第15話 クリスマスの思い出

「困ったことになりました。」


星が腕を組み、うーん、と唸った。

と言うのも、星の部屋の浴槽が故障してしまったのだ。原因は空焚きで、星が寝不足でぼんやりしていたことが原因だという。

アパートの大家に連絡をし、業者が入って修理することになったがその期間に一週間を要するらしい。


「そう?」


みつきも気が付かなかった部分では星のことを責めることができないし、する気もない。


「一週間、風呂無しってさすがに乙女としては抵抗があります。」

「まあ…。お湯を沸かして、たらいに貯めて入るでもいいけどね。私は。」


みつきは監禁される前は、シャワー浴で済ますことが多かった。一方で星が風呂好きだったために、最近はちゃんと浴槽で肩まで浸かる生活が続いている。


「入浴は命の洗濯ですよ。…そう言えばみつきさんって入浴時間、短かったような。」


星は口元に手を当て、首を傾げた。


「お風呂ってそんなに好きじゃないんだよ。体力使うし、髪の毛を乾かすの面倒だし。」


長い毛先を指で弄りながら、みつきは言う。体臭や汗など気にならなければ、入りたくないぐらいだった。


「みつきさん。」


星にいきなり肩を掴まれる。


「何よ。」

「銭湯に行きましょう。今から。」


時計を見ると、今は昼間の午後3時。丁度、銭湯に新しいお湯が張り、暖簾がかかる時間だった。


「えー。」

「一番風呂の気持ちよさを教えてあげます!それにずっと引きこもってたら、みつきさん暇でしょ?」

「別に、インドア派だから苦じゃないんだけど…。」


みつきの言葉を無視して、星は楽しそうに銭湯に行く準備を始めるのだった。


足輪は入浴時に外されるが、まさか外出するために外されるとは思わなかった。

久しぶりに出た街は、すっかりクリスマスムードに満ちている。

商店街のアーケードには大きなリースが飾られ、所々にサンタクロースの人形が置かれていた。店先にはクリスマスツリーが置かれ、金銀様々なオーナメントが飾られている。パティスリーではケーキ予約のポスターが貼られ、大手コンビニのチェーン店では骨付きチキンの宣伝用の音源が流れていた。


「どうですか、久しぶりの外は。」

「浮かれてんなーって感じ。」


みつきは楽しかったクリスマスの思い出があまり無い。頼った親戚は高齢。そして厳格な家柄で、そもそもクリスマスに縁がなかった。だからクリスマスやサンタクロースは別の世界線の行事で、自分には関係のないことだと思っていた。

その旨を星にさりげなく話すと、激しく同意された。


「私がいた施設でも一応、クリスマスのパーティーみたいなのはあったんですけど、どうしても大人に遠慮しがちなんですよ。自分よりも小さな子たち優先っていうか…。プレゼントも、文房具だったり。もらえるだけありがたいんですけど、でも、どうしてもおもちゃがほしいときもあって。」

「ああ。私も、もらえたものはノートとか消耗品だったな。それで学校では友だちがプレゼント自慢しているのを、聞いてるしかなかったよね。」

「そうそう。」


今でこそ、笑って話すことができる。そして、その話題を不憫に思われることがなく、むしろ同意して受け入れてもらえる心地よさが、嬉しかった。

二人は、商店街の中心にある大きなクリスマスツリーの前で立ち止まった。


「…必ずしも、クリスマスが嬉しい日ってわけじゃないんですよね。」

「…。」


星の視線を追って、みつきもツリーを見上げる。天辺には、大きな金色の星が輝いていた。

星との関係は、いつまで続くのだろうと思う。クリスマスまで続くのなら、今年の聖夜は嬉しい日のような気がした。

だけど星の心臓がその日までもつのかわかるはずもなく、下手な約束はしないことにした。

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