第12話 雨月先生のモンスター討伐講座 実践
「それじゃあ、早速このミスリルスライムを倒してみようか。ここは60階、普通のモンスターならいざ知らず、ミスリルスライム相手ならそれなりの経験値が貰えるのは保証するし、俺が手を出さなくても4人だけで十分戦えるだろうから」
ケロリとそんなことを言い出す北斗に目を向くことになるハルト達。
実際の戦い方を見せてくれるのではないのか?と挙動不審になっていると、流石に言葉が足りなかったねと苦笑しながら北斗が言葉を続けた。
「勿論戦い方は伝えるよ。最初は俺が手本を見せることも考えたんだけどねえ…俺の戦い方って基本的に太刀で真っ二つだから手本にすらならないんだよ。じゃあ俺の真似をして真っ二つにしてみてねって言われる方が困るだろう?」
確かに、と4人の心の声が一致する。
レベルは下とはいえそれなりの硬度を持つモンスターを一刀両断するなど無茶にも程がある。
「まず、ミスリルスライムっていうのは体がミスリルで出来ているから魔法が伝わりやすい、裏を返せば魔法があんまり効かないんだ。だから基本攻撃は物理なんだけど……これまたミスリルスライムっていうのは硬い。下手すると剣が欠けるレベルでねえ。じゃあどうするかって話だけど……坊ちゃん達ならどうすればいいと思う?」
「え、えっと……物理攻撃で倒すには斬りつけ続ける、とか……?」
いきなり意地悪を言いすぎたか。
でもこうやって自分で考えることも大事だからなあ。
「正解は一つじゃないけれど、そうだな……例えば坊ちゃんだったら支援魔法使いの嬢ちゃんが坊ちゃんと剣の両方に強化魔法をかけてその状態で斬りつける、っていうのは有り。攻撃魔法使いの嬢ちゃん、弓使いの嬢ちゃんも同様で、支援魔法使いの嬢ちゃんが強化魔法をかけてから攻撃してみるといい。今のレベルなら、それだけでしっかりと倒せるはずだ」
「え……武器に、強化魔法が掛けられるんですか?」
「掛けられる。騙されたと思って試しみな?」
北斗がはっきりと言い切っても半信半疑らしい様子に苦笑しつつ、まずはハルトからと戦闘準備を取らせる。
リオは肉体へ身体強化の魔法を、剣には耐久強化の魔法をそれぞれかけた。
本当に掛けられたんだと目を丸くしつつ、準備が整ったと緊張で引き攣った顔をしながらもハルトはミスリルスライムへと近づいた。
中層エリアまで潜ってきただけの実力はあり構えに隙は無い。
ミスリルスライムがハルトの姿に気付き戦闘態勢に入ったのを目視した瞬間肉薄し、剣を振り下ろす。
金属同士がぶつかり合う耳障りな音と共に剣が弾かれる……ことはなく。
まるで今目の前にあるのはスライムの形をした豆腐ですと言われてもおかしく無いほどいとも容易くミスリル製のその体を斬り裂いた。
「…………え?」
手に伝わる筈の衝撃が無かった。
斬り捨てた感触が無かった。
なのに実際目の前にはすでに消え掛かっている真っ二つに斬り裂かれたミスリルスライムの姿があって。
ハルトたちフォルトゥナは中層エリアを活動範囲にしているからこそミスリルスライムとも戦ったことはある。
その時は擦り傷のような一撃しか与えられず武器も折れ、撤退を余儀なくされたというのに。
ハルトはしばし呆然とし、やがてゆっくりと北斗や仲間のいる後ろを振り返った。
「雨月さん……コレ、ナンデスカ……??」
「言った通り。坊ちゃんたちの実力なら倒せるってね。肉体に強化魔法をかけて能力が向上しても、武器がそれに比例しなけりゃ斬り裂けないしむしろ武器が馬鹿になる。これまでに武器の破損、結構多かったんじゃないか?」
「確かに、僕の剣何度も折れてて買い直しをしてます。自分の実力不足で上手く扱えてないだけだと思っていたのに……」
「私も……矢を射ても速度と威力は上がるのにそれに耐えきれなくて矢が折れたりすることあったけど強化した自分の力のせいだったなんて思いもしなかったわ」
「私も一緒。杖が耐えきれなくてヒビが入ったりしてた。出費が痛かった記憶があります…」
「私の支援魔法のレベルが低すぎて効果があまり無いのだと思っていたのですが……使用者だけを強化してしまったから武器が耐えられなかっただけだなんて……己の無知を恥じるばかりです」
衝撃の事実を知らされた4人はずぅん……と負のオーラを纏って落ち込む。今までの苦労が簡単に解決したとあっては仕方がないことなのだろうが。
ありゃ‥落ち込ませちまったなあ。でも、コレを知ってるのと知らないのとじゃ戦闘効率も危機に直面した時に切り抜ける方ができる確率も段違いだから、知っておいて欲しいんだよな。
「……ちなみに、雨月さんは強化魔法などは使われているんですか?」
「いや?俺は魔法は使えないから純粋にスキルの恩恵とレベルで強化された肉体で勝負って感じ」
ほらこんな風に。
無造作に太刀を構えたかと思えば目を向けることもせずに背後に迫っていたミスリルリザードの首を斬り落とした。
勿論この間ユニークアイテムを使ったなんてこともなければ何か魔法を行使してもいない。
純粋な、北斗の力での討伐。
ミスリルスライムですら強化魔法で強化してようやく危なげなく討伐出来たハルト達からすれば、何次元も上の実力。
ミスリルスライムを一撃で倒した時とは別の理由で固まってしまったハルトたちの姿に、今度は覚えのない北斗は首を傾げる。
「坊ちゃん達どうしたんだ??もしかして気分が悪いのかい?ごめんな、気が利かなくて。少し休憩するか??」
「い、いえ!!大丈夫です!」
「そうか?なら次に行くけど…無理は禁物、何かあったら言うんだよ?」
4人の事を気にかけつつも指導を続けてゆく北斗。
「アイスバレット!!」
セイナには炎や水といった形状が変化し威力が分散しやすいものよりも氷、岩といった物理的な威力も高い魔法を展開するように。
「核を射抜くように…ここ!!」
アカネには強化魔法を掛けてもらった上で矢尻に魔力を込めて威力を上げるように。
ハルトは復習として単体もミスリルスライムを斬り捨てていた。
1時間弱それを続ければ、魔法を掛け続けたリオの支援魔法の精度も効果も上がり、残りの3人は難なくミスリルスライムを倒せるようになっていた。
レベルもそれぞれが110と10も上がり、北斗は満足げに微笑む。
「4人とも安定して戦えてるな。流石だよ。これならミスリルリザードとも問題なく戦えそうだねえ」
「ありがとうございます!でも、ミスリルリザードはスライムとは違って動きも素早いですしどう対処すればいいのか…」
「そこは適材適所、ってね。ヒントとして、ミスリルリザードは腹部側はミスリルに覆われてない」
答えばかり教えていては考える力が弱まっていざという時の判断が出来なくなってしまうことがあるからねえ。
ニコニコと微笑む北斗に見守られながら4人は作戦を練り始めるが、すぐに答えに辿り着く。
「セイナ、君の魔法でミスリルリザードを串刺しに出来そうかな?それで倒せるのであれば御の字、もしも生きていれば僕とアカネでトドメを刺しに行く。リオは僕ら3人に強化魔法をお願い出来るかな」
うん、正解。
言葉には出さずに心の中で頷き、ハルト達が考えた通りに好きに戦ってみろと促す。
「まずはみんなに強化魔法を!」
身体強化、耐久強化、魔力強化、移動速度上昇の4つの支援魔法を同時展開し3人を強化するリオ。
その展開速度も始めた当初に比べれば倍以上に早まっていた。
「行くわよ……!ロックスピア!」
セイナの声に応えるようにダンジョンの地面が蠢きミスリルリザードの顎を穿つ。
背中側とは違い比較的薄い皮膚を貫いた岩の槍は動きを止めるには至っていたが絶命には至らず呻き声と共に槍から逃れようと地団駄を踏んでいた。
「今よ!アカネ!」
「任せて!」
セイナの声に応えると同時に2本の矢をほぼ時間差無しで放つアカネ。
寸分の狂いなくミスリルリザードに向かうそれは両の眼へと突き刺さる。
「最後お願い、ハルト!」
「ああ!」
動きを封じられ、視界を潰されたとはいえミスリルリザードが脅威であることは変わらない。
尻尾を振り回し、ダンジョンの壁や床を瓦礫に変えながら暴れるミスリルリザードへ肉薄したハルトは躊躇なく剣を首へと振り下ろした。
刹那の沈黙の後、ゴトリと鈍い音を立てて落ちる首。
ハルト達の作戦が通じ、勝利した瞬間だった。
あとがき
今回はちょっと短め。
レベリングを全て書いていたらとんでもなく長くて読みづらい文章になってしまったので修正しまくってたらこうなりました。
そして11話でフォルトゥナのレベルが60と書いていたのを100に訂正しました。実は10話で4人のレベルが3桁超えてるだろう?と北斗くんが言ってるんですよね。それをすっかり忘れて弱体化していました。反省です。
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