第11話 雨月先生のモンスター討伐講座 開講
「さて、頼まれたのはレベリングとモンスターの討伐方法についてだけど……どちらからやりたいとかある?」
中層エリア51階にやってきた北斗達一行。
くるり、とフォルトゥナへと振り返り尋ねれば、4人は困ったように言葉に詰まる。どちらも大切で学びたいことであるが故にどちらを優先すべきか即答が難しいのだろう。
「んー、ならまずはレベリングについてからやろうか。まず、坊ちゃん達は今までどういうふうにレベリングをしていたか教えてもらえるかい?」
「え?ど、どんなふうに……?その、とりあえず接敵したモンスターは全部倒していました」
「成程。じゃあもう一つ質問を。経験値効率の良いモンスターがいることはご存知?」
投げかけられたその質問に、4人が応えを返すことはなかった。
何を聞かれているのかがわからないらしく、揃って首を傾げてポカンとしている。
あー……まあそんな反応になるわなあ。
「了解、まずはそこから話していきましょうかね。そのためにはまずは俺のスキルの一つを話さないといけないんだけど……俺の持っているスキルの一つ、『神眼』っていう名前なんだけどねえ、基本的にこのスキルを使った対象について見抜けないものはないんだ。それで、このスキルで対象…つまりモンスターを鑑定した時に見えるんだよ、どのモンスターがより多く経験値がもらえるのか」
「え……?そ、それってとんでもなくすごい発見なんじゃ……」
「だろうねえ。普通はそんなこと見抜けないから片っ端からモンスターを狩らないといけないし、先達たちも様々なモンスターを倒した上でなんとなくこのモンスターを倒したら経験値多いな、で覚えたりしてる。ただまぁ、今回は特別に教えるよ。坊ちゃん達の強くなりたいって気持ちに偽りはないだろうし、本気で言ってくれている子には俺も本気で応えないとね」
北斗の言葉にハルト達は真剣な顔をして聞く体制をとった。
下層エリア以降、特に深層・深淵エリアを目指す探索者を除けば大半の者は知ることがない情報なのだが、世界各地にあるこのダンジョンにもゲームにいるような経験値が大量に獲得できるモンスターというのが存在する。
ハルト達に合わせて説明するのであれば、中層エリアで一番わかりやすいのはメタル系と呼ばれているモンスター。体がレアメタルと称されている鉱物と同じもので覆われていたり、レアメタルそのものだったりするモンスターの総称である。
その中でも経験値効率が特に良いモンスターをいくつか例にあげよう。
まずはミスリルスライム。名前の通り全身がミスリルで構成されているスライムである。
ではこのスライムは強いのか?
答えは否。物凄く硬いだけであって強さは普通のスライムとなんら変わらないのである。ただその硬さが厄介でなかなか倒すのに苦労するうえ、ドロップ品も小魔石と極々稀に指の爪程度の大きさのミスリル鉱石と亜種モンスターの中ではそこまで良い物ではないため、ほとんどの探索者は無視して進んでいくことが多い。
次にミスリルリザード。巨大なトカゲに似た姿をしたモンスターで、通常のトカゲでいう皮膚部分がミスリルに覆われている。
これだけ聞くとミスリルスライム同様に硬く倒すのが困難に思われるが、実はそうでもない。
このミスリルリザード、腹側の皮膚は覆われてはおらず普通の爬虫類のそれとほぼ同じなため、設置型の罠などを使うか魔法を駆使すればそこまで苦戦せずに倒すことが出来るのだ。とはいえ中層エリアモンスターのため舐めてかかれば痛い目は見るので注意である。
ここで注意して欲しいのが上記2種は中層エリアのみにポップするモンスターである事。
これだけ聞くと下層エリアへ進むごとにレベルは上がるから効率が悪くないか?下層エリアにはそんなモンスターはいないのか?と思うだろうが、問題はない。
中層エリアの深部近くになってくるとガラリと変わってアンデット系、ゴースト系のモンスターが沸く階層が現れる。
中でも経験値効率がいいのはファントムと呼ばれるゴースト系のモンスター。地縛霊とも呼ばれるファントムはダンジョン中を徘徊するモンスターの中でも異質で、一定の場所から動かず近寄ってきた探索者を襲う習性を持つ。その習性を利用して1人がヘイトを買い、魔法が使える者が離れた場所から攻撃するという形が取れれば十分に安全マージンをとって倒すことが出来る。
下層エリアにまで進むと次に登場するのはゴーレム系モンスターの亜種、ジュエルゴーレム。
名は体を表すという言葉の通り、全身が何かしらの宝石が埋め込まれているゴーレムである。このモンスター経験値効率ではいうまでもなく、倒すと必ず宝石もドロップすることから下層エリア常連の探索者からは金蔓と呼ばれていたりもするちょっと哀れなモンスターである。
ただし下層エリアにポップするモンスターには変わりないので普通に強い。なんの対策もせずに迂闊に近寄り踏み潰されるか壁に叩きつけられて命を落とす探索者も少なくないので要注意なモンスターだ。
であれば倒し方も面倒なのか?と言われると面倒ではあるが単純でもある。
ジュエルゴーレムの弱点は、他の階層にポップするゴーレム達と同様で
「てな感じかねえ。もちろん他にも経験値の高いモンスターはいるんだが、群れを成しているか、個々が凄まじい力を持つモンスターばかり。効率よく倒すなら今紹介したあたりを狙うのがいいだろうな」
「ちなみに、他のモンスターっていうのは?」
「ドラゴン系、ユニーク系、あとはエリアボス。簡単に纏めてしまうと得られる経験値は高いけれど命の危険あり。リスクとリターンの比率があってないからオススメはできんね。他に質問はあるかい?」
「あの、経験値ってどのくらい入手できるものなんでしょうか。レベルは探索者カードで確認出来るのは知っているんですが……」
え、と小さく声が漏れた。
まさか最近はその辺を教えていないのか?だとしたらこれは雅にしっかり伝えろって説教案件になるんだが。
北斗は徐に己の探索者カードを取り出し、『ステータスオープン』と呟く。
彼の言葉に呼応するように、何も書かれていなかったカードの裏面に幾つかの情報が浮き出たのだった。
「探索者カードっていうのは基本、表面には自分の名前、ランク、レベル、所属があれば所属が記載される。んで、裏面は何もしなければまっさらだけど今みたいに『ステータスオープン』と言えばこんなふうに今の自分の経験値がどのくらい溜まっているのか、細かいステータス、所有スキルなんかが表示されるんだ。試しにやってみな、出てくるから」
4人はすぐに各々の探索者カードを取り出し試しており、北斗の言った通りに情報が表示されたことに目を丸くしていた。
先ほどの北斗の懸念はあたりだったらしく、教えられていないのかと確認の意味も込めて尋ねれば揃って首を縦に振る。
……これは、説教確定だな。モンスターを見て経験値の可視化は基本不可能だが、このカードを見ればおおよその経験値は察することが出来るってのに。
「今まで知らなかった…ってことは、自分たちがどのモンスターを倒しておおよそどのくらいの経験値を得て、次のレベルまで経験値がいくつ必要かもわからなかったってことだよなあ……?」
「はい……その、経験値ってモンスターごとにどのくらい得られるんでしょうか…?」
「んー……モンスターによって違うって言ってしまえばそれでお終いだからねえ。ざっくり教えておくと、最低経験値は20で、対象モンスターでいうと初心者用ダンジョンにポップするゴブリン、スライム、スケルトンあたりがそう。でも他の階層に出現するこいつらまでそうとは限らなくて、そこから下の階層へ下がっていくごとに得られる経験値は増えていく。ただ、申し訳ないけど最高経験値は俺にもわからんのよ。おそらく深淵エリアがそうなんだろうけど、いまだにあそこは情報が少ないんでね」
「……じゃあ、先輩探索者が言ってた、1レベル上げるにはモンスターを100体討伐しないといけないっていうのは、嘘……?」
うわあ…なんだその脳筋的思考。効率悪いし、得られる経験値も下がるってのに。なんで雅はそこのところをしっかりと伝えてないんだ?
「数倒せばレベルは上がるから全くの嘘ってわけじゃないけど…経験値ってのはレベルが上がるごとに要求値は上がるし、レベルが上がると浅い階層で得られる経験値も少なくなってくる。坊ちゃん達は……全員レベル100は超えてるのか、ならもう上層のさらに上の階層じゃ1体のモンスターにつき経験値1から5の間で得られればいい方だろうな。つまりその状態で100体倒したとしてもどんなに良くても経験値は500しか得られない。倒すだけ時間の無駄になる」
効率よくレベルを上げるにはさっき言ったような経験値効率のいいモンスターを倒すのが最適なんだよ。
中にはゲームのレベルアップの裏技みたいで嫌だって探索者もいるが、現実ではレベルの高さ=己の生存確率の高さに比例する。
坊ちゃんたちのように誰かを守る強さを得たいのであれば、尚のこと効率良くレベルをあげた方がいい。
からかいの色など一切ない真剣な声音に4人は聞き逃すまいと耳を傾ける。もとよりその為に北斗へ指導を依頼したのだから。
「もう一つ言っておきたいのは、まぁ坊ちゃんたちなら大丈夫だろうけれど必ず戦闘には参加した上で経験値を取得すること」
ダンジョンの特性上パーティを組んでいたら別の人間がモンスターにとどめをさしても経験値は貰える。
探索者の中には下の階層に行きたいからレベルは上げたい、でも、ちまちまと戦うことは面倒臭いからと経験値が得られるそのシステムを利用してパーティメンバーにばかり倒させて自分は何もしない者も少なくない。
前回の配信で話した探索者ランクと似たようなもので、実戦経験を積むことなくレベルだけが上がった紛い物の強さは命を危険に晒すだけ。
これならまだこの裏技的レベリング方法を嫌がって堅実に研鑽を積んでいる探索者の方がよっぽどいい。
「経験値はこのカードに書いてあるみたいに目に見える物だけじゃない。モンスターとの戦闘で学んだ全ても数値には出来なくても大切だからね。疎かにしたらどこかで簡単に崩される」
「はい」
うん、いい子たちだねえ。
こうやって素直に聞いてくれるならいいんだけれど、余計なお世話だって吐き捨てて聞き入れてくれない探索者の方が多いからなあ。なまじプライドが高いと他人の忠告って受け止められないんだろうね。
「さて、ここまで説明を長々したけど実践をしなきゃ実感は沸かないだろうから早速始めようか。あちらさんもお出ましみたいだからな」
ずず、ずず……。
金属を引きずっているような不快な音が響く。
やがて全員の前に姿を見せたのは、銀灰色の塊……ではなく。
まさに今話に出ていたミスリルスライムだった。
あとがき
またしても説明回になりました。
経験値を本当は数値にしてみたかったけどどこかで辻褄が合わなくなりそうで断念。
私は、好きなゲームで経験値が大量にもらえる敵を倒しまくっていたくらいレベル上げ大好き人間でした。レベル上げて無双するの、楽しいですよね。
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