第2話.強制連行された色平くん
「ただいまーー」
東雲はゆったりとした口調で生徒会室のドアを開ける。
「やっと帰ってきたかさく……って今朝の元気な後輩くんじゃないか」
「ども、南城先輩。連行されてきました」
桜に連行されてきた郷音は、胸ぐらを掴まれた状態で、淡々と挨拶をこなす。
その言葉に今朝のように苦笑いで返す南城。
「今朝のお仕置きとして、色平くんには生徒会のお仕事を手伝ってもらいまーす」
「え?なんで俺が、今から本屋に行く予定が……」
「っとっと!はいこれー。職員室まで持っていってー」
「え、ちょ、ちょっと!」
小柄な東雲がいっぱいいっぱいに持った二箱の段ボールを郷音に手渡す。
「すまないね色平くん。私達も手が足りなくてね……手伝ってくれたら本当に助かる」
「南城先輩がそう言うなら」
「えー!私のときと対応が違うよーーー」
「これを職員室に持ってけばいいんですね」
「あぁ、伊藤先生に渡してくれるとありがたい」
「どの先生かわからないけど、わかりましたよ……」
生徒会室のドアを桜に開けてもらった郷音は、リーンするが如く左右から顔を出しながら目の前を確認し、職員室へ足を運ぶ。
「ったくなんで俺がこんなこと……。入学早々面倒なことに巻き込まれたな」
小さな段ボール二箱といえど、やはり視界は不明瞭。
生徒に当たらないようにと、慎重に運んでいると。
「きゃっ!!」
前方から声が聞こえ慌てて、段ボールを置き駆け寄る。
「すまん!大丈夫か?怪我はないか?」
「……」
まさに小動物と呼ぶに相応しいその少女。
謝りながら立たせる郷音。
「本当にすまん」
「……い、い、い」
「……?」
「いいえお気になさらず、こちらも不注意が過ぎましたごめんなさいぃぃぃぃぃぃいいいい!!!!!」
聞き取るのもやっとな早口。
少女は、べそをかきながら凄まじい速さでその場を後にした。
「しかしなんであんなに小さい子が高校に……誰かの妹だったりするのか」
次あったときもう一度謝罪をしようと再度段ボールを抱えて職員室を目指す。
「しかし、さっきの子あれは正に天使と呼ぶにふさわしいビジュだったな」
無論、俺がこれから絡む事なんかないだろう。
「はぁ、これが終わったら俺は『魔法少女ナロ〜TriangleLove〜』を今日こそは終わらせるんだ」
「なんだよそれ」
「げ、お前は……」
隣に現れたのは、金髪ロングのギャル。
制服の中に、胸元のボタンは開き少し見え隠れする男のロマン。
「どこみてんだよ」
「ほんとにな、どこみてんだよ」
「軽く流そうとしてんじゃねえよ」
名前は西園アキハ。
中学の頃から、やたらと絡んでくる面倒臭いヤツだ。
中学の頃は、ヤンキーだ。と皆に恐れられていたが、ハーフという事もあり金髪は地毛で容姿は端麗。
口調は少々悪いがピュアな性格をしているためギャップ萌えする男たちも多々いた。
あの頃ギャルたちは、俺をオタクだと笑うやつも居たがこいつだけは、一度も俺の事を笑ったことは無い。
良い奴なのだが、陽キャと絡むと俺は毛穴という毛穴から、血涙を流す病気にかかっているので些か苦手である。
「気持ち悪い病気作るんじゃねえよ」
「あ、聞こえてた?」
おっといけない。
どうやら口に出ていたようだ。
「だから、」
「これも聞こえちゃってたか」
そんなふざけた会話をこなしながら、廊下を二人で歩いていたが、郷音は一つの疑問を抱く。
「なんでお前着いてきてるの?」
「私も職員室に用事があるんだよ。ほらついでに一個ダンボール持ってやるよ」
「え、いいよ別にこれは俺が頼まれた仕事なんだから」
郷音の言葉を無視し、上に乗ったダンボールを奪い取るアキハ。
「あん」
「気持ちの悪い声出すんじゃねえよ」
「人にこんなに強引に奪われたのは初めてだ」
「きんもい!しね!」
なんやかんや、住む世界が違うとはいえ雅人であったりアキハであったり絡む機会の多い陽キャは多々いる。
何故こんな陰キャに絡んでくるのかは本当に疑問だが、仲良くしてくれること自体はありがたい。
「西園は、部活とか入ったりするのか?」
「んー、私はいいかな。バイトもしたいし」
「借金の取り立てとか?」
「速攻出てくるのがそれってあんた私の事なんだと思ってるの?」
二人で並んでダンボールを持ち、廊下を歩いていると視界に職員室という札の文字が入る。
「持ってて、私がドア開けるから」
西園はそういうと、ダンボールを郷音に預け職員室のドアをガラガラと開く。
「すいませーん副会長達に頼まれてこれ持ってきたんですけど、伊藤先生っています?」
その言葉に立ち上がりこちらに寄ってくる眼鏡をかけた30代くらいの教師。
「おぉ、すまないな」
「いいえ、僕はただ当然のことをしたまでです誰かの助けとなることが僕の生き甲斐ですから」
今後に必ず繋がるから、ここで株を上げとくことは何より大事だ。
「気持ちわりぃ表情作ってんじゃねえよ」
ドン引きと言った表情でこちらを見るアキハ。
「君は素晴らしいお手本みたいな生徒だね?どうだい是非生徒会に入ってみ「あ、結構ですじゃあお疲れ様でした」」
危機管理能力は人一倍長けていると自負している。
今の流れは本当に危なかった。
「色平……おまえって、高校に入っても変わらないな……」
「俺は自分を曲げない」
「良い風にいってんじゃねえよ」
ここで一つアキハに問いかける。
「って、お前は結局職員室に用事はなかったのか?」
「あ、いや、何かあったけど……忘れた……」
「ま、そういう時もあるか」
色平は気付いてなかった。
中学生の頃から当たり前のように接している彼女もまた、学園ではトップクラスの美少女であり入学早々生徒たちの憧れの的になっている事に。
あの男は誰だと裏で騒がれていることにも気が付かず、また一つ色平くんの平穏な生活は遠のいていくのであった。
非モテプロデューサー色平くん ~モテない陰キャによるラブコメヒロイン育成計画〜 望米 @mochi_gome
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