第12話 仇
4月1日クサオシカワラ。今日は年度初めの定例会議が行われていた。5つの簾の正面には40代半ばの男性が1人立っていた。彼こそ噂の東野武、唯一の子階級保持者である。東野は年に1度この会議の場で年間の報告を守の代表者として行っている。報告が終わると「昨年度は4名しか死者が出なかったようですね。上出来の年だったようです。」と御中師が総括した。東野は報告を終えると近くの霊園に向かった。この霊園には戦死したかつての守が多く埋葬されていた。墓石に彫られた名前を見ながら特に目的もなく散策していると1人の男性とあった。面識はなかったがその男性は東野を見た瞬間足早に去っていった。「一瞬見覚えがあったように感じたが、誰だったかな。」東野はその男性がいた墓石の所に行く。その墓石には満島従則という名があった。東野はただその墓を見つめた。
一方墓を足早に去った男性は、東野の顔を見て悔しさをにじませた表情をしていた。彼の名前は満島従房。彼の父である従則は群馬守として大八守防に所属していた。従則は自分が強くなれるよう日々研究をしていた。その結果ある結論が出た。群馬の力は栃木の力と併用する事でさらなる進化を発揮する。群馬と栃木は上毛野と下毛野に分けられるまで一体であったからだ。従則は隠の五柱にこのことを伝えたが、守の兼任は任じることができないとして断られた。その後の戦闘で従則は戦死、従房は自分が継ぐものだと思って覚悟を決めていたが、いつになっても連絡は来なかった。従房は次第に組織上層部があの時、父に群馬と栃木の力の併用を許可していれば亡くならなかったかもしれないと思うようになる。そして従房は、組織の判断が間違っていたことを証明するために復讐計画を立案、実行することにした。従房はSNSなどで突然の劣化や病気などの情報を調べた。しかし関係がなかったり、別の都道府県の力を使う守など空振りが続いた。そんなある日、自宅に国家公安庁職員を名乗る人物が現れた。大八守防に関する情報を他人に口出ししないでほしいとの要求で、望むなら口止め料を払うとまで言ってきた。従房は口外しないことを約束する代わりに、現在の群馬守と栃木守がいる場所の情報を提供する見返りを求めた。従則の遺影の前で従房は「父さん、遂に全ての準備が完了しました。父さんが正しかったという事をこれから証明したいと思います。」と復讐の狼煙を挙げる決意を表明した。
4月7日20時00分、群馬県前橋市。通り沿いを19歳男性で群馬守の板垣が歩いていた。その後ろ姿を従房が追跡していた。板垣は大通りから細い道へと入っていく。従房は歩く速度を速めてついて行く。住宅街ではあるが街頭はなく、家々の窓から明かりが漏れているだけで暗い道が続いていた。従房にとって千載一遇の機会だった。従房は一気に速度を上げて板垣に突っ込む。板垣は後ろから気配を感じ振り返る。勢いよく駆けてくる従房に気付いた板垣は、間一髪回避できるよう動いた。しかしその動きを見切った従房は、寸前で足を引っかけて衝突する事に成功した。「痛たた…。何だよかわせたと思ったのに。」板垣が起き上がると、従房は「暗い道を急いでいて気づきませんでした。次からは気を付けます。すみませんでした。」と足早にその場を去っていた。数十分後、宿先についた従房はスマホを取り出す。「まずは本来の力を取り戻すことに成功した。」そのスマホは板垣の物だった。翌日、板垣も自身のスマホが無くなっていることに気付いた。その情報はすぐさま隠の五柱の下に伝わり、即時奪還命令が下る。
4月8日9時00分、同県高崎駅西口。大八守防から22歳男性で階級未の師岡健介が派遣される。師岡は郷リンの追跡機能を使い板垣のスマホの位置情報を見つける。「すいません。あなたスマホ盗難してますよね?」従房は「やはり。追跡機能がついていたか。だが元々これは私が貰い受ける物だった。だから返還する気はないんだ。」と師岡の要求を拒んだ。それに対し師岡は「何を言っているかよく分かりませんが、強力な措置が講じられる前に素直に返してほしいんです。」と言ってスマホの返還を強く迫った。しかし従房も一歩も引かずスマホを取り出し「僕がこれを使えないと思っているんでしょう?」そう言って板垣のスマホを取り出すと難なくロック画面を解除し郷リンを起動した。従房の右腕にスマホが装着される。「ここから去ってくれ。さもなくば変身して君を倒す。」従房も師岡に対し要求を突き付けた。無論、師岡はその要求をのまなかった。「私も守である事を忘れずに。」そういうと師岡も郷リンを立ち上げ右腕にスマホが装着される。2人は同時に変身する。「授命、山口守」「授命 群馬守」師岡の片目と髪は紺色に変色し、従房の片目と髪は黄土色に変色する。まさか本当に変身できるなんて。でも戦闘経験はないはず。早く倒してスマホを奪還する。そう師岡は考えていた。師岡は索敵ボタンを押し市民を自身を中心に2キロ外側へ移動させる。師岡は即座に「頬フグ針」を使用し従房を攻撃するも、「乾風大風」で全て吹き飛ばされてしまう。すると今度は従房が「浅間鬼岩弾」を使用し師岡へ攻撃した。師岡はそれらをかわしながら距離を詰め、技を使う素振りを見せて通常の殴打を行う。従房はその攻撃を正面から受け止め、そのまま師岡の姿勢を崩しカウンターする形で、ペデストリアンデッキから師岡を下のロータリーへ投げ飛ばす。しかし師岡も落下中に「関門砲台群」を使用しペデストリアンデッキを砲撃する。「何だあいつの動き。なぜあそこまで戦えている。軍隊出身者でもこんな戦い方は出来ないはず。」師岡は相手の想定外の動きに驚く。従房は「浅間鬼岩弾」をロータリーにいる師岡に打ちながら、ペデストリアンデッキを駆け抜け続ける。「こちらは戦略上ここで全力の戦闘は出来ない。だが離脱するためには相手に大きな打撃を与える必要がある。現状あいつの速射性の高い砲撃攻撃のせいでこちらの攻撃諸共破壊されている。こちらとしては何とかして死角を作ってここから離脱したい。」従房は動き続けながら画面の群馬の力の技一覧を見る。「やはり遠距離の技が多いな。父の言うとおりだ。おや?」従房はふと何かに気付き、そこから1つの戦術を思いつく。「もうそろそろ駅付近のペデストリアンデッキは全壊する。遮蔽物をなくしこのまま押し切る。」師岡が自身へ勝利が近づいていると思ったその時、強力な風が頭上を通過する。通過したのは「乾風大風」で自身を吹き飛ばした従房だった。師岡は射線を合わせ迎撃を試みるが、弾道が低く上手く狙いが定まらなかった。従房が見出したのは、建物に囲まれた駅前という環境を利用し壁の補助を得ながら風を操り相手に高速で接近する戦術。従房はロータリーを大きく迂回しながら、「乾風大風」を複数回使用し師岡へ急速に接近する事に成功、「水退刀」で攻撃した。師岡はとっさに「白壁回遊ちょうちん」で金魚ちょうちんを召喚して身代わりにし、その攻撃を間一髪でやり過ごす。攻撃を防がれた従房は、師岡の前を通過すると駅前の風に風をぶつけ衝撃を相殺し上手く体をひねって師岡の方を向く。この瞬間大きな一筋の空間が発生する。まさに従房がずっと作り出そうとしていた勝利の道。「お開きだ。」従房は近くに散乱していた瓦礫の1つに向けて、片手でずっと溜めていた「乾風大風」を放つ。その攻撃は出力が高すぎて瓦礫を粉砕。その延長線上にいた師岡が回避をしようとした瞬間に命中する。師岡はそのまま駅前の大通りへ吹き飛ぶ。途中地面に下降するも、速度が収まらず道路をえぐりながら城址公園付近まで飛ばされた。従房は安堵し「何とか勝てた。いい試験運用になった。またこちらに来ないうちに早く移動しないとな。」と駅の中へと入っていく。しかし戦闘前に師岡が探索ボタンによる強制避難を実施していたため、高崎駅は全線が運休になっていた。「次の戦闘に備えて技は使えない。仕方ない。隠れながら歩いて行こう。」と従房は次の目的地へ徒歩で向かう判断をした。一方城址公園まで吹き飛ばされていた師岡は、瓦礫に挟まり抜け出すのに苦戦していた。「何てことだ。板垣よりも階級が上なのに…。彼よりも群馬の力を使うのが上手かったってことか?」少々の怒りの力も込めて瓦礫を破壊し、師岡は抜け出すことに成功する。師岡が急いで高崎駅に戻るも誰もいなかった。師岡は郷リンで再度板垣のスマホの位置情報を確認する。「東方向、そんなに離れていない。」次に師岡は自身の充電残量を確認する。「41パーセントか。砲撃を使いすぎたか。このまま再度戦闘に突入しても仕留めきれる公算がない。それに加えアヤカシンとの戦闘でないため、戦闘によって生じた損害の組織の言い訳の事も考えると迂闊に無配慮な攻撃も行えない。」そう判断した師岡は戦闘を中断することにした。
同日10時00分、クサオシカワラ。隠の五柱たちはこの事態を一刻も早く収拾するべく議論を続けていた。そこに新たな情報が入る。「何と嘆かわしい事態。山口守が逃したようです。」守結が肩を落とす。それに対し御中師は、「相手は一体どういう意図でこの事態を起しているのでしょう?我々の品の存在を知っているという事は一般市民ではありません。犯人特定の方はどうでしょうか?」と聞くと床多奴知が答える。「彼の者の名は満島従房。なるほどそういう事か。こやつは過去に群馬守に任命されていた者の息子であったのだ。」「それで力の扱い方が手馴れていたという訳か。」午斜鹿は納得する。貴結は「であれば、彼の動機は逆恨みなどの自分本位の大義である可能性が高いという訳ですね。また1人愚かな者が迷惑をかけている。悲しい事です。」と従房を蔑んだ。御中師は「そういえば彼の父は変なことを言っていましたね。2つの守の兼任の許可とかいう傲慢な要望でした。」とふと従則とやり取りした過去を思い出す。守結はその情報を聞き「なるほど、彼が逆恨みを動機として動いているなら、群馬守を襲ったのも父の悲願を叶えるためと辻褄が合います。となれば彼が次に狙うのは栃木守ということになります。」と分析した。御中師は「栃木守に警戒を指示し移動可能戦力を栃木に派遣し守りを固めましょう。」と指示する。守結も「先の京都での政府内評価が水泡に帰さぬよう全力を挙げて対処しましょう。」と伝令を各地の大八守防所属の守に伝達した。その伝達は凪人の下にも届いた。
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