ep2-12?
閑話休題。連絡船を降りて数週間、青森で滞在した後の事。列車が光拒む宵闇に発つ直前のお話です。
「あっ今川焼」
駅構内のメインストリート。地元のお土産屋台がずらりと軒を連ねる中に、クリスカさんが一際異彩を放つお店を見つけて袖を引っ張り呼びました。
何枚もの円盤状の鉄板が並んだガス台で焼かれるきつね色のお菓子。あんこやカスタードを中へ入れて食べる今川焼です。
けれど私がすかさず、
「いえ、アレは今川焼ではなく大判焼きです」
「そうとも言うな」
「買っていかれます? 大判焼き」
「今川焼じゃないの?」
「大判焼きです」
訂正して頑なに譲りません。紅い暖簾には黒い文字でしかと大判焼きと書かれています。
世の中には名称や好みの争いが付きません。犬か猫か、ケチャップかマヨネーズか、あんこかカスタードか、半熟か固焼きか、きのこかタケノコかなどなど。数えていてはキリがないほど。
かくいうこの目の前で次々と焼かれるコレも例外ではなく、しかも二者択一ではないのでした。
足を止めて私と眇めた瞳で微笑するクリスカさんの視線が交錯しました。
「光莉は、そう呼んでいるんだ」
「大判焼きでしかないです。むしろ他の呼び方は初耳です」
「でも今川焼がしっくりこないかしら?」
「そうでしょうか?」
「ちなみに地域で呼び方が違いみたいだ。関東圏は今川焼で通用している」
「我が家では大判焼きと呼んでいるんです。関東ですけど」
「珍しいな。するとご両親のルーツは関東圏外か」
割って薫がその差違を説き解くと、「なるほど」と私は納得していました。
「まぁ、どっちでもいいわ」
そう言って、クリスカさんが屋台に寄って行き、私達も背中を追うように遅れてやってきます。
「カスタードを三枚」
「はいよ、回転焼きカスタード三枚!」
私とクリスカさんは思いっきりずっこけました。それはもう、建物も揺らす勢いで、足を滑らせて。
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