ep3-4

 豪勢な朝ごはんを終えると、美喜恵さんから街へ繰り出してはどうかと嗾けられたので、薫さんを連れて湯楽屋を飛び出しました。


 駅から電車に揺られて、行く道を辿るように戻って金沢駅へ。全てはクリスカさんはまだ起きないからサプライズ用の食材を買い出してきて欲しいという言葉からでした。


「事前に特急券まで用意しているなんて思っても見なかった」

「クリスカさんが聴いたら、さぞ羨んだでしょうね」


 能登半島の奥地、七尾や和倉温泉から金沢へ出るには普通電車か特急電車の二者択一。頼まれてから差し出された特急券を最初は拒みましたが、勢いに気圧されて現在、四葉のマークが描かれた昔で言うところの一等車の一人座席を回転させて、薫さんと相対しています。


「予算ねと渡された封筒然り、あのおばさんの金銭感覚がまるで掴めない」


 今にも破裂しそうなほど膨らんだ封筒。メモとサプライズの為の予算が仕込まれていると言い、列車の乗ったらそおれを開けても良いと仰せつかっていました。


 早速開封。札束を横目に一緒になっていた用紙を広げます。


「……あの」


 中身に思わず絶句しました。


「どうした?」と薫さんが上から覗くようにして眼をやります。

「白紙……か」

「白紙ですね」


 真っ白な紙。車内の照明を悉く反射する純白無垢な紙。


「本当に奇妙で、天邪鬼なおばさんだ。しかも思惑深い」

「私達で考えて揃えてくれってことですか」


 途方もない難題でした。というのも、私達二人はまだ出会ってそう長く経っていないからです。


 クリスカさんの事をあまりにも知らなすぎる。無理はなく、彼女が自身の事を語るのは稀であって、薫さんと首を傾げて訝しみます。


「考えても始まらないな。なんか心当たりがあるものはないか?」

「えっと、血」

「またクリスカらしいな、というか吸血鬼だったものな。だがどうする? 吸血鬼が一般にいるとは言え、小売店では取り扱ってない。別の物にしよう。他にないか?」


 尋ねられますが、他に思い当たることと言えば……これは食べ物ではないですね。


「んー食べ物限定ですもんね」

「他にあったら、何を送ろうとしてたんだ?」

「クリスカさんとの旅の歴がほんのちょっと長いだけですけど彼女、飛行機とかバスとか絶対に使わないんですよ。強いて言えばこの前乗ったタクシーくらいで」


 前置きに耳を向けていた薫さんが察したように視線を眇めます。


「まさか、電車を送ろうとか考えてなかったよな?」

「ご名答です! 凄い、やっぱり作家の方ってそういう人の考えとか読めちゃうんですか?」

「何となく察しはついていた気がする。ここへ来るのも列車だったから。ってか、電車なんて送ったってどこに置くのだ」

「チッチッチー甘いですよ薫さん」

「なんか唐突にキャラ変わり出したな」

「何も動かない電車を送ろうなんて考えていません。どうせなら動く電車を送ればいいんですよ。常に移動するクリスカさんにとってはまさに動くお屋敷。南へ北へクリスカさんの思うがまま、自由です」

「食材に限定されていて良かったよ」


 薫さんの嘆息を一つこぼしました。


「でも食べ物限定だと、そうですねぇ」

「のどぐろとかカニはありきたりだよな。北陸と言ったら如何にって感じだが」

「サプライズ……サプライズ」


 巡るめく思考ですが、とても正解には辿り着けそうになく、車窓と時間だけが流れていきます。


「まぁ考えても仕方がない。街へ出て着の身着のまま回りながら探そう」


 ないものを強請ってもラチがあかない。そう察して私達は考えることをやめました。


「でも、ちょっと歯切れが悪い」

「歯切れが悪い?」

「恋人と言うには距離が開きすぎているようにも思える。どちらかと言えば親友だ」

「ちょっとユニークな人でしたから冗談の一種では?」


「うーん」と顎に手を添えて唸る薫さん。どうにもあの違和感を払拭できないようです。


「二人の間柄だし、詮索は禁物だな」

「ですね」


 そう言うと、雲が浮かぶ青い寒空を眺めていました。

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