『AIに敗北した「町工場」のおっさんたち、異世界で「重工業ギルド」を立ち上げる ~「魔法でくっつけた? 甘えだ」とドワーフを一喝し、神業「溶接」と「旋盤」で伝説の武器を量産する~』
AIに仕事を奪われた「町工場」の職人たち、異世界で伝説の武器を量産する
『AIに敗北した「町工場」のおっさんたち、異世界で「重工業ギルド」を立ち上げる ~「魔法でくっつけた? 甘えだ」とドワーフを一喝し、神業「溶接」と「旋盤」で伝説の武器を量産する~』
無音
AIに仕事を奪われた「町工場」の職人たち、異世界で伝説の武器を量産する
【第一章:黄昏のモノづくり】
西暦2035年。東京都、大田区。 かつて「モノづくりの街」として世界にその名を轟かせたこの場所も、今は静まり返っていた。 自動運転のトラックが音もなく通り過ぎる路地裏に、一軒の古びた町工場がある。
『玄田(げんだ)製作所』。 創業80年。戦後の焼け野原から初代が立ち上げ、高度経済成長期を支え、バブル崩壊もリーマンショックも乗り越えてきた、精密加工の老舗だ。
だが、3代目の社長である**玄田(げんだ)源治(げんじ)(65歳)**は、今日、その歴史に幕を下ろそうとしていた。
「……そうか。とうとう、決まったか」
ゲンは、油で黒ずんだウエス(布)で愛機の「汎用旋盤」を愛おしそうに拭きながら呟いた。 隣に立つのは、タブレット端末を持った若い銀行員だ。
「申し訳ありません、社長。今の時代、AI制御の完全自動ファクトリーがあれば、24時間無人で、ミクロン単位の製品が作れてしまうんです。……職人の『勘』や『手作業』に払うコストは、もう市場にはありません」
銀行員の言葉は正論だった。 AIの進化は止まらない。かつて「神業」と呼ばれた職人の技術も、今やプログラム一つで再現され、安価に大量生産されている。 人間が汗水垂らして鉄を削る時代は、終わったのだ。
「分かってるよ。……機械に罪はねぇ。俺たちが古くなっただけだ」
ゲンは短く吐き捨てた。 銀行員が去った後、薄暗い工場に、二人の男が入ってきた。 近所の工場仲間であり、同じく廃業が決まった「戦友」たちだ。
一人は、テツ(62歳)。 頭に遮光眼鏡を乗せた、溶接の達人。 「テツのアルゴン溶接は、魚の鱗(うろこ)より綺麗だ」と言われた男だ。
もう一人は、サブ(58歳)。 小柄だが岩のような前腕をした、板金(ヘラ絞り)の職人。 プレス機を使わず、棒一本とテコの原理だけで、硬い金属板を複雑な曲面に加工する。
「ゲンさん。……終わったんだってな」 「ああ。来週には解体業者が入る。この旋盤ともお別れだ」
三人は、動かなくなった機械たちの間にパイプ椅子を広げ、安酒(ワンカップ)を開けた。 工場の窓から、茜色の夕日が差し込む。 空気中に舞う鉄粉と油の粒子が、光を受けてキラキラと輝いていた。
「俺たちは、何だったんだろうな」
テツがポツリと言う。
「朝から晩まで鉄と向き合って、指紋がなくなるまで磨いて。……それが『非効率』の一言で片付けられちまう」 「AIが作った製品は完璧ですよ。データ通り、寸分の狂いもねえ」
サブが悔しそうにワンカップを煽り、ドンと空き缶を置いた。
「でもよ……そこには**『味』**がねぇんだよ。人間が使う道具としての、温かみっつーか、遊びがねぇ。ただの冷たい工業製品だ」
ゲンは何も言わず、旋盤のハンドルを撫でた。 手のひらに馴染む冷たい鉄の感触。油の匂い。これが俺の人生の全てだった。 まだやれる。目は見えている。指先の感覚も鈍っていない。 だが、世界はもう、俺たちを必要としていない。
「……飲むか。今日は朝まで」
黄昏時。 時代に取り残された職人たちの、葬式のような宴が始まった。
【第二章:境界の鉄扉】
深夜2時。 酒盛りを終えたゲンは、酔い覚ましに工場の奥へと向かった。 そこには、創業当時からある「開かずの扉」になっている、重厚な鉄製の防火扉があった。 元々は隣の倉庫へ繋がっていたはずだが、ビルが建て変わって以来、コンクリートで塞がれてしまっている場所だ。
「……最後だし、この扉の蝶番(ヒンジ)も油さしとくか」
職業病だ。錆びついたものを見ると放っておけない。 ゲンは油差しを持って、扉の蝶番に油を注いだ。 そして、何気なくドアノブを回した。
ガチャン。
開くはずのない扉のロックが外れた。 同時に。 **ヒュオオオォォォ……**という、奇妙な風切り音が聞こえた。 工場の油臭い空気とは違う、もっと生臭い、鉄と土と血の混じった風が、扉の隙間から吹き込んできたのだ。
「……あん? どこに繋がってんだ?」
コンクリートの壁があるはずの向こう側から、光が漏れている。 LEDの冷たい光ではない。松明のような、揺らめく暖色の光だ。 そして、金属が激しくぶつかり合う音。 キンッ! ギギンッ!
「テツ! サブ! ちょっと来い! なんか変だぞ!」
ゲンの声に、酔っ払っていた二人が千鳥足でやってくる。 三人は顔を見合わせ、意を決して重い鉄扉を押し開けた。
ギィィィィ……!!
錆びた蝶番が悲鳴を上げ、扉が全開になる。 その向こうに広がっていたのは、大田区の路地裏ではなかった。
石造りの巨大な回廊。 煤(すす)で汚れた高い天井。 そこは、どこかの「城」の武器庫のようだった。 ただし、平和な場所ではない。
「ひぃっ……! お、折れた!?」 「予備の剣を出せ! 早く!」 「もうありません! 全てナマクラばかりです!」
鎧を着た兵士たちが、血相を変えて走り回っている。 床には、折れた剣やひしゃげた槍が山のように積まれていた。 そして、その中心で、一人の少女が折れた剣を握りしめ、泣きそうな顔で立ち尽くしていた。 ボロボロのドレスに、銀の胸当て。姫騎士のような格好だ。
「……なんだ、こりゃ。映画の撮影か?」
テツが呆然と呟く。 だが、ゲンは違った。彼の目は、少女が持っている「折れた剣」に釘付けになっていた。
「……ひでぇ鍛冶(仕事)だ」
ゲンは思わず声に出した。 少女がハッとして、こちらを振り向く。
「だ、誰ですか!? どこから入って……」
彼女は警戒して折れた剣を構えるが、ゲンはズカズカと歩み寄った。 異世界の騎士たちも、薄汚れた作業着姿の老人たちに気圧されて動けない。 ゲンは少女の手から、強引に剣をひったくった。
「こりゃあ『鬆(す)』が入ってらぁ。温度管理がなってねぇ証拠だ。それに、焼き入れが甘いから粘りがねぇ。叩けば折れるに決まってる」
ゲンは指で断面をなぞり、吐き捨てるように言った。
「こんな鉄屑を握らされて命をかけろってか? ……ふざけた話だ」
少女が目を見開く。
「わ、わかるのですか……? この剣は、宮廷鍛冶師が打った最高級品のはずなのに……」 「これが最高級品? 笑わせるな」
ゲンは後ろの二人を振り返った。
「おいテツ、サブ。……出番だぞ」 「おうよ。こんなナマクラ見せられちゃ、酒が不味くなる」 「へっ、俺のヘラ絞りで鍛え直してやらぁ」
職人たちの目に、久しぶりに「生気」が宿った。 ここは自分たちの知る世界ではないかもしれない。 だが、目の前には「質の悪い製品」があり、それに困っている「客(使い手)」がいる。 ならば、やることは一つだ。
ゲンは少女に剣を突き返して言った。
「嬢ちゃん。俺たちに任せな」 「え……?」 「修理(リペア)じゃねぇ。……『改良(カイゼン)』だ。日本の町工場の技術、見せてやるよ」
ゲンは工場の奥に戻り、愛用の工具箱と、小型の発電機、そして溶接機を引きずり出してきた。 不思議なことに、工具たちは淡い光を帯びている。 この世界と繋がった影響か、それとも職人の魂が宿ったのか。現代の鋼が、異世界の魔鉄すら加工できる「神話級ツール」へと変貌していたのだ。
鉄の扉が、異世界と町工場を繋ぐゲートとして固定される。 廃業寸前の町工場が、異世界の武器庫(最前線)と直結した瞬間だった。
「さあ、仕事の時間だ!!」
【第三章:頑固者 vs 頑固者】
城の地下にある「王立鍛冶場」。 そこは、熱気と轟音が支配する空間だった。
カンッ! カンッ! カンッ!
筋肉隆々のドワーフたちが、赤熱した鉄をハンマーで叩いている。 その中心に、一際巨大な髭を生やしたドワーフの親方がいた。 王宮筆頭鍛冶師、ガンズだ。
「おい人間! 勝手に入ってくるんじゃねぇ! ここは神聖な火の仕事場だぞ!」
ガンズが、ゲンたちを見て怒鳴り散らす。 姫騎士(名はアリスというらしい)が慌てて仲裁に入る。
「待ってガンズ! この方たちは、異界の……その、職人なの。折れた聖剣を直せると仰って……」 「はぁ!? 聖剣だぁ!?」
ガンズは、ゲンが持っている折れた剣を睨みつけた。
「バカ言え! その剣は『オリハルコン』と『ミスリル』の合金だ! 一度折れちまったら、溶かして打ち直すのに半年はかかる! 直せるわけがねぇだろうが!」
ドワーフたちが嘲笑う。 彼らにとって「金属加工」とは、火とハンマーと、付与魔法(エンチャント)で行うものだ。 ゲンたちのような、油の匂いがする作業着の男たちが理解できるはずがない。
「……おい、テツ」
ゲンはドワーフの罵声を無視して、後ろに声をかけた。
「半年かかるそうだ」 「気が長え話だな。カップラーメンが出来上がる前に終わらせてやるよ」
テツが前に出た。 彼は愛用の遮光眼鏡(サングラスのような溶接面)を装着し、ポータブル溶接機(バッテリー式)のスイッチを入れた。 手にはトーチ、反対の手には溶接棒。
「おいチビ。……目が焼けるから、直視すんじゃねぇぞ」
「あ? 何を言って……」
テツがトリガーを引いた。
バチチチチチッ!!!!
薄暗い鍛冶場に、太陽のような青白い閃光が走った。 アーク放電だ。数千度のプラズマが、瞬時に金属を液状化させる。
「うわああっ!? 雷魔法か!?」 「目が、目がぁぁぁ!」
ドワーフたちが悲鳴を上げてのたうち回る。 テツは動じない。 火花の音を聞き、溶け落ちる金属(プール)の状態を見極める。 オリハルコン? ミスリル? 知ったことか。 金属である以上、融点はある。そこを見極めて繋ぐのが、溶接屋の仕事だ。
ジジジジ……。 繊細かつ大胆に、折れた刀身を接合していく。 まるで、傷口を縫い合わせる外科医のように。
「……へい、お待ち」
数十秒後。 テツが面を上げると、そこには一本に繋がった聖剣があった。 接合部には、美しい「魚の鱗(ビード)」のような波模様が刻まれている。
「な……なんだこれは……?」
ガンズが恐る恐る近づき、剣を見る。 歪みがない。気泡もない。まるで最初から一本だったかのように、分子レベルで融合している。
「魔法も使わずに……一瞬で……?」
「『アルゴン溶接』だ。……ま、ただくっつけただけじゃ売り物にならねぇ。ここからは、仕上げ屋(ゲンさん)の出番だ」
【第四章:1000分の1ミリの領域】
ゲンが前に出た。 彼はポケットから、愛用の道具を取り出した。 **「キサゲ(スクレイパー)」**と呼ばれる、ノミのような形をした鋼の工具だ。 そして、青いインクのような塗料(光明丹)を剣に塗る。
「いいか、ドワーフ。てめぇらの剣がなぜ折れるか教えてやる」
ゲンはドワーフの作業台(定盤)に剣を置き、こすり合わせた。 インクがまばらに付着する。
「『平面』が出てねぇんだよ」
ゲンが言い放つ。
「叩いて伸ばしただけの鉄は、目に見えねぇレベルで波打ってる。その歪みに力が集中して、そこから亀裂が入るんだ。 魔法で誤魔化しても無駄だ。物理的な精度(アキュラシー)が低すぎる」
「へ、平面だと? まさか、貴様……手作業で金属を削って平らにするとでも言うのか!?」
「当たり前だろ。機械より正確なセンサーが、ここ(指先)にあるんだよ」
ゲンはキサゲを構えた。 シュッ、シュッ、シュッ。 微細な金属粉が舞う。 1ミクロン(0.001ミリ)単位で、高い部分だけを削り取っていく。 それは気の遠くなるような作業だ。だが、ゲンの手は止まらない。 呼吸をするように、金属の肌を整えていく。
やがて。 剣の表面からインクが消え、鏡のように滑らかな輝きを放ち始めた。 「鏡面仕上げ(ミラー・フィニッシュ)」。 摩擦係数を極限までゼロに近づけた刃。
「……おい、そこの姫さん」
ゲンは研磨を終えた聖剣を、アリス姫に放り投げた。
「振ってみな」
「は、はい!」
アリスは剣を受け取り、素振りを一閃させた。
ヒュンッ!!
音が、遅れて聞こえた。 あまりの鋭さに、空気が切り裂かれたのだ。 アリスが驚愕して自分の手を見る。
「か、軽い……! まるで羽のようです! それに、魔力の通りが段違いに良い……!」 「当たり前だ。抵抗(ロス)をなくしたんだからな」
ゲンは胸ポケットから「わかば」を取り出し、火をつけた。 紫煙が昇る。
「魔法だの加護だのは知らねぇが、いいモノってのは『理屈』で出来てんだよ」
カラン……。 ガンズが持っていたハンマーを取り落とした。 ドワーフたちは、もはや怒っていなかった。 彼らの目にあるのは、未知の技術への畏怖と、職人としての純粋な尊敬。
ザッ。 ガンズを筆頭に、ドワーフたちが一斉に膝をついた。 土下座だ。
「……まいりましたッ!!」 「師匠! いや、親方(おやかた)と呼ばせてくだせぇ!!」 「その『雷の術(溶接)』と『神の削り(キサゲ)』、俺たちにご教授願いてぇ!!」
プライドの高いドワーフたちが、頭を地面に擦り付けている。 ゲンは煙を吐き出し、テツとサブと顔を見合わせた。 まんざらでもない顔だ。
「……しゃあねぇな。技術は盗むもんだが、見なきゃ盗めねぇしな」
ゲンはニカッと笑った。
「いいだろう。今日からここは**『玄田製作所・異世界支店』**だ! てめぇらには一から、JIS規格(日本の工業規格)ってやつを叩き込んでやる! 覚悟しな!」
「「「ウスッ!! 親方ァッ!!」」」
こうして、異世界最強の鍛冶師集団と、日本の町工場のオヤジたちが手を組んだ。 これが後に、世界を揺るがす「産業革命」の始まりとなるのだが――。
その前に、彼らはさらにデカい仕事をすることになる。 国境に迫る、魔王軍の巨大兵器を迎え撃つために。
【第五章:魔王軍の「機神」】
鍛冶場での技術革命から数日後。 王都に警報が鳴り響いた。
「報告! 国境の砦が突破されました! 魔王軍が『古代兵器』を起動した模様!」
城壁の上に立ったゲンたちの目に、絶望的な光景が飛び込んできた。 地平線の向こうから、身長30メートルはある巨大な岩と鉄の塊――**『機神(デウス)・ゴリアテ』**が、ズシン、ズシンと進軍してきたのだ。 動きは遅いが、その装甲は城壁より厚く、放たれる魔力砲は山を消し飛ばす。
「あんなの、どうやって止めるんだ……!?」 アリス姫が震える。 王国軍の攻撃魔法も、ゴリアテの装甲には傷一つつかない。
だが、ゲンは慌てず、懐からノギス(測定器)を取り出した。
「……おいテツ、サブ。あいつの動き、どう思う?」 「カクカクしてやがるな。関節の噛み合わせが最悪だ」 「ああ。パワーはあるが、精度が出てねぇ。……ありゃあ『不良品』だ」
職人たちの目は、恐怖ではなく「検品」の目になっていた。
「姫さん。この城の地下に、壊れて動かない『鉄屑』があったよな?」 「え? は、はい。建国時に発掘された『守護神』の残骸ですが、もう数百年も動きません」 「案内しな。……俺たちが直してやる」
【第六章:神業レストア】
地下格納庫。 そこには、錆びつき、塗装も剥げた人型兵器が横たわっていた。 かつての文明が作った傑作だが、今はただの鉄屑だ。
「ひどいもんだ。シャフトは曲がってるし、シリンダーは焼き付いてる」
ゲンが診断を下す。 王宮魔導師たちは「魔力が足りない」と言っていたが、違う。 **「整備不良(メンテナンス不足)」**だ。
「やるぞ! 納期は敵が城壁に着くまでの3時間だ!」
ここから、町工場連合の神業が炸裂した。
【解体・洗浄】 ゲンたちが一斉にバラす。錆を落とし、古いグリスを洗い流す。
【板金(サブのターン)】 「装甲がベコベコじゃねぇか! 貸せ!」 サブがハンマー一本で、ひしゃげた装甲板を叩き直す。 カンカンカンッ! 流れるような曲面が蘇り、敵の攻撃を受け流す「流線型」のボディが復活する。
【溶接(テツのターン)】 「フレームにヒビが入ってる。……補強を入れるぞ」 バチチチチッ! テツのアーク溶接が、弱った骨格を新品以上の強度で繋ぎ合わせる。魔法による接合よりも遥かに粘り強く、衝撃に強い。
【旋盤・調整(ゲンのターン)】 「心臓部のシャフトが歪んでる。これじゃあ力が出ねぇ」 ゲンは汎用旋盤(異世界の動力で無理やり稼働)を回し、巨大なシャフトを削り直す。 シュルシュルシュル……。 0.001ミリの精度。 ガタツキを極限まで無くし、潤滑油を馴染ませる。
「……よし。組み上げろ!」
ドワーフたちの手を借り、部品が元の場所へ収まる。 最後に、アリス姫が魔力を注ぎ込むと――。
フォォォォォン……!!
先ほどまでの異音(ノイズ)が嘘のように、静かで、滑らかな駆動音が響いた。
「う、嘘……。まるで生きているみたい……」 「当たり前だ。俺たちが組んだんだぞ」
蘇った守護神――**『武神(ブシン)・改』**が、青い瞳を輝かせて立ち上がった。
【第七章:精度(クオリティ)の違い】
魔王軍の『機神ゴリアテ』が、城壁を破壊しようと拳を振り上げた瞬間。
ズバァァァンッ!!
城門が開き、『武神・改』が飛び出した。 速い。 巨体とは思えないスピードで懐に潜り込み、強烈なアッパーカットを叩き込む。 ゴリアテの巨体が宙に浮いた。
「なっ!? なんだあの動きは!?」 魔王軍が驚愕する。
操縦席にはアリス姫が乗っているが、彼女は驚いていた。 操縦桿が軽い。思った通りに、いや、思った以上に機体が追従する。 摩擦ゼロ。抵抗ゼロ。 これが、**「職人の調整(チューニング)」**を受けた機体の性能。
「いけぇ! そいつの関節はガタガタだ! 懐がガラ空きだぞ!」
城壁の上からゲンが怒鳴る。 アリスは武神を駆り、ゴリアテの鈍重なパンチを紙一重で回避(スウェー)した。 そして、テツが溶接で強化した拳を、敵の装甲の継ぎ目に叩き込む。
ガシャアアアアンッ!!
精密な打撃が、ゴリアテの装甲を貫通し、内部の魔力炉を粉砕した。 轟音と共に、敵の巨神が崩れ落ちる。 完全勝利。 スペック上の出力は相手が上だった。 勝敗を分けたのは、**「モノづくりの精度(愛)」**の差だった。
【エピローグ:玄田製作所・異世界支店】
戦争は終わった。 王国を救った英雄として、ゲンたちは国王から莫大な報奨金と爵位を提示された。 だが、彼らはそれを断った。
「堅苦しいのは御免だ。その代わり、場所をくれ」
数ヶ月後。 王都の一角に、巨大な工場が建っていた。 煙突から煙が上がり、朝から晩まで活気ある金属音が響いている。
『王立・玄田製作所』。
そこでは、ドワーフたちがノギスを持って数値を読み上げ、エルフがCAD(魔法製図)を引き、人間たちが組み立てを行っている。 種族を超えた、世界最高の技術者集団。
「おいガンズ! 溶接が甘いぞ! ビードが汚ねぇ!」 「うっせぇ! 今やってんだよクソ親父!」
ゲンは怒鳴りながらも、楽しそうに笑っていた。 ここには、俺たちの技術を必要としてくれる客がいる。 超えるべき課題がある。 そして、共に汗を流す仲間がいる。
「……悪くねぇ老後だ」
ゲンは愛用の旋盤のハンドルを握り、今日も0.001ミリの世界で戦い続ける。 日本の町工場の魂は、異世界で熱く燃え上がり続けているのだった。
(完)
『AIに敗北した「町工場」のおっさんたち、異世界で「重工業ギルド」を立ち上げる ~「魔法でくっつけた? 甘えだ」とドワーフを一喝し、神業「溶接」と「旋盤」で伝説の武器を量産する~』 無音 @naomoon
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