第13話 岩船山戦役
4月8日11時00分、栃木県岩船山。栃木守である新井将がこの山の一角にある拠点で待機していた。その新井を守り抜くため、徳島守の鮫島笙乃、鳥取守の藪中凪人、茨城守の遠藤峰子、福井守の円谷竜星が招集された。凪人が2カ月ぶりに集団での作戦かと意気込んでいると、遠藤が声をかけてくる。「久しぶりね藪中君。またあの時みたいに協力して任務を成功させましょうね。」それに対し凪人も「はい。」と陰キャ特有の返事をした。少し離れた仮設小屋の室内では、新井と円谷が話していた。新井将、18歳男性。円谷竜星、16歳男性。新井は円谷と話す中で「多くの人が僕を守るためだけに集められている。僕は決して一般人じゃない。栃木の力を使える守だ。だからこの機を活かして隠の五柱の皆さんに僕の強さを見せようと思う。」と決心していた。それを聞き円谷は「護衛対象がそう言ってくれると助かるよ。」と畳の上をごろごろしながら言った。11時30分、岩船駅に従房が到着する。人間が発する音は一切聞こえず自然の賑わいだけがわずかに聞こえる。従房は郷リンを起動させる。「この静けさは索敵ボタンの影響か。この山にいることは間違いないな。」郷リンは付近にいる守の位置を共有できる。そのため誰がどこに展開しているか即座に把握でき、高度な連携を可能にしている。そのため栃木守以外にも複数の守がいる事を従房は把握できた。しかし逆に新井たちも従房の到着を把握していた。従房は郷リンの位置情報を基に岩船山の方へ入っていく。すると自分が元々持っていたスマホが鳴る。従房は画面を見てすぐに電話に出た。「ご無沙汰しております。…はい。このアダプターのおかげで郷獣の邪魔が入ることなく問題なく使えています。あなたには感謝しています。」従房のスマホから低い加工音声が漏れる。「そうか。つまるところジャミングシステムは大成功という事だな。君の決起を我々は大いに支持している。君がよい顛末を迎える事を心から願っている。」その言葉に「はい、ご期待に沿えるよう善処致します。」と言うと通話を終えた。
従房は岩船山と彫られた太い石柱の前につく。そこから先は道が石畳に変化していた。山の方へ目線を移すと2人の守、遠藤と円谷がいた。遠藤が口を開く。「最後にもう1度だけチャンスをあげる。それを私たちに返してくれないかしら?」円谷も続けて「最後だからね。僕は面倒ごとは好きじゃないから、もし応じてくれなかったら君のこと一生許さないよ。」と言葉とテンションに大きな差がある発言をした。従房は「僕はこの復讐のために多くの歳月と労力をかけた。ここで引き返してしまうほどの軟弱な決意であったならば、僕は今ここにいない。」と最後の警告も突っぱねた。次の瞬間、3人の声はほぼ同時に響いた。「授命、群馬守」「授命、茨城守」「授命、福井守」変身直後、遠藤と円谷は後方に素早く下がる。その動きを見て「なるほど、山の中で戦うつもりか。一般人への被害を最小限にする配慮をしていることから、僕に対して何か備えを用意しているかもしれないな。」と従房は推察する。遠藤と円谷はそのまま山を北上して少し開けた場所へ移動し、従房も後をつけた。遠藤らは開けた場所の奥にある岸壁へ向かって走り、「巨躯牛久」を遠藤が使用して岸壁の一部を破壊した。岸壁は急な山肌を下って落下していく。その先には従房がいた。従房は即座に「三山結界」を発動し落下してくる岩から身を守った。今度は従房が「乾風大風」を使い、砂利や土を巻き上げ攻撃と視界の悪化の2種類の技を披露する。対して円谷は「鯖江眼」を発動し視界デバフを無効化する。そしてそのまま姿勢を低くして従房の脚を狙って「越前蟹鋏」を使用した。従房は円谷を見失わずに目で追いタイミングを合わせて跳躍した。円谷の技は空振りし、従房は自身の着地点に滑り込んだ円谷の体を容赦なく踏みつける。そこに遠藤が突っ込み格闘戦を挑んでくる。従房は片足で円谷の背中を踏みしめつつ上半身の動きを中心にして、遠藤と格闘戦を繰り広げる。遠藤は、軍隊出身でもないのにここまで互角に戦ってくるなんてと、従房の無駄のない動きに驚いた。その時、円谷が多少痛がる表情をするも決して怯みはせず次の行動に移る。円谷は「五色五湖」を地面に向けて使用した。1度に5回の強力な打撃技の反動により円谷の体は青い残光を伴って宙を舞った。この動きによって従房は姿勢を崩し、その隙を見逃さなかった遠藤が、至近距離での「巨躯牛久」による一撃を与える事に成功した。従房は勢いよく吹き飛んで地面に衝突した。遠藤が様子を見ようと近づいた瞬間、「浅間鬼岩弾」の岩石攻撃が複数飛んでくる。遠藤は巨大化した自身の石化右腕でそれを全て防ぐ。そこに回り込んで背後を取った円谷が「越前蟹鋏」で攻撃する。従房は「水退刀」を召喚し即座に応戦するも、リーチの長い円谷の方が有利に戦えていた。遠藤も距離を詰めて挟撃の形をとる。遠藤は従房の脚を背後から攻撃しようとした。一瞬だけ遠藤は従房と目が合った。その目はまるで、この挟撃を最初から望んでいたような目だった。「三山結界」この詠唱が響いた途端、遠藤と円谷は吹き飛ばされた。「なるほど。本来攻撃を防ぐための技を、的確なタイミングで即座に展開する事で攻撃に転用したのか。」と円谷は従房の戦術を理解した。従房は遠藤と円谷から距離をとる事に成功すると、「乾風大風」で山の上へ移動を始める。「ここで倒せるまで戦うのは非効率。こちらには数的劣勢だが、逆に有利に事を運ぶことも可能だ。」と従房は考えていた。従房に先を行かれてしまった遠藤は悔しがるも、「いいよ。作戦通りに栃木守の下に行こう。」と円谷に急かされ移動した。
従房は展望ポイントに辿りつく。そこには既に変身した藪中と鮫島の二人が待ち構えていた。「君らの先にいるのだな。栃木の守が。」従房がそう自身の推測を話すと、鮫島が「その答え合わせは私たちを倒せれば分かるわよ。」と戦闘体勢をとる。「祖谷生農」その詠唱が響いた途端、柵の外側の山肌から上に向かって発射される複数の芋が見える。それらは上空で反転して従房に突っ込んでくる。従房は「三山結界」を発動し攻撃を防ぎきり、多量の土埃が従房を包み込む。従房は「これは囮、本命は土埃の中。」と相手の行動を先読みし「乾風大風」で土埃を吹き飛ばす。それにより、土埃の中に混じっていた凪人が姿勢を崩す。「やっぱりな。」と従房は凪人に向かって拳を振るう。すると凪人の体は攻撃を受けた箇所から亀裂が入り破裂した。「撹乱技。」そう従房が気付いた直後、背後から裏を取っていた凪人が「鷲峰刀、大刀」で従房の背面を斬って負傷させる。鮫島も「白雨着想しじれ」でヌンチャク状の布製武器を召喚し、従房を正面から攻撃した。従房も「三山結界」を先ほどのように瞬時に展開し挟撃を行う2人を吹き飛ばそうとするが、完全に見切られ受け流される。「やはり僕の戦闘は全て共有されているようだ。」そう従房は認識すると、「乾風大風」で鮫島の両脚に方向の違う風を同時に送り姿勢を崩そうとした。鮫島は従房の手の動きからそれをいち早く察知すると、体をひねらせその場で1回転する事で、距離を離されないようにする。従房は鮫島が風の対処に回った瞬間、凪人に格闘戦を仕掛ける。凪人は鷲峰刀と大刀を使って従房の攻撃を防ごうとするも、素早く洗練された従房の動きに対応しきれず攻撃を受ける。そのまま従房は、凪人の右腕を掴み鮫島に向かって投げ飛ばす。鮫島は着地後すぐにかわし凪人は少し奥へ飛ばされる。「想像以上だ。僕なんかよりもよっぽど戦闘経験があるように思える。ある程度の距離を取りつつ遠距離技を使うしかなさそうだ。」と凪人は戦い方を見直す。一方従房も「おかしいな。後ろから先ほどの2人が追ってこない。もしかして栃木守の所に向かったのか。もしそうなら今僕が行っている戦術も見直さなければ」と考え戦術を変更する。「浅間鬼岩弾」この詠唱が響くとともに大地が大きく揺れだす。次の瞬間、展望エリアよりやや大きい岩を出現させ一帯を吹き飛ばした。その場にいた全員が吹き飛び凪人らは混乱する。そこに従房が「乾風大風」で追撃をかける。「まずい。一気に防衛対象との距離を詰める気ね。」そう鮫島は攻撃の意図を読み、最小限のダメージでの着地を考える。2人は「忌部紙装甲」と「流し雛」で着地時のダメージを軽減した。一方、突破された場合に阻止する第3地点では遠藤と円谷が待機していた。すると奥の方で大量の土埃と共に大きな岩が出現したのが見える。さらに次の瞬間、遠藤と円谷よりも後方の地点で2つの土煙が上がった。「しまった。空からショートカットされる。」と遠藤らは凪人らが不時着した地点へ急行する。
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