け飛んだ。血しぶきを上げて木の枝が伸びていく。俺にも血がかかったけどそんなことはどうでもよかった。


 牙狼の体から力が抜けていくのが分かる。牙狼が倒れた。肺の空気が抜ける音がする。


(報告。牙狼を倒しました。NAME:???がレベルアップしました。復元がLv3になりました)



 NAME:???

 LEVEL:2

 HP 15/15 MP 15/15

 JOB:世界の管理者

 SKILL:管理者権限Lv1・英知の書Lv2・復元Lv3



 おお! ち、力が……うん。湧いてこないな。なんかちょっと身体が軽くなったような気がする。


 でも、これで仕組みがわかった。何らかの経験を積むことでできることが増えていく。今はまだ弱いけど、どんどん強くなっていくのかな。

 

(報告。川の音を感知しました。周辺に水辺があります)


 耳を澄ますと微かな川の流れの音が聞こえる。牙狼に気を取られていて気づかなかったみたいだ。

 茂みの向こうにかなり大きな川を発見した。


「やった!」


 俺はついに水を手に入れることができた。


(提案。先ほど倒した牙狼の血抜きを提案します)


「血抜き?」


(回答。血抜きを行うことで動物の肉の臭みを除き腐敗を防ぎます)


 俺は周辺のツタを集めてなんとか牙狼を木の枝に吊るす。頭を失った牙狼の身体は重かったけどなんとか吊るすことができた。


(血抜きが終わりましたら、川の水で肉を洗浄してください。その際に肉を切るための石ナイフの作成を推奨します)


「分かった」


 サポートさんの言葉に頷きながら俺は複雑な気持ちになった。俺は誰なのか、ここはどこなのかは分からないのにさっきの「血抜き」や「石ナイフ」の言葉はすんなりと理解できた。


 これってつまり、誰かに意図的に記憶をいじられているってことなのかな?


 うーん。分からない。分からないことは悩まない。

 

 俺はそんなことを考えながら川岸に降りていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る