第4話 はじめてのメイクアップ? 清楚少女が化粧を覚えた結果――俺の理想が現実化し始める件

日曜日の昼。

 俺――村杉拳は、緊張で胃の形が変わりそうになりながら、甘井凛花の家の前に立っていた。


(なんで俺、女子の家に……いや違う、メイクの手伝いだ。そう、プロデュースの一環……!)


 昨日の帰り際、突然飛んできたメッセージ。


「明日、メイクしてみたいの。……家に来て、教えてくれる?」


 教えられるわけがないのに、断れるわけもなかった。


 ピンポーン。


「あっ……村杉くん、ようこそ」


 ドアを開けた甘井さんは、昨日選んだ白カーディガン姿。

 茶髪をゆるくまとめて、買ったばかりのシュシュをつけている。


 その姿だけで、すでに“清楚→ゆるかわ”にジョブチェンジしかけていた。


◆ ◆ ◆


「これ……昨日の帰りに色々調べて、買ってきたの」


 机には、メイク初心者が揃えそうなコスメと、明らかにギャル寄りのラメ系。

 本気度が尋常じゃない。


「えっと……ギャルって、こういう感じ、だよね?」


 甘井さんがスマホに保存している画像を見せてきた。

 王道ギャルメイクから、ふわっとした清楚寄りギャルまで。


(めっちゃ研究してる……!)


「村杉くんの“好き”に近づきたいから……ちゃんと教えてね?」


「……お、おう」


 その瞳が本気すぎて、逆らえなかった。


◆ ◆ ◆


 メイクは完全初心者らしく、最初はぎこちなかった。


「む、むずかしい……ラメが変なところについちゃう……」


「だ、大丈夫。そ、そこちょっと貸して……」


 俺は震える手で、甘井さんの目元に触れないよう慎重にラメを整える。


 距離が近すぎて、心臓の音が聞こえるんじゃないかと思った。


「っ……」


 甘井さんがわずかに肩をすくめる。


「ご、ごめん……冷たかった?」


「ううん……なんか、へんな感じ。ドキドキする」


(こっちもだよおおおお!!!)


◆ ◆ ◆


 そして一時間後。


「……できた、かも」


「お、おお……!」


 鏡に映る甘井さんは――

 清楚の面影を残しつつ、目元がほんのり華やいで、ラメが光を受けてきらりと輝く。


 “完全ギャル”ではない。

 だけど間違いなく、

清楚から「垢抜けた可愛い女の子」に進化していた。


「ど、どう……?」


「めっちゃ……似合ってる。普通にクラスで驚かれると思う」


「ほ、本当……?」


「うん。本当に」


 甘井さんは嬉しそうに笑った。

 それは昨日よりも、もっと自信を帯びた笑顔だった。


◆ ◆ ◆


 帰り際。


「ねぇ、村杉くん」


「ん?」


 廊下で甘井さんが、ポニーテールをくいっと結び直しながら言う。


「これで……明日、学校行くね」


「お、おお……!」


(絶対騒がれる……! あの甘井さんがメイクしてきたら……!!)


「でもね、レベル……その、ギャル化の続きは、ちょっと待ってほしいの」


「え?」


「まずは……“これの反応”を見てみたいから」


 自分の頬にそっと触れながら、甘井さんは照れ笑いした。


「村杉くんに教えてもらったメイク……クラスの人に、どう見られるのか。ちょっと怖くて、でも……楽しみでもあるの」


(……それ、なんかすげぇ勇気必要なやつだぞ……!)


「だから、まずは……“このまま”で行く。次のレベルは、その後で」


「……わかった」


 自然にそう返していた。


◆ ◆ ◆


 そして家を出る前、甘井さんが最後に言った。


「ね、村杉くん」


「ん?」


 茶髪の毛先をくるんといじりながら、甘井さんは微笑んだ。


「明日……絶対、見ててね。私は、村杉くんのプロデュースで変わったんだから」


 その言葉に、心臓が跳ね上がった。


 翌日。

 メイクした甘井凛花が学校に現れ、周囲が騒然とする――

 そんな未来が、手に取るように見えた。

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