ep3-7
その夕方、別館のホールでクリスカさんを歓迎する細やかなパーティーが開かれました。手の空いている旅館の女将や仲居、近所の方々、そしてどこからともなく現れたのか彼女の友人達まで。後で聞いた話ですが、前々から企画していたのだそう。唐突に来ては突然いなくなる風のような吸血鬼のクリスカさんによくぞまぁ付き合いきれる人達です。
勿論、買い出しもきちんと済ませました。二人で知恵を絞って地元の魚やお酒、野菜を選りすぐり買ってきました。
広々としたホールに垂らされたシャンデリアの袂。着慣れない蒼の夜会服で両手に皮のハンドバックを握りしめ会場入りした私は、深紅のドレスに身を包む主役の姿に一目を奪われます。
「綺麗……」
不意に出た言葉にクリスカさんもちょっと照れ、
「そ、そう。貴方も綺麗よ。私と対を成すような青いドレスで」
褒められて私達はもじもじと立ち竦みました。そこへ漆黒と純白が織り成すタキシード姿で好かない表情の薫さんと桃色の和服で着飾った美喜恵さんが寄ってきて尋ねます。
「んで、どうして私はタキシードなのか説明してほしいんだが」
「だって。ボーイッシュでクールな貴方にはピッタリだと思ったのよ。薫ちゃん」
「薫ちゃんって美喜恵さん」
「怒っちゃったかしら?」
「照れてるのよ。薫のこと、まだ知らないけどようやく掴めてきた」
「うっさいクリスカ」
図星のようです。
「さぁて食事を嗜みましょう」
「飲み過ぎないでよ美喜恵。貴方、お酒入ると見境なくなるんだから」
「見境が無くなる?」
「あぁクリスカったら」
「この子、お酒入ると陽気になってくだ巻くから光莉と薫は気を付けた方が良いわよ」
「まだ酒は飲めない。年齢的にな」
「同じくです」
「あなただって、好きな子に対してとっても積極的になる癖に」
「あは、あははは」
ついぞと出た苦笑い。私と薫さんはまだ飲酒できないので、お酒の楽しみ方や付き合い方にイメージが付きません。
きっと酌み交わすと楽しいのでしょう。だから箍が外れるまで飲める。空想かも知れませんが、二人が言うにはそんなイメージを抱きます。
「ねぇ光莉、後で夜景を見ましょう。せっかくだから」
「パーティーが終わってからぜひ」
「いえ、それじゃあダメなの」
「へ?」
這うようにクリスカさんの口が耳元に寄って、
「抜け出して二人だけで見に行きたいの。だから私を連れ出して」
美喜恵さんや薫さんにも聞かれないよう、ひっそりと私に言い募ります。吐息でこそばゆくて声が漏れそうになるのを我慢して後は頷くだけ。
そして私達の隠密脱出劇が幕を開けるのでした。
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