夏目横丁
広川 海未
吾輩は…
私は冬目 錦之助。作家をしている。
幼少の頃から里子に出されば戻り養子に出されば戻りを繰り返した。なんとも辛い過去である。兄2人はとうに死んでおり、実母もそうである。
大学院を出たが体を壊してしまい
「しばらく療養するよう。」
と医者に言われた。だからこの田舎の横丁へ越してきた。
借りている家の大家も教師だそうだ。越してきたその日に猫を抱きながら話をしたのをよく覚えている。
この猫が問題である。妙に人様を舐めているような下に見ているような感じがするのだ。だから私はこの猫を観察することにした。
「にゃお、にゃお。」
友人の式君の家へ行くのに下へ降りると高い声を上げてしきりに鳴いていた。声を聞くとどうもまだ子供の様だ。大方、生まれてこの家に来たときもさぞ大きな声で鳴いていたからこの家へ連れてこられたのだろう。
歩きながら手帳へ観察から分かった事を書きためた。
観察して分かった事
・最初に人様を舐めていると感じた理由は猫でありながら、ふてぶてしい態度だからである。きっと猫と言えど『プライド』というものがあるのだろう。
・プライドがある猫とは甚だよくない。
・また、猫という小さな体でありながら上から物事を見ている。よく言えば、人間社会から一歩引いた視点で物事を見ているようだ。
・裏に真っ黒で大きな猫がいる。うちの猫は度々そこへ通っている様だ。
式君というのは友人で、漱石という名で俳句を作って活動している。
家へ着くと
「名前を変える。式の読み方は同じで漢字を子規にする。」
と言っていた。
「漱石はどうするのか。」
と私が聞くと
「友人の君にあげよう。」
と言われた。別段何に使うかは決まって無かったがありがたく貰っておいた。
観察して思ったがこの猫が人間の言葉。特に日本語を話した場合どうなるのか。とても面白いと思う。
裏の黒猫はきっとさっぱりとした現実的な猫なのだろう。そしてうちの猫へ猫の社会を教えてくれているがうちの猫の理屈っぽさには少々軽蔑しているのではなかろうか。
先生は時折、田舎で教鞭を取っていた頃の話をしてくれた。これが面白かったから後でまとめることにした。が始まると長い。部屋を貸してもらって悪いがこれには閉口した。
しばらく観察すると向かいの良いとこの家の三毛とも会っているようだ。
向かいの三毛は良いとこの猫だ。毛並みも綺麗で肉付きも良いが女性の如き美しさと気品を感じる。
きっとうちのと人間について意見を交わしているのだろう。そして猫社会の伝統やらを重んじる性格なのだろう。だが良いとこの猫だから裏の黒猫やうちのには身分の差から冷たくあしらう所もあるだろう。
こんな具合で猫達を観察した。
先生には時折
「何故そんなことをしているのか。」
と聞かれるが
「療養というのはどうも鬱屈していけませんから。」
と返している。この先生はどうも不思議である。
この先生という人間は私と同じで胃弱体質でありしょっちゅう横になっていた。そして支離滅裂な思索をしたかと思うと読書やら絵描きなんかをしている。自分の考えに固執しているし、先生なんてのは学校を出てまた学校に入るような人種だから世間知らずなくせに知識人なのである。
そうか、猫達と先生を対比させ、皮肉られる所を書くのはなんとも面白そうである。そう思いペンを走らせた。題名が決まらなかった。しばらく考えてはっと思い付いた。
「そうか。題名はこれだ!あと、ペンネームか。そうだ、式君に『漱石』を貰っていたしこの横丁の名前を取って…」
『吾輩は猫である 夏目漱石』
夏目横丁 広川 海未 @umihirokawa
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