第5話 清楚少女、突然の垢抜けで学校騒然!? 俺のプロデュースが火を吹いた日

 月曜日の朝。

 教室に向かう俺――村杉拳の心臓は、もう登校時点でバクバクしていた。


(あ、甘井さん……ちゃんとメイクして来るって言ってたよな……?

俺のアドバイスで……?

大丈夫か……?)


 いや、昨日めちゃくちゃ可愛かった。

 問題はない。ないはずだ。

 ただ――


(クラスの反応が怖い……!)


 清楚の象徴だった甘井凛花が、突然垢抜けて登場するわけだ。

 そりゃ誰だって驚く。


 そう思いながらガラッと教室のドアを開けると――


「――えっ? 誰、あの子……?」


「え、待って、あれ甘井さん? マジで?」


「うそ……めっちゃ可愛くね? 昨日までと別人じゃん……!」


 教室の空気がおかしい。

 ざわつき方が“転校生が芸能人だった時”のそれ。


(ま、まさか……もう来てるのか!?)


 俺は席へ急いだ。


 そして、見た。


「あ、村杉くん。おはよう……」


 甘井さんが、にこっと笑った。


(…………お、おおおおおい!?)


 昨日の“試しメイク”よりも調整されていて、今日はさらに完成度が高い。


 茶髪の外ハネ気味の毛先。

 薄すぎず濃すぎない、ほんのりキラッとした目元。

 白カーディガンと淡いスカートと相まって、完全に“垢抜けた女子”になっていた。


 いや、もうすでに“ゆるかわ寄りギャル”の入り口に立ってる。


「お、おはよ……甘井さん」


「えへへ……どう? 気合入れたよ?」


 控えめな笑みなのに、破壊力が強すぎる。


 もちろんクラスの視線は集中砲火だ。


「おい、マジで甘井かよ……化粧するとヤバ……」


「え、てか普通に可愛い……」


「誰だよ急に開花させたの……」


 などなど、小声で囁かれているが全部聞こえる。


(やばい……完全に火付けてしまった……!

俺のプロデュース、破壊力強すぎないか……!?)


◆ ◆ ◆


 ホームルーム開始直前。

 甘井さんは、俺の席の隣にすっと近寄ってきた。


「村杉くん……あのね」


「ん?」


「今日……みんなの反応が、思ったよりすごくて……」


(不安だったのか!?)


「だ、大丈夫だった? 引かれたりしてない?」


 俺がそう聞くと、甘井さんはふるふると首を振った。


「ううん……。むしろ、嬉しかったの」


「え?」


「だって……“変わったね”って言われるのって、ちょっと怖いけど……

でもそれって、“変われた”ってことなんだよね?」


 そう言う甘井さんの表情は、昨日よりもずっと自信に満ちていた。


「それに……」


「それに?」


 甘井さんは俺の袖をそっとつまんだ。


「村杉くん、ちゃんと気づいてくれた。

 それだけで、今日のチャレンジ……大成功だよ」


(――うわぁぁぁあああ!! 可愛い!!)


 その瞬間。

 前の席の女子の囁き声が聞こえた。


「ねぇ……甘井さん、村杉くんと仲よくない?」


「なんか最近、よく話してない? え、もしかして……」


「村杉くん、清楚系好きだったっけ?」


(ちょ、やめろ! 俺なんもしてない!!)


 焦る俺をよそに、甘井さんはふわっと笑って――


「じゃあ……今日もよろしくね、プロデューサー?」


「っ!!」


 “俺にだけ聞こえる小声”で、それを言った。


 反則すぎる。


◆ ◆ ◆


 そして休み時間。

 ついに事件は起こる。


「甘井さーん! あとでメイク教えてー!」


「どこの化粧品使ってるの? めっちゃ自然で可愛い!」


「髪色も似合ってる。どこの美容院行ったの?」


 女子が集まり始めた。


 同時に男子の視線も増える。


(あれ……なんか……俺の領域が……狙われてる??)


 不思議な焦りが胸に広がる。


 でも甘井さんは、俺の方をちらっと見て、軽く微笑んだだけで――

 そんな囲まれた状況でも、全然嬉しそうじゃなかった。


(なんで……?)


 すると女子に囲まれながら、俺だけに聞こえる声でぼそっと。


「……早く、次に進みたいな」


「つ、次……?」


(え、金髪イベント……もう来る!? でも今日はダメって言ってたし……)


「……“私だけのレベルアップ”、ね」


 意味深に言う甘井さん。


(え、怖い怖い怖い、なにそれ……!!

俺だけの……ってどういう意味だよ!!)


 こうして――

 甘井凛花の“レベル3:メイク編”は、学校中に衝撃を与える形で成功した。


 次なるレベルは、まだ始まらない。

 だが、確実に近づいている。

 俺にだけ優しい金髪ゆるふわ白ギャルへの道が。

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