第11話 連携

 3月15日茨城県取手市。遠藤の家に2人の女性が立っていた。その内の1人は手に花束を持っていた。遠藤が玄関のドアを開けると22歳佐賀守の湯柚木汐音と16歳奈良守の佐久間聖那がいた。「遠藤さん、昇級おめでとうございます。」湯柚木はそう言うと花束を手渡した。遠藤はそれをもらい「ありがとうね。」とお礼を言うと「2人一緒にいるけどこれから任務でもあるの?」と聞いた。湯柚木はうなずき佐久間がそれに答えた。「そうです。本来なら私の単独任務だったんですが、今日は郷獣の総会があるらしく補佐がいないため特別に湯柚木さんが同行してくれることになったんです。」遠藤は納得し「そうだったのね。2人とも任務頑張って。」と2人に手を振って見送った。それを見ながら2人も任務地へ向かう。近くの駐車場に止めていた車に2人は乗り込む。任務地へ向かう道中佐久間は湯柚木に質問した。「湯柚木さんは何で遠藤さんと仲がいいんですか?守同士って任務以外全く関わらないじゃないですか。」それに対し湯柚木は「こなした任務の数かな。特に共同で討伐する任務だったりすると一気に仲が深まるよ。」と答えた。佐久間はさらに質問する。「でも郷リンのチャット機能って制限がかかってますよね?」その問いにも湯柚木は「別に他の通信アプリで連絡とってるわよ。あなたとも連絡先交換したでしょ。」と答えた。佐久間はうなずきながら「何で郷リンで自由な通信ができないんですかね?」とぼやいた。湯柚木も「さあね。」とその疑問を流した。

 同日19時千葉県千葉市。沿岸部の工場地帯に1台の車が止まっていた。その車内に2人の姿はあった。本来ならそこにある製鉄施設が昼夜問わず忙しく稼働している。しかし今は沈黙していた。「ここにアヤカシンが出るんですね。徒歩だと来るのにまあまあ大変な場所ですね。」と佐久間は言う。湯柚木は遠回しに感謝されたと思い込んで勝手に照れつつ郷リンの索敵ボタンを押す。すると大きな手足でタンクを抱きしめているアヤカシンの姿が現れる。佐久間は思わず言った。「でっか。」アヤカシンも2人を見て長い腕を伸ばし攻撃する。湯柚木はすぐに車を後退させ攻撃を回避すると安全場所へ車を置いた。佐久間が「そのまま降りてすぐに戦闘体勢に入ればよかったじゃないですか?」と聞くと「結構大事な車なの。」と湯柚木が鍵をかけながら言った。2人は降車するとすぐに変身した。「授命 佐賀守」「授命 奈良守」湯柚木はすぐに突撃しアヤカシンのいる場所へ行くと「轟流滝」を使用しアヤカシンを吹き飛ばした。佐久間も急いで駆け付け「先輩。この討伐任務は私に命じられたものなので私が主力を務めますよ。」と言うと「うん。わかってるんだけど私の車の近くに寄せ付けたくなかったものだから。」と恥ずかしそうに言った。「だったら何で任務時にこの車を使うんですか?」と佐久間が指摘すると湯柚木は「ええ、そうですね。すんません。」と申し訳なさそうな表情をした。

 アヤカシンは近くのタンクの根元を破壊し2人へ向かって投擲する。佐久間が「女高護塔」と詠唱すると背後に塔が顕現し、その塔を中心とした結界が発現する。結果は難なくタンクを弾き飛ばしそれを見た湯柚木は「さすが奈良の力。羨ましいな。」と呟いた。しかし佐久間はそう思っていなかった。奈良の力は大きく強く佐久間は使用直後からその制御に手一杯だった。佐久間は結界を解くと「陣峰雲海」を使用し周囲の建物ごとアヤカシンを攻撃した。アヤカシンは長い両手でその攻撃から身を守り、そのまま手を勢いよく広げて反撃した。佐久間は回避不能と判断し防御姿勢を取ったその時「眼低松原」の詠唱が響く。佐久間に向けられた攻撃を湯柚木がずっと睨み続け防いでいた。佐久間はすぐにその場を離れ、視界から佐久間が消えたことを認識した湯柚木は技を解除する。その瞬間止まっていたアヤカシンの反撃が再開し周囲の大地を薙ぎ払った。「将棋みたいに次の次の次の次の手まで考えないと。」と湯柚木がアドバイスすると「はい。ただ上手く行かなくて。目先の展開で手一杯になっちゃって」と佐久間は息を整えながら言った。アヤカシンは四肢を振り回し2人の動きを牽制する。佐久間は「盧舎那の礫」を使用し強行突破を試みたがアヤカシンに弾かれる。湯柚木は振り回される四肢のタイミングを計った上で「海流波戸流接」を発動させた。湯柚木の近くで2つの流れが合流する。やがてその流れは一つに固まり球状になると下へと沈み地面と衝突した。衝突後球体は崩壊し波上に地面へ浸透する。すると地面一帯に海藻が生えた。湯柚木はその海藻を制御しアヤカシンを拘束する。しかしアヤカシンの力は湯柚木が想定していたよりもはるかに強く、アヤカシンが抵抗し湯柚木は近くの建物へ衝突し拘束を解かれてしまった。しかしこれは佐久間へのいい時間稼ぎとなった。佐久間は意を決して「郷愛風土 鬼桜吉野」を発動する。次の瞬間、アヤカシンの体を炎が包み込み周囲に桜の花びらが舞った。湯柚木はそれを見てその美しく火力の高い技に魅了されていた。しかし佐久間は必死だった。右腕についているスマホも熱くなり技の制御が効かなくなる実感があった。湯柚木も最初こそ魅了されていたがアヤカシンの様子と技の出力が合っていないことに気付き佐久間の下へ急行する。「佐久間、大丈夫?」湯柚木が現状を聞くと佐久間は少し慌てた様子で答える。「だいぶ余裕がなくなってきました。やっぱり郷愛風土は使わない方がよかった。」するとアヤカシンが燃えながら起き上がり始める。「あれ、何で倒れないの?」湯柚木が驚くと佐久間が「火力が安定していないからだと思います。」と答えた。そして周囲を舞っていた桜吹雪が止みアヤカシンは体が炎上した状態で2人との戦いに挑んでくる。燃え上がる手足が2人に振りかざされる。佐久間は「陣峰雲海」でアヤカシンの体についた火の消火を試みるも寸前のところで技が消滅し燃え上がる右拳の攻撃を受けた。アヤカシンはさらに左足で追撃を仕掛ける。すると「唐船壁」を発動させた湯柚木が滑り込み佐久間を守る。湯柚木は佐久間に「落ち着いて。あなたが選ばれたってことはあなたが奈良の力を使うのに相応しいからよ。思い出して、奈良の思い出を。」と問いかけた。佐久間は力の制御を取り戻すために戦線から一度離脱しその間湯柚木がアヤカシンとの戦闘を行う。

 彼女と奈良の間に繋がりが生じたのは最近であった。小学校高学年での修学旅行、行き先が奈良と京都だった。奈良は初日でいくつもの寺社を巡った。何百何千もの人の想いが交錯した古代の都、両親が住職だった佐久間にとってこれほど胸が高鳴ることはなかった。時を忘れて佐久間は大仏をずっと見ていた。気が付くと周囲には誰もいなくなっていた。引率の教師が数を数え間違え佐久間を置いて行ってしまった。佐久間は大仏に先生が自分を置いて行ったことに気付くようお願いした。すると近くにいた僧が気付き佐久間を保護した。佐久間は先生が到着するまで僧から大仏や寺、そして奈良の事を教えてもらった。それらを知った佐久間はそうした寺社をもっと知ってもらいたいと奈良の寺社について学ぶようになった。奈良の力を使う時も奈良を尊敬するあまり扱う自分を卑下していた。「大きすぎる力を恐れているからこうなるんだ。尊敬できるならもっとその力を信じる。奈良から認められた私の事も信じる。」熱くなっていたスマホの温度が下がり始める。佐久間は落ち着きを取り戻し「源狐刀」を詠唱する。すると刀が佐久間の右手に出現した。佐久間は刀を握ると空へ向かって一突きした。佐久間の復活を知る由もなく湯柚木とアヤカシンは戦闘を続けていた。その時空から水滴が落ちてくる。雨が降ってきた。その雨は燃え盛るアヤカシンの炎を消火していく。するとすかさず佐久間が斬撃攻撃をアヤカシンへ命中させる。その攻撃を受けたアヤカシンは奇声を上げる。湯柚木はその攻撃を見て「よかった。どうやら私はちゃんとこの任務の役割を果たせたようね。」と安堵する。佐久間もそれに「はい、ありがとうございました。」と感謝した。アヤカシンは2人を攻撃しようと右手で振り払う。2人は素早く回避し戦闘を終わらせる決定打を放つ。「郷愛風土 環濠結界」「郷愛風土 鬼桜吉野」湯柚木の周りには柵が出現し無数の矢と槍がアヤカシンに向かって降り注がれる。さらに再びアヤカシンの体が炎に包まれ周囲を桜吹雪が包み込んだ。今度は安定しアヤカシンを倒すのに十分な火力に到達していた。アヤカシンお体は透明になり消えていった。肩で息をする佐久間に湯柚木が「お疲れ様。」と佐久間の肩に手を置いて健闘を称えた。佐久間も「先輩もお疲れさまでした。先輩のアドバイスのおかげでまた1つ成長できた気がします。」と湯柚木にお礼を言った。

 3月18日、神奈川県横浜市。福島守の涼木と神奈川守の堀田が夜景を見ながら会食していた。堀田は涼木に「今日は来てくれてありがとうございます。」と感謝を伝えた。涼木は首を振って「隠の五柱の警護任務を担っている程度だ。あまり力になれないかもしれないが知っている事は何でも話させてもらうよ。」と言う。十分な打ち合わせを経て堀田は地域振興局湘南へ向かった。堀田は液晶通信室に入り電源を入れる。すると画面に簾が映し出されその奥には人影があった。その人影の正体は御中師だった。「郷リンのチャットにて相談事があるとお聞きしました。いったい何の用でしょうか。」堀田はこの優しくも威厳を含んだ不思議な声に相変わらず慣れることが出来なかった。堀田は少し間を開けて話し始める。「アヤカシンの脅威は日に日に強まっています。そこで戦力を強化するべく守同士の連携を深めたいと思っています。そのために郷リンアプリでの自由な通信や守同士が交流できる機会を設けてはいただけませんか?」その要望を聞いた御中師は少し黙った後「実は過去に守が我々に歯向かった事案が1度だけ発生したんです。その時は1人だけだったので何とか対処できたのですが、その後の話し合いでもし複数名の守が共に決起した場合我々でも対応できない可能性があると判断し郷リンに規制をかける方針を取ったのです。」と任務以外で郷リンによる守同士の自由な通信ができない理由を明かした。そして「ただ今となっては他の通信アプリも多く存在しているためこの対策は無意味でしょう。検討の余地は十分にあると思います。」と堀田に伝えた。堀田はその言葉を聞き感謝の意を伝えると通信が終了した。会話が聞こえなくなったタイミングを見計らって別室にいた涼木が扉を開けた。「どうだった?」その問いに堀田は、右手の親指を立ててうまくいったことを言葉を使わずに伝えた。

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