第3話 清楚少女、ついに服を買う!? 初めてのショッピングモールデート

 土曜日の昼前。

 俺――村杉拳は、駅前の噴水の前でソワソワしていた。


(な、なんで俺、こんな普通に女子と待ち合わせしてんだ……?)


 人生のイベント欄に“リアル女子との買い物”なんて項目、今まで一度もなかったはずだ。

 しかも相手は、昨日茶髪デビューしたばかりの甘井凛花。


 あの後、帰ってきたメッセージはこうだ。


『レベル2……よろしくお願いします。服とか、見たいです』


 服。

 つまり“ギャルっぽい服”。


 難易度が急に跳ね上がってないか?


(俺、女の子の服なんてカタログでしか見たことないんだけど……)


 そんな不安を抱えて待っていると――。


「む、村杉くん!」


 駆け寄ってきた甘井さんは、昨日よりちょっとだけ雰囲気が違った。


「お、お待たせ……!」


 茶髪になっただけで印象が柔らかいのに、今日はさらに白の薄手ニットに、淡いベージュのスカート。

 清楚寄りではあるのに、“これからギャルに変身します”という宣言のような透明感があった。


(な、なにこの破壊力……! レベル1.5くらいじゃん……)


「そ、その……変じゃない、よね?」


「全っ然! むしろめちゃくちゃ似合ってる!!」


 言った瞬間、自分で赤面したけど、甘井さんはもっと真っ赤になって俯いた。


「よ、よかった……。じゃあ、行こ?」


◆ ◆ ◆


 向かったのは駅前の大型ショッピングモール。

 人混みに緊張しながら、俺たちはレディース服売り場に入る。


(やばい、なんか周りがキラキラしてる……)


 場違いすぎる俺と、場違いじゃなくなり始めている甘井さん。


「む、村杉くん……これとか、どう?」


 甘井さんが手に取ったのは、ゆるっとした白のカーディガンに、淡いピンクのミニスカ。

 むしろ王道ギャルのワードローブ。


「……これ、着てみる?」


「う、うん。村杉くんがいいなら……」


 試着室のカーテンが閉まる。

 俺は落ち着かない心臓を必死になだめていた。


 そして三分後。


「……あ、あの。見ても、いいよ……?」


 カーテンが、少しずつ開く。


 そこにいたのは――


(ま、まじか……!)


 白のカーディガンが甘井さんの茶髪を引き立て、ピンクのスカートがふんわり揺れる。

 清楚から“可愛い”にカテゴリーを更新したような変身ぶりだった。


「へ、変かな……?」


「変じゃない。すごい……可愛い」


「…………っ」


 甘井さんは耳まで真っ赤にして、小さく身をよじった。


「そ、そんな……言われたら……買うしか、なくなるよ……?」


「買えばいいと思う。めっちゃ似合ってるし」


「う、うん……!」


 試着室に戻る甘井さんの背中が、ほんの少し弾んで見えた。


◆ ◆ ◆


 それから何着か試して、甘井さんは最終的に“ちょいギャル寄り”の服を二着購入した。

 帰り道、紙袋を抱えて歩く彼女は、どこか誇らしげだった。


「ねえ、村杉くん」


「ん?」


「今日……すごく楽しかった。私ね、変わるのって怖かったんだけど……」


 照れくさそうに笑いながら、甘井さんは言った。


「村杉くんが一緒だと、怖くないんだ」


「……っ」


 不意に、胸のどこかを掴まれたような感覚。


(なんだこれ……好感度イベント発生してない?)


 すると甘井さんは、バッグをごそごそ漁りながら、紙袋の中から何かを取り出した。


「それでね……」


 差し出されたのは、シュシュ。


「これ……村杉くんが選んだやつ。明日、つけてくるね」


「お、おう」


「レベル2、進行中。次は……どうしたらいい?」


 上目遣いで聞かれて、脳が一瞬フリーズした。


(し、次……!?)


 金髪ゆるふわギャル爆誕までの道は、思っていた以上に加速度的だった。


 そしてこの時、俺はまだ知らなかった。

 “レベル3”が、俺の人生に最大級のイベントを持ってくることを――。

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